【このクルマなんぼ?】真の名ポルシェ ポルシェ911カレラRS 2.7ライトウェイト その価値は?
2020年10月10日
ポルシェ911カレラRS 2.7ライトウェイト
このライトウェイトRS 2.7は落札してくれる人を見つけることができなかった…。たった200台のみ作られたポルシェ911カレラRS 2.7ライトウェイトの1台がRMサザビーズのオークションに出品されたものの、その希望落札価格は天文学的な金額だったからだ。
期間中には世界に名だたるペブルビーチコンクールデレガンスも開催される、モントレーオートウィーク中のクラシックカーオークションに、数年前、伝説のポルシェ911カレラRS 2.7が出品されたが、買い手を見つけることはできなかった。
この車両は、レースへの参加条件をクリアするために作られた、最初の500台のホモロゲーションモデルの1台であり、ライトウェイトバージョンとしては200台しかないうちの1台だ。
しかし、完璧なレーシングヒストリーとメンテナンスドキュメントにもかかわらず、残念ながら入札者は見つからなかった。
シャーシ番号0354のポルシェは、もともとは1974年に、別のカレラRS 2.7でスイスチャンピオンに輝いたレーシングドライバー、ペーター ツビンデンの個人所有車に納品されたものだ。
鮮やかな黄色のRS 2.7は、その後、イギリスやアメリカなどに上陸し、様々なオーナーの手を経て今に至る。
サザビーズはこの車の価値を95万ドル(約1億円)と見積もっていたが、ホットな911は、さすがにどのバイヤーにとっても高価すぎたようで、誰からも手は上がらなかった。
伝説のステータスはどこから来るのか?
RSは、それがベースになっている911 S 2.4(190~210馬力)と比べても、それほど強力なわけではない。
また、10年ほど年下のポルシェ924 GTS(1959~1580馬力)ほど、残忍で妥協のない、希少性の高いモデルでもない。
有名な356スピードスターよりもコストが高く、初代911ターボよりも何倍も高い。
では、911カレラRS 2.7の魅力とはいったいどこにあるのだろうか?
勝つための車
RSの開発にはわずか半年しかかかっていない。
エンジンはドリルアウトされ、リアスポイラー「ビュルツェル(Bürzel)」は、風洞での数日の実験の後に完成した。エンジニアとデザイナーが手作業で簡単な模型を作り、一緒にデザインした。
個々のパーツごとに、パッケージ全体がレースに勝つことができなければならないという要件があった。
新しい911は、ユーザーの人たちに、「日常生活に対応できるレーシングカー」というコンセプトを受け入れられることが条件だった。
多くのポルシェの常連客はすでにそのことには慣れていた。
960kgのライトウェイトバージョンRSは、トランクと2つのシートを備え持ち、2.7リッターの排気量から210馬力から最高速240km/hを発揮した。
すべてが実用性を前提としており、カレラRS2.7を運転したい人は誰でもそのことに適合しなければならなかった。
ポルシェが911カレラRS 2.7を作ったのは、人々に高性能モデルを見せびらかすためではなく、グループ4(スペシャルGT)で、レースに勝つためだった。
その勝利は、911のシリーズ生産モデルにプラスに影響し、よりおとなしいモデルの売り上げを押し上げることを意図していたが、レースモデルを作るには、当時の規則として、まずシリーズ生産モデルとして販売されなければならなかったのだった。
1年半で1,000台というノルマ、つまりこれはややこしく、複雑な事情の中で生まれた911なのである。
必要最小限にまで削減
ポルシェはホモロゲーション、つまりレース参加への承認を危うくしないために、カレラRS 2.7を、低価格で販売した。
911 Sに比べてわずか2500マルク(約16万円)の追加料金を支払うだけで購入できたのだった。
カレラRS 2.7は、550スパイダーの4カムシャフトエンジンを搭載した、ポルシェ356以来のストリートホモロゲーションのレーシングカーだった。
速い、手頃な価格で手に入る。
ストリートレーシングドライバーや男性ドライバーたちは熱狂した。
1,580台のカレラRS 2.7が製造されたが、そのうちの1台を所有していた人、あるいは運転を許されていた人の輪は、生涯を通じて小さいままであった。
メルセデス300 SLガルウィングもまた、この魅力的な無条件性を持っていた1台だ。
それは、技術的能力と必要な最大限の削減と、デザイナーの勇気の組み合わせがあってこそ実現したものだ。
そしてそれは本当に大変なことだったはずである。そしてチーフデザイナーのアナトーレ ラピーヌのデザインによるモデルのキャラクターは、今日も輝き続けている。
最も人気のある911の一台
確かに、このポルシェもただの車である。
ビートルから派生したクルマであり、この形であってもその原点に恥じない。
直立した着座位置、0.5メートルの長さのギアスティック、立ち上がったペダルなど、これらはすべて、44馬力がすでに理想的なエンジンと見なされていたクラスでよく知られたお馴染みのものだった。
しかし、カレラRSは、初期の911の最高レベルに達したモデルだ。
RSほど一貫して高回転型ボクサー6内燃機関というアイデアとともに生きているモデルはない。
7000回転まで回しても何の問題もない。
そして時速50km/hでも、ラッシュアワーの中でも、何の問題もなく使用できるという事実は、RSをさらに魅力的なものにしていた。
ポルシェファンやスポーツカーファンの間でいまだに高い人気を誇るポルシェだ。
テクニカルデータ: ポルシェ911カレラRS 2.7
● エンジン: 空冷6気筒ボクサーエンジン、リア縦置き ● チェーン駆動オーバーヘッドカムシャフト、シリンダーごとに2本のバルブ ● 機械式ボッシュ製インテークマニュホールドインジェクション ● 排気量: 2687cc ● システム最高出力: 210PS@6000rpm ● 最大トルク: 255Nm@5100rpm ● 駆動方式: 後輪駆動、5速MT ● ホイールベース: 2271mm ● 排気量: 2687cc ● 全長×全幅×全高: 4174×1652×1394mm • 乾燥重量: 1075kg ● 最高速度: 240km/h ● 0-100km/h加速: 6.3秒 ● 価格(1972年当時): 36,500マルク(約232万円)
ヒストリー
RSプロジェクトは、911 SC(スーパーカレラ)というワーキングタイトルで開始された。
1970年代初頭に917で成功を収めた後、ポルシェはシリーズレースへの復帰を計画していたのだった。
1972年春に開発作業が開始され、1972年10月、911カレラRS 2.7はパリサロンでデビューを果たす。
1973年1月中旬、レースでの登録に必要な生産台数1,000台に達し、1973年7月に生産は終了した。
その後まもなく、RS 2.7をさらに発展させた110台の911 RS 3.0がレース用に製作された。
合計1,580台のカレラRSが製造されたが、道路上には約4,500台あると言われている。
なぜなら市場には多くのコピー(模造品)が存在するからだ。
したがって、高価な911 RSを購入する際には贋作をつかまされないように、細心のチェックが必要となる。
マーケットの現状
さて、市場相場だが、911 RS 2.7は投資対象のステータスとして、何度も何度も市場に提供されている。
15年前までは、2シーターは、約60,000ユーロ(約750万円)という取引価格だったものが、今や、最低でも約510,000ユーロ(約6.375万円)で見積もられ、軽量化されたM471バージョン(200台しか作られていない)は、最大900,000ユーロ(約1億1,250万円)という法外な値段で取引されているのが実態だ。
しかしその需要が市場にはあるのも事実だが、甘んじてこの価格を受け入れる人は、ギャンブラーか、真の愛好家(エンスージアスト)しかいないのではないだろうか。
コロナ禍の影響を受け、スーパースポーツカー、その中でもハイエンドのスーパースポーツカーの価格が世界的にやや下がっている、という状況らしい。これだけ様々な業種で不況の波をかぶれば、当たり前でしょう、という気持ちになるが、今まで投機対象としても売買されてきた、1億、2億は当たり前のようなハイエンドスーパースポーツカーは一時期の価格よりも、ずいぶん買いやすい(?)価格になったようである。
だがそんな中でも絶対的に高値安定なスーパースポーツカーももちろんあって、マクラーレンのF1を筆頭に、フェラーリのF40とか、そういう伝説的に人気のあるスーパースポーツカーは高値安定なものももちろんある。ポルシェに関していえば高値安定なものと、下がったものと両方あるのが現状で、やはりそこでは伝説的な車種(73とか550とか、そういうのですね)に関して言えば、高値を維持したままだし、そうではなく、ただ単に「911であることだけ」で高値になってしまっていた車種は値下がりをしている場合もある。
今回の911 RS 2.7ライトウェイトに関して言えば確かに希少価値は高いし、名車と言ってもいい一台ではあるが、さすがに1億円という価格は一つの壁になったらしく落札されなかった。投機目的で売買されなくて良かった、という気持ちもあるし、本当に好きな愛好家がもう少しでも安く購入し、大切にしてくれたら、と思うと少し安心したのも事実である。
できれば本当のポルシェ愛好家が購入し、どこかでその姿とエンジン音をサーキットやイベントなどで聞かせてくれたら、と願っている。
Text: Jan-Henrik Muche
加筆:大林晃平
Photo: Erik Fuller Courtesy of RM Sotheby’s