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日本上陸を果たした「メルセデス G 580 with EQ Technology」は究極のオフローダーなのか?

2024年11月18日

メルセデス・ベンツ G 580 with EQ Technology:新型Gクラスをオフロードコースで試乗する機会を得た我々は秋晴れの中、富士五湖方面へと向かった。自身、「メルセデス G350d」を所有していた大林晃平がレポートする。

お台場において「Gワールド」と名付けられた日本発表から約3週間。予想よりも早く新型メルセデスGクラスの試乗会の案内が届いた。

新型Gクラスの中でも、今回のハイライトはなんと言ってもBEV版のGクラス「メルセデス・ベンツ G 580 with EQ Technology」(以下G580)だが、今回の試乗会場となった富士ヶ嶺オフロードコースにはG 450dローンチエディション(以下G450d)も用意されているという。

4輪独立式モーターを搭載した「メルセデス・ベンツ G 580 with EQ Technology」


メルセデス・ベンツ日本の新社長兼CEOとなったイケメンのゲルティンガー 剛氏を乗せてGワールドの会場にやってきたG580はぐるぐるッと特徴的な”Gターン”を披露して現れた。G580の話題が取り上げられる際に必ず触れられるGターンではあるが、あれはあくまでも「4輪それぞれにモーターがついているのでこういうこともできますよ」という余技であってこの車の本質ではない。

さらにメルセデス・ベンツのスタッフはことあるごとに「G580はエコロジカルな車を目指したのではなく、究極のオフローダーを目指してゼロから開発したものである」と説明する。その結果として最大登坂能力はG450dと同じ45度ながら、最低地上高は20㎜増えて250㎜となり、渡河能力は150㎜増えて850㎜となり、4モーターを個別に制御することにより今まで以上の走破性を持つ、比類なき車になったと主張する。

G580(左)は水深85cmまで、G450dは70cmまでOKとされている。


パワーソースとなる116kWhもの容量のバッテリーを守る床下のアンダーガードプロテクションは26㎜もの厚さを持ち、その頑丈さはG580を3台乗せても大丈夫だというし、床下の突起物が減少したとことによりより一層の走破性を誇るという。

今回の試乗会場となった富士ヶ嶺オフロードコースに赴くと、おそろいの「G」のロゴの入ったスタッフウエアを着た一人がすまなさそうに「今日はG63にはお乗せ出来なくて申し訳ありません」という。とんでもない、とんでもない、乗っている方や大好きな方には申し訳ないが、個人的にAMGのG63はどうも苦手な車で、乗るたびにその迫力と存在感に負けてぐったりするような感じがする。

Gクラス、いや、ゲレンデヴァーゲンといえばやっぱりディーゼルエンジンが王道で、だからこそ今回もマイナーチェンジを受けてISGが搭載されたG450dがどれほどの完成度となったかという点と、G580がいったいどれほどG450dと比べて特記すべき(凌駕している)部分があるかという点こそがポイントなのである。G63はまたの機会に、しっかりキューピーコーワゴールドや凄十を飲んでから乗らせていただきたい。

サスペンションがストークしている様子がよくわかる。G580(左)、G450dともに最大登坂能力は45度。45度の斜面は肉眼では“壁”に見える。


今回は富士ヶ嶺オフロードコースの中のモーグルを主としたコースと、傾斜のきつい路面のあれたアップダウンのコース、結構なバンクを持つ林間コース、さらにその中には深い水たまりなどが組み合わされた全編過酷なオフロードが試乗コースとなっている。

試乗車は標準装備のオンロードタイヤFALKEN AZENIS FK520を履いていたが、過酷なオフロードコースのすべてを難なくクリアすることができた。

個人的に2014年モデルのG350dを3年間ほど所有していたが、恥ずかしながら結局一度もオフロードらしいコースを走る機会はなかった。日本のゲレンデヴァーゲンオーナーの中に、ちゃんと(?)オフロードを走る機会がある方がどれだけいるのだろうか?だいたい僕と同じような使い方なのではないか、というのが勝手な憶測である。

なお、今回の試乗車は、G580も G450dも、FALKEN AZENIS FK520の275/50/R20を履いており、これはどちらのクルマにも標準装備となっているタイヤである。

G580、G450dどちらも同じように、きつい下り坂でも大地をしっかりとグリップしながら下っていく。“夏タイヤ”にもかかわらず、滑ることはない。


まずは迷わずにG450dを指名しオフロードコースに乗り出す。走り出して実感したことは、滑らかで優しい加速と乗り心地、そして質量感を伝えながらも心地よい重さのステアリングフィールを持つことで、かなり過酷な凹凸でも身体に伝わるショックは最低限のまま、驚くほどつぎつぎと悪路を走破していくことであった。

20psと200Nmを発生するISGを搭載することによって367PS、750Nmとなったメルセデス・ベンツ史上最もパワフルな(!)6気筒ディーゼルエンジンは、「G400d」よりも明らかに、滑らかでありながら余裕十分に2560㎏の強固な車輛を動かす。

勾配、傾斜、高度、操舵角、出力、タイヤ空気圧などをリアルタイムに表示する「オフロードコックピット」によって安心してラフロードを走破できる。また、Gクラスは左ハンドルも選択できるのが嬉しい。

当日の朝まで降っていた雨とすでに前に走ったクルマのつけた轍の影響で、路面はかなりの悪コンディションではあったが、私のようなオフロードコース弱者であっても、汗をかくような努力も高等テクニックも要求せずにあっと驚くような路面をこなすことができる。

今回のコースには一か所だけ、かなり路面の状況が悪く、コース取りやアクセルワークによっては立ち往生する箇所もあったが、センターコンソールのデフロックスイッチ(恥ずかしながら初めて触った)を操作し、冷静にコースを選びなおせば問題なく走破することができた。そして室内はいたって平穏なまま、屋外の荒れ果てた環境とは一切無縁のまま、である。

この力強くパワーを発揮しながらも、なんともクリーミーで優しい感覚の源は、OM656Mの6気筒ターボディーゼルエンジンによるところが大きい。このエンジンは本当に名機であり、内燃機関にとってエンジンがいかに大切な存在であるかということが如実に理解できた。

デフロックの状態でモーグルを走破する。サスペンションが大きくストロークすることで、このような凸凹道でも乗員はいたって平静だ。

制限時間いっぱいまでコースをまわりながら、今回のように路面が悪ければ悪いほど、過酷であればあるほど、輝きを増すゲレンデヴァーゲンはやはりたいしたものだと見直したし、だからこそ都会の舗装路だけしか走らないであろう車たちがなんだか不憫に思えてきた……って自分が数年前までそういう使い方をしていたというのに、なんとも身勝手なものである。

それにしてもG450dの洗練さと完成度はちょっと感動するほどのもので、もうこれで今日は帰ってもいいかな、などと思いながらしぶしぶG580に乗り換えることにする。

なんとも魅力的なしぶいねずみ色に塗られたG580に乗り換え、他のEQと同じようにあっけなく起動させ、アクセルペダルを踏みこんで一番印象的なのはやはり静かなことと、加速感が滑らかなことである。静かなことは当たり前だが、走り始めの最初の滑らかさはG580の方がG450dをしのぐ。ロードノイズが大きいコースを走っていたので気にしていなかったのだが、G580には“G-RPAR”と呼ばれる特別なサウンドが再生される。その音色はV8エンジンを想起させる。

G580の後部ドアにあるボックスは見ての通りスペアタイヤカバーではない。充電ケーブルなどを入れる小物入れとなっている。

G580のラダーフレームの前後アクスルに2つづつ組み込まれた合計4つのモーターは、一基で108kWの出力を誇り、これはEQAの出力と同じ程度のパワーを発揮する。4基合計でのパワーは587ps(432kW),1164Nmもの強力さで、これはG63 (585ps,850Nm)も上回る。なおコンフォートモードを選ぶことにより後輪2基のみでの走行も可能というが、今回は試す時間がなかった。

G580は4輪独立式モーターが走りを制御するため、いわゆるディファレンシャルギアが存在しない。それをメルセデスは、“仮想ディファレンシャルロック”と呼んでいる。

路面の状況がどうであろうと顔色一つ変えずに、途方もない力強さと速度で巨大な質量の機械が動くさまは、ひたすら敵を冷酷に追い詰めるターミネーターをも連想させた。

出だしこそ3トンを超える車重を感じさせることもあるが、さすがに「EQA」4台分ものモーターを積んでいることもあり、タイヤが転がり始めてしまえばあとはシームレスに加速し走行し始める。走り始めると驚くべきことに、G450をさらにしのぐイージーさと力強さで、なんの努力もコツもいらないまま恐ろしいほどの力強さで登坂し、何も特別な技術も要さずにオフロードクロール機能を使って急坂を一定速度で降りることができる。

それでは圧倒的にG450dよりもG580の方が乗員にとって快適で楽かと言えばちょっと言葉に詰まる。あまりに力強く、冷淡に悪路をこなす速度と力強すぎる挙動がそう感じさせるのか、あるいは460㎏ほども重くなっていることが原因なのか、乗員に優しい乗り心地は明らかにG450dの方が上のように感じられたからである。

言うまでもなく絶対的な悪路での走行性能はG580 の方が上だし、4輪それぞれを個別にそして的確にコントロールすることのできる究極のオフローダーという主張は間違えない。そしてそれは人間では絶対にできない領域のコントロールである。なんというか完璧で人が入り込む余地のないような緻密な制御で、G450dだとやや苦戦するような場所を有無を言わさず突進するその姿は、たしかに究極のゲレンデヴァーゲンではある。

水深70cmの水たまりに飛び込んでも室内には一滴の水も侵入することはない。

だが個人的には、優しく柔らかい運転感覚や乗員に伝わる人肌のようなぬくもり感は、G450dの方が上だしどちらが魅力的かと聞かれたならば、迷わずにこちらを選びたい。今回はG580のサイボーグのような圧倒的なパフォーマンスと質量に、ひ弱なドライバーが負けた、ということなのかもしれない。昭和生まれの古い人間といわれればそれまでだが、ディーゼルエンジンの音に守られながら、大きな機械を操る快感という意味において、そう簡単にはBEVには席を譲らない、そんな言葉さえ聞こえてきそうなG450dの完成度であった。

なおG450dよりも150㎜上回る渡河性能だが、今回準備された程度の「水たまり」では差異は感じ取れなかった。どちらも一切の不安を感じないまま、きっちりシールされたドアからは一切の水の侵入もみられず、あのドアの閉まり感はこういう時に発揮されるのかと感銘を抱いた。やはり今も昔もゲレンデヴァーゲンの最も魅力のある部分は、このボディである。

G580のハイライト“Gターン”と“Gステアリング”はセンターコンソールのスイッチで操作する。右はG450dのコンソール。

では最後に、皆さん興味津々のGターンはどうだったかというと……完全に停止した状態で走行モードをスイッチで「ロック」に変え、ブレーキを踏んでNボタンを押してローレンジを選択し、ローレンジに設定されたことを知らせるオレンジと赤のランプを確認してから、ブレーキを踏んだままセレクターレバーをDにして、センターコンソールのGターンボタンを押し、回転したい方向のパドルシフトをひいたまま、とにかくしっかりとギューと全力でステアリングを握ったまま、ブレーキをリリースし、アクセルペダルを全開にすると、上限2回転だけGターンは開始される。(以上のように、操作はなかなか煩雑で、難しい)。

メルセデス・ベンツでは公道でのGターンを「行ってはいけない」としているし、路面に傾斜があって車輛が傾いていても作動しない。Gターンそのものは、きっと皆さんの想像よりもかなり速い速度で行われるが、3トンもの質量をもつ巨大な自動車が、その場で無理やりコマのように回らされる姿は、自動車やタイヤのことを想うと可哀そうで、あまり素直に楽しいとは喜べないものであった。

Text:大林晃平 / アウトビルトジャパン
Photo:アウトビルトジャパン