【クラシック オブ ザ デイ】歴史上最もクールでカッコいいワーゲン?シロッコGTIって何?初代「VW シロッコ GTI」物語
2024年6月30日
フォルクスワーゲン シロッコ GTI(Volkswagen Scirocco GTI):ヴォルフスブルクが生んだ、最もエッジの効いた110馬力クーペ。ウェッジシェイプのボディに110馬力を搭載した初代シロッコGTIは、1970年代に手頃なスポーツアイコンとして、つまり最速のゴルフに代わるモデルとして登場した。クラシック オブ ザ デイ!
ドイツで最もホットな砂漠の風、初代「シロッコ GTI」がディーラーに登場したのは1976年のこと。1974年に登場した「ゴルフベース」の「VW シロッコ」の最速バージョンは、すぐに多くのファンを獲得した。
外見上も、「シロッコ GTI」は自信に満ちたものだった: ワイドなフロントリップを備え、ボンネットの下には伝説的な「ゴルフ GTI」をしのぐ110馬力のパワーがあった。
フォルクスワーゲンが販売開始後8ヶ月だけで24,555台の「シロッコ」を販売した後、ヴォルフスブルクの戦略家たちは、1975年9月の時点ですでに、まだ続きがあることを知っていた!フランクフルトで開催されたIAA(フランクフルトモーターショー)で、インゴルシュタットのグループの同僚たちは「アウディ80」を「GT/E」として発表した。
ステアリングホイールは衝撃吸収構造であった。
Photo: Theo Klein
エンジン:GTIレジェンド110馬力
そしてこのエンジンは、1976年6月から「シロッコGTI」にも搭載された。最高速度185km/h、0-100km/h加速8.8秒を実現した「シロッコ」は、人々が切望したコンパクトカーの中のスポーツカーであった。
最高出力110馬力のこの軽量車は、2倍のパワーを持つ現代の「ゴルフGTI」に匹敵する躍動感がある。4,000回転から始まる4気筒の咆哮は、当時の「シロッコ=ゴルフ」の典型的なサウンドだ。
フェイスリフト:フェイスリフトがもたらしたもの
1977年8月のフェイスリフトで、クロームメッキのバンパーとサイドミラーは姿を消し、プラスチック製のパーツに変更された。エアコンも注文できるようになった。また、わずか数年で多くの顧客から腐食のクレームが寄せられていた防錆がついに標準装備となった。しかし、後期型「シロッコ」でさえ、その保護は十分ではなかった。
シロッコのスペアパーツ事情
エンジン、ギアボックス、シャシーなど機関部分の部品の供給は、「ゴルフ」との関係もあって順調のようだ。しかし、「シロッコ」オリジナルのパーツは事情が異なる。オリジナル品質のボディパーツの多くはもはや入手不可能であり、トリムやシートカバーも希少で、よほどの人脈がなければ入手できない。未改造の良質な「シロッコ」は今や希少であり、よく整備された「GTI」の固体を見つけることは事実上不可能である。
【大林晃平】
自動車を日夜一生懸命に(?)、開発している優秀なエンジニアの友達に「よく言われるプラットフォームが共通な自動車も、作るのは大変なんでしょう?」と当たり前の質問をしたことがある。
飲んでいたビールを口に運びながら「そりゃあもう大変ですよ。いくら共通のパーツがあったとしたって、自動車作るわけなんですから、ちゃんと走らせるようにする労力はそんなに変わりません」と酢豚の肉の塊を口に入れながら笑った。
彼が言うには、クロスオーバーのように、ちょっとだけ車高の高い自動車を作るのだってえらく大変で、たった20mmだけ車高を上げたとしても、開発者の労力は多大なものがあるのだという。「自動車をちゃんと走らすというのは、物理との闘いなんですよ」と、その時にえらく格好いい台詞をそのエンジニアは語っていた。
よくシロッコはゴルフの着せ替え人形だと言われるけれど、そのエンジニアの言葉を思い出すと、もう全く別の自動車を作るだけのエネルギーと苦心惨憺のエピソードがきっとあったのだろうな、と思ってしまう。特に今ほどコンピューターシミュレーションが発達していなかった当時、人海戦術で実験開発をするフォルクスワーゲンのエンジニアたちはきっと大変だっただろう。
何しろ背の高いゴルフを低くしてクーペに改良し、ちゃんと走るようにするのは並大抵のことではないと思う。こうまでディメンションが変われば、ありとあらゆる実験も必要なことは言うまでもない。せめてもの救いは(?)当時のフォルクスワーゲンのラインナップが少数精鋭だったことで、ポロ、ゴルフ、パサート、そしてシロッコという四兄弟だけだったことで、今のようにSUVもBEVもプラグインハイブリッドモデルもてんこ盛りのラインナップと比べれば、一台にかけることのできるマンパワーにも、結構なエネルギーを費やすことができたはずである。
その結果でもないだろうが、シロッコは当時の自働車雑誌にインプレッションでもかなりの高評価だったし、ジョルジョット ジュージアーロにデザインのボディもシンプルで美しく、地味と言われようがなんといわれようが僕は個人的に好きな一台であった。
結局シロッコは大ヒットになったかどうかは別として、ジョルジョット ジュージアーロがデザインした初期モデル、フォルクスワーゲン社内デザインの2世代目モデルを経た後、よりスポーティに振ったコラードに席を譲ったがあまり成功とはならず、結局再度シロッコの名前を復活させて3代目がその後発表された(……が、これも消えてしまい、今に至る)。
もちろん一番スマートで格好良く、今見てもいいなぁと思うのは、今回紹介されている初期のモデルで、そこにはジョルジョット ジュージアーロの才能を感じざるをえない、シンプルで機能的な美しさがあるし、ゴルフというベースをもとに、実用性をできるだけ損ねないまま、ここまで違った作品を生み出すことのできる手腕はやはり天才的なものなのだと思う。
蛇足ながらシロッコの名前の由来は皆さんご存じかもしれないが、北アフリカから地中海に吹き抜ける「風」であり、「暖房などのシロッコファンのシロッコ」のことである。さらに蛇足ながら角2灯ライトと丸目4灯ヘッドライトがあるが、ヨーロッパではLS以下の下位グレードが角2灯で、TS以上のグレード及びUS仕様は丸目4灯ヘッドライトとなる。当時ヤナセから日本に正規輸入されたシロッコは角2灯で、MTとATの両方が選べたが、言うまでもなくフォルクスワーゲン ゴルフよりもずっと高価で、街で見かける頻度も少なかった。だから普通のシロッコでも十分に希少な輸入車だったから、GTIに遭遇することは滅多になく、令和6年6月現在、日本で流通している初代シロッコGTIは皆無。普通のモデルが「価格応談」で一台売られているに過ぎない状況となっている。
それにしても、たまにイベントなどで見かける初代シロッコはなんとも小さくシンプルで驚く。全長は4メーター以下だし、幅だって1,625mmにすぎない。そしてその車重にいたっては、最新のマツダロードスターより100kg以上も軽い、900kg以下である。
コレステロール値がさく裂し、「2トンは当たり前」のようなSUVやBEVが走り回る街でごくまれに見かけると、本当に爽やかな一陣の風のようにも感じるシロッコである。
Text: Matthias Techau and Andreas May