アルピナ製BMW5シリーズ全7世代をテスト!5シリーズはアルピナブランドの心臓であり魂だ
2024年7月16日
B5ビターボはコンフォートもスポーツもできる
「F10ビターボ」は、悪いわけではないが、ラグジュアリー感が強い。数十年にわたる車両開発の歴史が、これほど顕著なものは珍しい。旧型「5シリーズ」がステアリングやシャシーを通じてドライバーとコミュニケーションを取ろうとしていたのに対し、「B5」はオプションの音声入力システムを注文した場合のみ話しかけてくる。冗談はさておき、アルピナクラシックと比べると、ステアリング、サスペンション、加速、ブレーキなど、すべてのドライビングインプレッションがより合成的に伝わってくる。その一方で、当時の文脈で見れば、「F10」は今でも辞書に載るようなスポーツサルーンの定義であると考えられている。「F10」は、アッパーミッドサイズクラスが長い年月をかけてどれだけ進化してきたかを示す最も明確な例である。昔はスピードを上げてコーナリングすると、スポーツシートのサイドボルスターが肋骨に押しつけられたものだが、現在ではもはや許容範囲とはみなされない。かつては、ロールを抑えられれば、ダンパーが段差のショックをいなせなくても問題はなかった。昔とはスポーツカーに対する理解が違っていただけなのだ。セダンが欲しければ、メルセデスのディーラーに行ったものだ。
B5ビターボは、すべてを一度にこなすことができる。ダイナミックダンパーコントロールは、セダンかスポーツカーか、ドライバーに選択の余地を与える。さらに、インテリアはほとんどラグジュアリークラスだ。4.62メートル(現在の3シリーズはもっと大きい)から、アルピナ5シリーズは5メートル近くまで伸びた。本革シートは肘掛け椅子にもなり、ハイテク満載のダッシュボードはドライバーを包み込む。このように作り込まれた空間では、戦車でなければ得られないような安心感を味わうことができる。B5ビターボのドライビングは、よりリラックスし、よりデカップリングされている。上質な8速オートマチックがドライバーの要求をステアリング操作、アクセル操作、ブレーキ操作に集中させ、フロントの巨体がストイックに突き進む。ターボラグは皆無だ。
そしてこれらはすべて、2011年に市場に登場したノーマルの「B5」についてだけ言えることである。アルピナが2015年に創立50周年を記念した、わずか50台のうちの1台が我々の前にあるのだ。ブッフローに本拠を置くアルピナは、このエンジンからなんと600馬力を引き出した。この改良によってトルクも向上した。540馬力のモデルはまだ730だったが、800ニュートンメーターのトルクをリアアクスルに伝えるようになった。しかし、パワーだけではこの場にふさわしくなかっただろう。たとえばホイールは、このブランドとしては異例なものだ。20本のスポークが精巧に作られているという意味ではなく、ホイールボルトがカバーの後ろに隠されていないという事実によるものだ。その鍛造ホイールは標準ホイールよりも15.6kg軽い。
チタン製エグゾーストシステムは、サプライヤーであるアクラポビッチから提供されたもので、カーボントリムもまた、何か特別なものがここでドライブしていることを外見に示している。減速に関しては、イタリアのスペシャリスト、ブレンボ製の高性能ブレーキが標準装備された。
ブルカルト ボーフェンジーペンのサイン
室内には、さまざまなバッジやエディション50のロゴに加え、オプションでヘリテージインテリアも用意された。ダークグリーンのセンターを持つブラックのレザーシートには、ブラックとイエローのコントラストステッチが施されている。明らかに過去への頷きだが、特にブルーカラーの試乗車では慣れが必要だ。しかし、圧巻はダッシュボードのピアノラッカートリムに描かれた創業者ブルカルト ボーフェンジーペンのサインだ。まさにコレクターズアイテムだ。
「アルピナ5シリーズ」の頂点に君臨するこのモデルは、250台限定の「B5 GT」と大きな特徴を共有している。新世代の「BMW5シリーズG60」はすでに発表されているが、アルピナバージョンを開発する価値はもはやない。2025年末、ちょうど60周年に間に合うように、BMWが舵取りを引き継ぎ、「アルピナG60」を社内ですでに開発していることは間違いない。
BMW Alpina B5 50 years(F10)
engine | V8, Biturbo |
---|---|
Displacement | 4395cc |
Performance | 441 kW (600 hp) at 6000 rpm |
Max. Torque | 800 Nm at 3500–4500 rpm |
drive | Rear wheel, eight-speed automatic |
Length Width Height | 4913/1860/1969mm |
Empty weight | 1970 kg (DIN) |
0-100km/h | 4.2s |
Vmax | 328km/h |
consumption | 9.5 l SP |
Exhaust CO2 | 221 g/km |
Price | 114,200 euros (2015) |
B5 GTはひとつの時代の終わりを告げる
それまでの間、ブッフローエは「GT」という略称を復活させる。「B5 GT」は、その美点を極限まで高めている。最高出力634馬力は、アルピナ史上最もパワフルであり、最高速度330km/h(ツーリングは328km/h)は、高速道路での走行があっという間であることを保証する。インテリアでは、新しいカラーコントラストを採用。シフトパドル、フロアマットの縁取り、レザーステアリングのコントラストステッチは、マロンヴォルチアーノで、ブロンズ色で、アンスラサイトのオープンポアのウォールナットトリムと完璧にマッチする。標準装備のコンフォートシートはすべてのドライバーの背中にフィットするが、より横方向のサポートとこだわりを求める人には、4,600ユーロ(約77万円)のMマルチファンクションシートを選べる。アルピナが特別にチューニングした「Comfort+」ドライビングプログラムは、急な移動をさらにスムーズにする。
20インチの鍛造ホイールは、外側もこのカラーで、繊細なスポークの間に「B5 GT」のロゴが入っている。パーフォレーテッドディスクを備えたスポーツブレーキシステムが標準装備されている。典型的なアルピナのフロントリップの両側には、ダウンフォースを向上させるためのブラックのフリックが2つ付いている。脇腹に配された伝統的なストライプ装飾は、マロンヴォルチアーノ色も用意されている。ボンネットはノーマルモデルと異なり、縦方向の輪郭が強調され、フロントエンドのストラットブレースは、ステアリングの精度を向上させるためのものだ。
ハードウェア面では、吸気経路の改良とセンターサイレンサーの見直しにより13馬力のパワーアップが図られ、アルピナはボーナスとして850Nmを50Nm上乗せしている。その結果、0-100km/h加速は3.2秒、200km/h加速は10.2秒となった。100kg重いツーリングは若干の犠牲を強いられるが、それでもそれぞれ3.4秒と10.9秒は立派なものだ。
レーストラックでも絶対の自信
ザントフォールトのピットレーンで、ラバリナのステアリングを握る。インストラクターが前を走り、ツイスティなサーキットでの正しいラインを簡単に教えてくれた後、スロットルが回される。ビターボV8は恐怖のごとくプッシュし、xDrive全輪駆動のおかげでトラクションは十分。超本格的なターザンボヒトを過ぎると、ルートはわずかに左折して鋭く右折し、新しく改修された象徴的なヒューゲンホルツボヒトへと下っていく。ここでは特に、「GTの」優れたハンドリングが印象的で、ステアリング角の下でのブレーキング操作は驚くほどコントロールしやすい。しかし、続く左右のフルスロットル区間では、「GT」はフロントアクスルを少し押し出す傾向がある。ターン8は早いエイペックスを持つ高速右コーナーで、イン側の縁石に激しくぶつかる。
綿密なチューニングが施されたアダプティブサスペンションは、2トン近い重量にも簡単にはガタつかない。次の右コーナーでは、ステアリングを切った角度の下でダイナミックにブレーキングし、B5 GTは控えめにお尻を突き出し、カーブに向かって細かく曲がっていく。周回を終えて、我々はあらためて、なぜこれほど巨大なクルマがこれほど俊敏で運転が楽しいのか自問する。その答えは、駆動とステアリングの全輪駆動である。リアに偏りがちなxDriveは優れたトラクションで車重を補い、インテグラルアクティブステアリングはサルーンをより扱いやすくする。そして、このインプレッションを聞いて、ブッフローエに145,000ユーロ(約2,440万円)の小切手を送りたい衝動に駆られた人は、きっと失望するだろう。250台の「B5 GT」は、昨年秋の発表会ですでに完売していたからだ。
アルピナクラシックは会社の歴史に敬意を表する
こうして、最後の純正「アルピナ5シリーズ」も、二次市場のコレクターズアイテムとなった。それは、先代モデルと同じ運命である。しかし、買収後もアルピナ社は繁栄し続けるだろうから、この運命は必ずしも悪い意味ではない。社名はBMWに移るかもしれないが、アルピナクラシックは、その地位にふさわしい方法で、つまりアルピナを常に包んできた同じ企業精神で、自らの歴史を大切にしていくだろう。そして、創業者であるブルカルト ボーフェンジーペンの精神に従って。
BMW Alpina B5 GT(G30/31)
engine | V8, Biturbo |
---|---|
Displacement | 4395cc |
Performance | 466 kW (638 hp) at 5500–6500 rpm |
Max. Torque | 850 Nm at 3500–5000 rpm |
drive | All-wheel drive, eight-speed automatic |
Length Width Height | 4978/1868/1466mm |
Empty weight | 1980 kg (DIN) |
0-100km/h | 3.2s |
Great | 330km/h |
consumption | 11.1 l SP |
Exhaust CO2 | 253g/km |
Price | 145,000 euros |
結論:
ニュークラスからすべてが始まったとはいえ、「5シリーズ」はアルピナブランドの心臓であり、魂だ。これほど直感的に優れたパワーグライダーの哲学を体現したモデルシリーズは他にない。
大林晃平: 手元に一冊の古いムック本がある。約40年前、昭和59年2月発行の『モーターファン別冊 BMWアルピナのすべて』という雑誌で、今でも綿々と続く「すべて……」シリーズには、かつてこんな本もあったという証拠の一冊である。
徳大寺有恒先生によるアルピナB9セダンやB9クーペの試乗記や、但馬 治カメラマンの美麗写真もさることながら、興味深いのは誌面で紹介されているアルピナに乗っている方々のページである。
まず目を引くのは作詞家の松本 隆さんで、高級そうな革のジャケットとロングマフラーで写っている先生の後ろに止まっているのはブラックメタリックのB7ターボ。もちろん5シリーズベースのB7は「アルピナストライプは、あえてはがしてもらった」そうで、「トルクの波でサーフィンするような」という形容詞がさすが松本先生である。
当時の松本 隆さんは松田聖子や寺尾 聡といったほんの一例のほかに、もうありとあらゆるメガヒット連発の絶頂期だったはずなので、おそらくこのB7ターボなどはお小遣いで買えたのだと思うが、この時期、松本先生のアルピナの助手席に乗せてもらった松任谷正隆さんによれば、「(腕もないのに)信濃町のソニースタジオのあった細い路地で全開しやがって、死ぬかと思ったし、もう二度と乗るもんか」と感想を述べていた。
松本先生のコメントも、「勝負を挑まれることもあるけれど、一瞬で勝負がついちゃう」とかなりアグレッシブなものなので、実際かなり当時は飛ばしていたのであろう(その頃、松本 隆さんは、バイクで事故を起こし骨折もしていたので、かなりやんちゃな一面をお持ちの方と推測される)。
さて同誌の中でもう一つ目を引くのが「オーナーズ座談会」というページで、ここにはアルピナを愛する3人のオーナーが登場し、アルピナ愛を語っている企画なのだが、医師、会社役員にならんで、なんと若き日の佐々木弥市氏が「ブティック店長」という肩書で登場している。
佐々木氏と言えば今やカーグラフィック関係者では知らない人はいない趣味人であり、プロデューサーであり、フィクサーであり、実業家なのだが、当時24歳の佐々木氏がたばこをくゆらせながら(!)、「大人4人がゆったり乗れて、ゴルフバッグ4つを積んで、なおかつ200km/hで高速を走れるので満足しています」などと、5シリーズベースのB9セダンを前に語っているのを見ると、いい時代だったなぁと思うと同時に、こういう方にこそぴったりの一台がアルピナなのではないか、と思う。
そう、本来アルピナというのは、そういう本物のトップセレブリティか、あるいは自動車を何台も乗り知り尽くした真の愛好家が、最後に味わう隠れ家レストランのような自動車であった、というのが僕の持論である。当時は1か月に1回見ることができればラッキーくらいの希少な自動車だったし、今のように「普通のBMWじゃなんだか物足りないし、お洒落じゃないからグリーンのアルピナ買ってみましたぁ」とアメーバブログでモデルの女性がジマンするような類の自動車では、絶対に、絶対になかったのである。
そんな中でも一番硬派であり、アルピナらしいかったのが5シリーズアルピナだと思う。それが理由に、『カーグラフィック』1980年9月号では、田辺憲一氏が試乗するためにわざわざ神戸の愛読者のもとを訪ね、貴重な一台に試乗しているし、僕がアルピナという魔物の存在を知ったのはその一冊だったと記憶している。表紙ももちろんB’ターボだったし、連戦錬磨のカーグラフィック取材記者でさえめったに乗ることのできない自動車……それほどまでに貴重で希少な自動車がアルピナ5シリーズだったのだ。
それから40年が経過し、アルピナはオーナーであり創始者のもとを離れ、BMWにまるごと売却されるという衝撃的なニュースが流れた。つまり今後はBMWの一ブランドとして展開するわけで、生産も販売もBMWが行うことになる。「Mパッケージ」みたいな、色と形だけアルピナなモデルが出てきてしまうような、顔が引きつる展開も頭をよぎったが、おそらくアルピナの価値を理解しているはずのBMWはそういう安直なことはしないだろう。
もっとハイブランドでラグジュアリーな展開が予想されるが、「秘密の花園」のようなあの時代はもう帰ってこない、ということだけは確かである。街中で結構な確率で遭遇するX1ベースとかX7ベースのアルピナを見るたびに、「これじゃないのになぁ」といつも心の記憶の中に残っている当時のアルピナの残像を邪魔されるような気持ちになる。
どうかこれからもアルピナだけは目利きの人が、最後の最後に味わえる最上の自動車でいてほしい。そうでなければ昨年逝去した、日本贔屓で知られたブルカルト ボーフェンジーペンが天上で悲しむではないか。
Text: Alexander Bernt
Photo: Roman Raetzke / AUTO BILD