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【メルセデスのモンスター】メルセデス・ベンツ 300SEL 6.3/W109(1968-1972年)

2024年5月27日

外観上では、この300SEL 6.3はW108/109シリーズの他のモデルとほとんど相違がない。しかし、最新の照明技術を備えたツインハロゲンヘッドランプ、フロントフォグランプ、トランクリッドの右側に配置した「6.3」の文字がフラッグシップモデルである事を特徴づけており、それ以外は非常に控えめである。当時のドイツ自動車雑誌「アウト・モトール・ウント・シュポルト」は、1968年の第6号でメルセデス・ベンツ300SEL 6.3について次のように報じている。「このメルセデス・ベンツ300SEL 6.3の後に取り残されたアウトバーンの王者である何人かのポルシェ 911および 911 Sドライバーを驚かせたことは間違いありません。もし彼らの誰かが今、この文章を読んでいるとしたら、車の性能不足について工場に文句を言う必要はない。」と・・・・。

室内は優れた快適性、ゆったりとした広さ、シートは長距離でも疲れない安全設計。操作類は手が届きやすく、メーター類も見易い安全設計となっている。スムーズで迅速にシフトする4速オートマチックトランスミッション、パワーウィンドウ等の豪華装備が施された。

インテリアは大型化したスピードメーター、回転数カウンターや時計の配置換えにより、「6.3」と通常の300SELとが区別される。エアサスペンションとオートマチックレベルコントロールは、高性能モデルの優れた装備で負荷の変化に自動的に適応する。つまり、車両の姿勢が一定に保たれるため、乗り心地が大幅に向上。

ブレーキは、4輪ベンチレーテッドディスクブレーキにより、最適に減速して確実に止まる設計。その他の標準装備にはパワーステアリング、スムーズで迅速にシフトする4速オートマチックトランスミッション、ロッキングディファレンシャル、パワーウィンドウ、ニューマチックセントラルロック、そしてメルセデス・ベンツ初の「70シリーズ」のワイド・低扁平ラジアルタイヤを採用した。

V型8気筒エンジンの排気量は6.333ccで250hp/4.000rpmを発揮する。下にエアコンのコンプレッサー(レシプロ式)が見える。

排気量6.333ccでパワフルなV-8気筒エンジンは、メルセデス・ベンツの威厳600/W100リムジンからごくわずかな変更を加えて採用。アクセルペダルの位置、エンジン速度、空気圧、冷却水の温度を考慮したオートマチックコールドスタートとウォームアップ機能を備えた8プランジャー噴射ポンプを備えている。燃料は8個のノズルによって高圧でインテークマニホールドに噴射される。この配置は長年に亘ってメルセデス・ベンツSEモデルで成功しており、効率的な燃焼を保証。このエンジンを搭載する為に、フロントフレームセクション、トランスミッショントンネル、フロアアッセンブリが変更された。

設計はErich Waxenberger(エーリッヒ・ヴァクセンベルガー)によるアイデア

300SEL 6.3はメルセデス ベンツのテストエンジニア、エーリッヒ・ヴァクセンベルガーのアイデアで誕生した。 1960年代に、彼はW109シリーズのモデル用に600/W100リムジンのV-8気筒エンジンの可能性に気付いていた。当初、乗用車開発責任者のルドルフ・ウーレンハウトの支援を得ずに、彼独自でテスト車を製作。しかし、ルドルフ・ウーレンハウトを黙認させる事は不可能であった。オフィスに座っていたルドルフ・ウーレンハウトは、プロトタイプのエンジンが通過する時の静かなうなり声を聞き、すぐにヴァクセンベルガーを呼び出して報告を求めると、開発作業に賛同した。ルドルフ・ウーレンハウトを知る人ならば、彼が正式な開発命令に署名する際、控えめに微笑んでいる様子を想像できると思う。

行楽のシーズンに最適;トレーラハウスを牽引して郊外にキャプに出かける時等、どんな要望も叶えるレベルの乗り心地を生み出し、長距離ドライブでも疲れなく快適なドライブを約束する。

パワフルな高級感!

W109シリーズの最高級モデルであるメルセデス・ベンツの300SEL 6.3。当時の標準仕様価格で45.400マルクであった。(参考;1960年半ば頃の600/W100リムジンは¥12.500.000、600プルマン/W100は¥14.000.000であった)スポーツカーの性能を備えたこのモデルは、豪華で快適な高性能セダンの元祖であり、現在に至る成功した伝統モデルとみなされているのも当然である。

「6.3」エンブレムだけが見分けるポイントだ!

1972年までに合計6.526台が生産された。当時としては比較的多い台数であり、メルセデス・ベンツのパワフルセダンセグメントへの参入であった。メルセデス・ベンツクラシックのオールタイムスターズ取引部門の責任者であるパトリック・ゴットヴィック氏は次の様に語っている。「この魅力的なモデルは、長い間コレクター市場の定番となっています。今日、それは非常に望ましいものであり、入手可能な車両の価格は大幅に上昇しています。評価状態2の良好な車両の価格は80.000ユーロ(約1352万円)以上です。」

この価格が高いか安いかは、コレクターズの観る目や実際、運転するドライバーにかかっている。何故なら、このモデルは強力なV-8気筒エンジンと非常に優れたパフォーマンスを備えた自動車の歴史のマイルストーンだからだ!

しかも、当時のAMG社はこの300SEL 6.3をチューンした「300SEL 6.8」で1971年のベルギー、スパ・フランコルシャンでクラス優勝を果たし、総合でも2位に輝いた。このレースでメルセデス・ベンツの名がモータースポーツのトップに再び登場した1971年として語り継がれている!

AMG社はこの300SEL 6.3をチューンした「300SEL 6.8」で1971年のベルギー、スパ・フランコルシャンでクラス優勝を果たし、総合でも2位に輝いた。

そして、1972年発表の初代Sクラス/W116に6.9リッターにまでスケールアップしたエンジンを搭載した450SEL 6.9を1975年5月に発表した(この6.9のサスペンションはハイドロリックとされた)。

1972年発表の初代Sクラス/W116に6.9リッターにまでスケールアップしたエンジンを搭載した450SEL 6.9を1975年5月に発表。

この6.9リッター登場により、業界筋では「690リムジン」登場かと胸を膨らませたが、世界的経済状態と石油危機を鑑みて、結局はこの計画は中止された。ちなみに450SEL 6.9は1980年までに7.360台生産された(日本では正規輸入されず、並行輸入された)。

TEXT:妻谷裕二
PHOTO:メルセデス・ベンツAG、妻谷コレクション。

【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。