え? そんな値段で買えるの? その2 後編 イギリス車
2020年8月9日
「このクルマいくら?」: クラシック中のクラシック勢ぞろい 英シルバーストーンクラシックオークション2020
今年で30周年を迎えたイギリスの「シルバーストーンクラシックオークション」。先週末におこなわれたオークションの中から興味ある出品車を選んで、我々なりの感想を添えてお届けする。
【シルバーストーンクラシックオークション2020】
アストンマーティンDB6(1966)
落札価格: 240,750ポンド(約3,420万円)
言うまでもなく、ボンキビンビンのボンドカー、と思ったあなた、違います。あれはDB5、こちらはDB6ですから。釈迦に説法ながらDB6はDB5のビッグマイナーチェンジモデルだが、すれ違っただけでは相違点を見分けることは至難の業。DB6にはATモデルも追加されるなどのトピックもあるが、外見上明らかに違うのがリアフェンダー周囲の造形。またこの車ではミラーなども判別基準となるであろう。(DB5は「ゴールドフィンガー」で移されるアップの画像でもわかる通り砲弾型)。
残念ながらDB6はボンドカーに採用された過去がない、といった気の毒な歴史を持つせいか、このDB6も、1億円を超えることさえ不思議ではないDB5に比べると大いにお買い得。だから内容を考えれば悪くはないが、おそらく所有している間中「ボンドカーはDB5、これはDB6」という説明を、行く先々で求められることになるだろう。
ベントレー コーニッシュ(1972)
落札価格: 158,625ポンド(約2,250万円)
43台中の1台。フルレストア済。
個人的に世界で一番優雅で裕福に見えるクルマは、これなのではないか、と思う。しかも今回の車はスピリットオブエクスタシーの起立しているロールスロイスではなく、フライングBのベントレーであることが実にツウ、というかコニサーなチョイスである。 そんな1500万円程度で世界最高のコンバーチブルを所有できる、と考えるとつい鼻の穴も広がってしまうが、購入後に車検を取る程度の維持をするのにも、膨大な費用がかかることだけは忘れてはいけない。なにしろパーツそのものが、目の玉が飛び出すほどの価格だし、整備性などもほとんど考えていないようなメカニック泣かせの設計のため、専用のおかかえ車輛班か、住み込みのメカニックなどが必要。そう考えるとロールスロイスの方のモデル名通り、ニースかカンヌに別荘を持つ大富豪が、夏の夜にカジノか舞踏会に出かけるため、「コーニッシュ」を走るためだけの豪奢な舞台装置としてとらえるべきかも。
そもそもこの車に負けないように、そしてそれなりにコーディネートしてお洒落に乗るためには、ちゃんとした身なり(服装)もルックスも、そして所作や言葉遣い、さらには恰幅も必要なのでご注意を。
ACエース ブリストル(1958)
落札価格: 220,500ポンド(約3,130万円)
言うまでもなくACコブラのオリジンがこの、アシーカ ブリストル。イギリス車らしいアンダーステートメントな感じと、地味だが趣味の良いボディカラーが実にマッチしている。エンジンはブリストルオリジナルのOHV直6だが、パワーをひけらかさず、ワイヤーホイールを輝かせつつ、あくまでもゆったり走るべきクルマなのだろう。だが価格は約3000万円と、まったく控えめではないが、その希少性を考えれば妥当か。写真では見えませんが、メーターパネルなども木目で実に美しい仕上げ(なはず)です。
シェルビーではない、オリジナル、それをわかる人にだけ理解してほしい逸品といえる。
レンジローバー サフィックスB(1973)
落札価格: 34,500ポンド(約490万円)
フルレストアされた、真のエンスージアストの所有したレンジローバー サフィックスB(SUFFIX-B)。
やっぱりレンジローバーといえば、これ。1ポンド約140円としてざっと計算すると、500万円前後。決して安くはないが、この程度の良さと、約50年前ということを考えれば仕方がない、のかも。細いタイヤと、黒い根暗ガラスではない窓が美しい。フェンダーミラーがかたつむりみたいでユーモラスだが、これこそがオリジナルなのである。
またボンネットについた「RANGE ROVER」のロゴが立体のロゴだが、これが最初期のモデルの特徴。(おそらく)泥が詰まるなどの苦情で、この部分は平面のステッカー仕上げとなる。
蛇足ながらもちろん当時はMT、重いクラッチつき、エアコンはついているかは不明。つまり初代レンジローバーはそういう、飾らない実用本位のクルマだったのである。
レンジローバー4.5SE KRレストモッド(1992)
落札価格: 141,000ポンド(約2千万円)
伝説のロックスター、ジェイ ケイ(ジャミロクワイ)から出品されたユニークな1台。
あのジャミロクワイが乗っていたのかぁ、ジャミロクワイ、結構趣味いいじゃん、と言えるようなお洒落な色と内装。
常識外に太いタイヤとかホイールなどを履かせず、オリジナルなままであることも評点が高い。右ハンドルであることもポイント高いし、ヘラのフォグランプも実にいい感じではあるが、ドアミラーとルーフアンテナが、おそらくノンオリジナルであろうことがちょっぴり惜しい。また先出の一台が布シートを持っているのに比べ、こちらの物件はタン色の革内装。
さらにボンネットの「RANGE ROVER」ロゴも、ステッカー仕上げとなっている(つまり改良型)
価格はジャミロクワイの残り香があったとしても、2000万円とは高すぎるかも。
ランドローバー シリーズIIA(1969)
落札価格: 10,350ポンド(約150万円)
写真をじっくりみると、各部(フロント窓枠の錆やバンパーの程度、さらには全体の塗装の光沢など、気になる部分は多い)のレストアはかなり必要かと思われるが、それでも希少性などを考慮したならば200万円は安いような気がする。もっともこのころのランドローバーは日常的なメンテナンス作業も必須だし、高速道路などには乗ってはいけない車の一つ、だろう。それでも今の豪華絢爛なレンジローバーのとなりに、しれっと乗り付けたら最高の一台。古い骨董品農具を買うようなつもりで、自動車分解整備が趣味な方いかがでしょう?
ロータス セヴン(1959)
落札価格: 39,375ポンド(約560万円)
この車を見て、とうてい今から60年以上前の車とは思えない、という感覚は、ケイターハムのスーパーセブンを見なれてしまっているから、かもしれないが、言うまでもなくホンモノの中のホンモノはこれ。クラシックカーだからメンテナンス必要だし、様々なトラブルも頻発するかもしれないが、そんなことを言う人にはこういうクルマに乗る資格はありません(というか、そもそも乗らないでしょうけれど……)。
各種展示会など、どこのイベントに乗って行っても、きちんと整備してセヴンの走行会に行っても、きっと花形スター扱い間違いなし。
そう考えればこの560万円前後という価格は、破格かも。
オースティン ミニ モーク(1967)
落札価格: 23,000ポンド(約325万円)
ミニモークの中でも、最初期ともいえる1967年のオースティン モーク。なぜこんな風変わりな形なのかといえば、戦争の時に、兵器としての運搬しやすさなどを配慮して、こういう形になったのである。我が国にも結構な数が輸入され、今でもたまに(けっこう)高値で売買されているのをみかける。幌を外せばもちろんフルオープンになるが、骨をたたんだり、幌を力任せに引っ張ってホックにかけたりするなどなど、小1時間程度のかなりの大作業が必要。さらに安全装備などは皆無だし、側面衝突に対する備えは丸腰だが、そんなことを考えていてはモークには乗れない。そしてもうこういう自動車は金輪際生産されない、と考えれば400万円という価格も仕方ないかな、とも思う。
アルヴィス ダンカン2ドアクーペ(1948)
落札価格: 27,000(約380万円)
ほんの数台生存するうちの1台、ダンカンボディのある 2ドアクーペ。さすがに製作されてから70年以上も経過したこの車を毎日の足にすることはできないかもしれないが、それでもどことなく実用に使えそうな雰囲気を醸し出しているのはさすがにアルヴィス。ブランドも含めて、ザクラシックカーと呼べる一台であり、購入すれば間違えなくクラシックカークラブへの無条件加入パスポートである。
この1台もタイヤにちゃんと泥がついていることなどを見ると、愛用され、それなりに乗られてきた一台であることがわかる。ミントコンディションにすることだけがレストアではなく、適度に使いながら整備などに熱意を注ぎ、愛情をもって長年接することも立派な「レストア」なのではないだろうか。
アルヴィスTB21トゥアラー(1953)
落札価格: 46,125ポンド(約655万円)
エレガントな50年代のオープントップ2シーターツアラー
前述のダンカンボディの2ドアクーペと比べると、はるかに瀟洒な1953年アルヴィスTB21。それでも過剰に贅沢な雰囲気というのではなく、実用的でありながらも軽快なおしゃれ間を醸しだしている。この写真ではわかりにくいがちゃんと幌も備わっているので、雨の日でも安心。価格も程度や希少性を考えれば、それなりに納得のいく金額といえるだろう。それにしても、アルヴィスといった(特に日本においては)ブランドさえ一定の数が売買されているところにイギリスの懐の太さが感じられる。
蛇足ながら、アルヴィスに関しては数年前に復刻モデル(昔の設計図をそのまま使い、生産工法や材料なども変えずに生産する)の計画が発表され、日本でも代理店が販売することとなった。驚くべきはその価格で、このオークションに登場している車輛の5倍~6倍ほどの価格であった。内容やその手間(人件費)を考えればいたしかたないことではあるが、このオークションにおけるアルヴィスの価格や、その扱われ方など見てしまうと、いったいどちらが正しいのだろうか、と考えてしまう。
ディムラー ダートSP250シリーズA(1959)
落札価格: 24,750ポンド(約350万円)
初期のコベントリー製V8スポーツカー。素晴らしくよさそうな程度や希少性にも関わらず、比較的安価なのはひとえに、この「カッコウ」だからであることは一目瞭然。この時代のイギリス車の中には、このディムラー ダートSP250のように、いったいどこがそうしてこういう格好になってしまったのだろう、という不思議でしょうがないデザインの自動車が多数あった(例えば、「ハリーポッター」で有名になったフォード アングリアなどもその顕著な例であろう)。だが世の中には、こういう「なぞの深海魚」とか「不気味な爬虫類」を心から愛する者が特定数必ず存在していることも事実で、本国イギリスにはディムラー ダートだけのワンメイククラブ(愛好家集団)が存在するという。ディムラー ダートの定期食事会会場にずらりと並ぶディムラー ダート。ちょっとそれは不思議で近寄りがたい光景かもしれない(余計なお世話で、ほっといてほしいと、言われそうだが)。
そんな偏愛同窓会に加入するための印籠と考えれば、300万円台の価格は割安、かも。
Text: 大林晃平(Auto Bild Japan)
Photo: SILVERSTONE AUCTIONS