え? そんな値段で買えるの? その2 前編 ドイツ車/イタリア車/フランス車/アメリカ車

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「このクルマいくら?」: クラシック中のクラシック勢ぞろい 英シルバーストーンクラシックオークション2020

今年で30周年を迎えたイギリスの「シルバーストーンクラシックオークション」。先週末におこなわれたオークションの中から興味ある出品車を選んで、我々なりの感想を添えてお届けする。

【シルバーストーンクラシックオークション2020】

ポルシェ911 2.4Sクーペ(1973)
落札価格: 131,625ポンド(約1,870万円)

有名なポルシェスペシャリストによってフルレストアされたナローポルシェ。今回出品されたもっとも素晴らしいクルマの1台。地味と言えば地味だが、本当のポルシェ愛好家が選ぶのは、こういう911なのかも。73年モデルといえば、あの有名なナナサンカレラと同じ年だが、あえて解説するならばナローの最後の時代であり、つまりはもっとも完成されたナローの最後のモデルということができよう。外見上の見分け方はブラックアウトされたフロントウインカー周りと、Sスポイラーと呼ばれるフロントスポイラー周りの処理。価格は2000万円付近だが、最新の(普通の)911がもはやオプションを付けるとそれぐらいの価格になってしまうので、この2.4の価格を見ても「そんなものかなぁ」とつい普通に感じてしまう自分が怖い。
それにしてもこのみっちり詰まってコンパクトなサイズとこの佇まい、これぞ本当のポルシェであり、今の満艦飾のポルシェに欠けているファクターなのである。

ランボルギーニ ミウラSV(1972)
落札価格: 1,912,500ポンド(約2億7,200万円)

伝説のミウラ「スピント ベローチェ」の右ハンドル車。ポンドから円への換算が8桁のカシオミニではもはや計算が足りない約3億円のミウラ。
フランク シナトラをはじめ世界の王族や、本当の意味での「セレブリティ」が所有した車だが、今でも形は抜きんでて美しい。その中でも完成形と言えるSVの、しかも右ハンドルともなれば希少も希少。おそらくこれだけの物件はなかなか出ませんよダンナ、という不動産屋さんのようなセリフをつい言いたくなるような一台である。
おそらくこれほどのカリスマのある車は、(カウンタックを除けば)もうランボルギーニ史上には出てこないだろう。

フェラーリ ディーノ246GTS(1973)
落札価格: 337,500ポンド(約4,800万円)

ディーノも今や4800万円という時代なのか、と思うと妙な感慨を抱く。その昔は?不人気車として、400万円台で環八の中古車販売店の端っこのほうに並んでいた時代もあったはず、なのだが……そんなことは遠い昔話である。
説明するまでもなくこのGTSはルーフの外れるモデルだが、美しいボディカラーと内装の持つ雰囲気と絶妙にマッチしている。オリジナルのホイールともども実に程度よさそう。そう考えると価格ももはや仕方ない、のかもしれない。
現代の太りに太ったスーパーカーたちに、爪の垢を煎じて飲ませてあげたいようなコンパクトなサイズと車重。亡き最愛の息子「ディーノ」の名を送った、エンツォ フェラーリの本当の心のこもった1台とは、この246だったのではないだろうか。

マセラティ ギブリSS(1970)
落札価格: 203,500ポンド(約2,890万円)

マセラッティ ギブリの中でもわずか12台作られた右ハンドル車の1台。さすがに価格は高く、こういうスーパーカー市場がまだまだ盛況であることを証明する価格である。ギブリとは言うまでもなくアフリカに吹く偏西風のことだが、スタジオジブリのジブリとは、このギブリのこと、とうんちくを語ることもできるマセラッティ。どこから見ても繊細で均整のとれたデザインはもちろん全盛期のジョルジョット ジウジアーロ。クロモドーラの美しいホイールには、ミシュランTRXをぜひ合わせて乗ってみよう。
個人的には大きく高性能になりすぎた現代のスーパーカーよりも、よほど心に響くスポーツカーである。

アルファロメオ ジュリエッタ スプリント750B(1959)
落札価格: 41,625ポンド(約590万円)

シンプルで美しく、どこから見てもイタリア車のジュリエッタ スプリント。
白という抑えめのボディカラーが、これまたフランコ スカリオーネのデザインしたボディと相まって清楚で魅力的だ。
たぶん(ちゃんと整備して調子が良い時ならば)乗って本当に楽しい車だが、今や約600万円のという価格なので気楽には乗れそうにない気もしてしまうのは残念である。
本当にこういうアルファロメオ、今からでも出してほしいものである。電気自動車でもいいから…と一瞬言いかけたが、やっぱりガソリンエンジンで出してほしい。

アルファロメオ6C 2500スーパースポーツ カブリオレ(1949)
落札価格: 360,000ポンド(約5,100万円)

非常に需要が高く、レアなスーパースポーツカブリオレ。
世界的にも欲しい人(自動車を愛し、アルファロメオの歴史などを良く知った粋人)も多いが、さすがに美術品扱いのレベルなのか価格も5000万超とかなりの高額。
それでも美しいボディはもちろんピニンファリーナであり。流麗なラインやセンターに折れ線がついたフロントガラスなど見るべきところは満載。細部までピカピカのミントコンディションではなく、若干のレストアが必要な雰囲気ではあるが、だからこそより魅力的ともいえる。落ち着いたボディカラーも、そこだけ外して飾っておきたいようなフロントグリルなども、どの部分も高貴で美しい。こういうノーブルなアルファロメオは、もう二度と世の中に出てこないのであろうか。

シトロエンDS19M デカポタブル コーチワーク BY アンリ シャプロン(1965)
落札価格: 148,500ポンド(約2,100万円)

エレガントにしてレアなアンリシャプロンボディのUK向け右ハンドル&MT。フルレストア済。
 珍しいデカポタブルがざっと1400万円。フルレストア済とのことなので、気になる信頼性も「しばらくは」大丈夫かと思うが、それでもしっかりとメンテナンス作業を継続しないとあっという間に不動車になる可能性もある。ただしMTということなので、セミATモデルよりも信頼性も、運転方法などもMTよりはるかに複雑怪奇なので維持などは楽かもしれない。(そもそもシトロエンは故障自慢をするための自動車などではなく、DSもGSもCXも実用車として設計、生産されているわけだし、ちゃんとそれなりのメンテナンスを普通に施しているのであれば、それほどの維持費も苦労も背負い込むことなく乗れるはず、なのだ)。
もしこのシトロエンDS19M デカポタブルを購入したら、フロントバンパー左右にフランス国旗をつけ、ディスカールデスタン大統領ごっこをして楽しもう。

シトロエンDS21 EFIデカポタブル コーチワーク BY アンリ シャプロン(1970)
落札価格: 135,000ポンド(約1,920万円)

こちらもアンリシャプロンのコーチビルドしたボディを持つデカポタブル。しっとりとした色合いの、なんともシックなボディカラーを持つDS21 EFIデカポタブル。オリジナルの書類付き。前述のDSが1965年なので、こちらはその5年後のDS21のデカポタブル(オープンモデル)。コーチワークもアンリシャプロンと血統書つき逸品である。おそらくオリジナルの塗装も含めて程度良さそう(ほかの部分と比べて劣化や色あせなどが極端にすくなそうなため、皮シートや、ソフトトップ部分、内装などはさすがに張り直し、だと思われる)

シトロエンDS23サファリ“ブレーク”(1973)
落札価格: 26,438ポンド(約375万円)

もっともスタイリッシュなファミリーフレンドリークラシックカー。右ハンドルDS23サファリ。
DSサファリの後に発表されるCXファミリアールも含め、宇宙で一番スタイリッシュなワゴン。積載スペースも抜群だし、いくら積み込んでも沈み込まないのはハイドロニューマテッィクの独壇場。
ただしこの時期のハイドロニューマテッィクはLHM(ハイドロニューマテッィクのオイル)なども別物であり、万が一間違えて混ぜて入れてしまったが最後、数百か所にも及ぶワッシャーやパッキンから出血が止まらず、最終的には複雑怪奇なすべての配管を、すべてやり替えることになりかねないのでご注意を。
なおこのリアサイドウインドーのじゃばら(サンシェード)は標準だ。

シトロエンSM 2.7 V6(1971)
落札価格: 33,188ポンド(約470万円)

当時のシトロエンのフラッグシップカー。
マセラティとの素晴らしいコラボレーション、今見ても未来的で自動車とは思えない宇宙船のようなフォルムだ。
だがエンジン本体(カムチェーン部分)をはじめ、さまざまな部分に致命的な欠点があり、定期的なメンテナンスは必須である。それでもシトロエンエンスージャストであれば一度は、と思うのがSMといえる。シビエの6連ライト(ひとつは有名な、ハンドリングに合わせて動く機能をもつ)をはじめ、リアのスパッツなどもちゃんと備わり程度は良さそう。車ではなく美しいオブジェを買うつもり、でいかがでしょうか?

ランボルギーニLM002 (1987)
落札価格: 157,500ポンド(約2,240万円)

アイスブルーフィニッシュのLM002。これみよがしのフロントウインチのワイヤーも、街で見かけたらドン引きするほどの存在感も、まあこの車なら許せる気がする。ビタローニのミラーも妙に小さく見えるが、他の部分の造作が大きいから致し方ない。
極太のタイヤは特別サイズのピレリ スコーピオンだが、今やSUVのいくつかはこれぐらいのサイズのタイヤを履く時代になっていることにも驚く。釈迦に説法かもしれないが、田宮のラジコンカーで超有名になった「ランボルギーニ チーター」とは全くの別物、なんの関係もなく、こちらはれっきとした生産モデルだった。1リッターで2キロ程度しか走らない燃費などには気にせず、傍若無人なあおり運転をするSUVなどに制裁をくらわせるくらいの迫力で静々と乗ろう。

デローリアンDMC-12(1981)
落札価格: 25,875ポンド(約365万円)

ワンオーナー。25,850マイル。
そして最後の1台は、もはや説明不要のバックトゥザフューチャーのクルマ。
あの映画の主人公はマーティでもなくビフでもなく、このデローリアンなのである。
もちろんバックトゥザフューチャーのイメージが強すぎて損をしてはいるが、自動車としてみてもジョルジョット ジュージアーロデザインのボディに、PRV(プジョー、ルノー、ボルボ)共同開発のエンジンを載せた、ちゃんとした自動車である。ワンオーナーでこの状態で365万円というのはリーズナブルではないだろうか。
言うまでもなくステンレスのボディを持っているので、ボディカラーはこのステンレスの色のみ。ステンレスということは台所の流し台と同じなので、ワックスは不要なため、汚れたらカネヨンで磨いて乗ろう。

Text: 大林晃平(Auto Bild Japan) 
Photo: SILVERSTONE AUCTIONS

https://www.silverstoneauctions.com/

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