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【JAIA試乗会】電気蠍はアバルトファンを裏切らなかった!! アバルト 500e ツーリズモ カブリオレ

2024年2月14日

EVとは、ほど遠いブランドに思えるアバルトが、ガソリンエンジンモデルからBEVにシフトすることになり、多くのアバルトファンが残念に思っていると思う。私もそんなアバルトファンの一人であったが、今回試乗して、いい意味でアバルト 500eがアバルトファンを裏切ってくれたのかもしれないと思ったのだった。

アバルトは1990年代後半にフィアットに吸収され、2007年に公式にアバルトの復活がアナウンスされてから、現状フィアットのモデルをベースにハイパフォーマンスモデルを販売することで、近年成功を収めている。メルセデス・ベンツとメルセデスAMGの関係に等しい。

アバルト 500eは既に日本でも2022年から販売開始している、フィアット 500eと同じシャシーと同じパワートレインを持ち、コンピューターチューニングのみにより、フィアット 500eより、37psアップの155psとなり、その分、電動での走行可能距離が32km少ない303kmとなっている。

また、フロント、リアのバンパー変更や、シートがバケットシートに変更され、スポーティな仕上がりとなっている。そして、フィアット 500eとの最大の違いは、マフラーは付いていないが、マフラーの太鼓部分に搭載されているスピーカーだ。これはエンジニア達が開発したアバルトのブランドイメージであるレコードモンツァのエキゾーストノートを忠実に再現するサウンドジェネレーターなのだ。

アバルト 500eのマフラーが付く太鼓の部分に搭載されているこの丸いスピーカーが、レコードモンツァのエキゾーストノートを忠実に再現するサウンドジェネレーターだ。
アバルト 500eのフロントバンパーのグリル部分にABARTHのロゴが入っている。

BEVでも軽快に走る!

実は私はガソリンエンジンモデルの現行アバルト695のオーナーでもあり、アバルトの大ファンである。パワートレインがガソリンエンジンからBEVにシフトしたことで、正直現行アバルトに乗り続けることを決めている。とは言え、新しいアバルト500eは気になっている存在である。そして今回、アバルト500eツーリズモ カブリオレに試乗することができた。

車内に乗り込み、エンジンスタートボタンを押すと、ガソリンエンジンモデル同様に「ゲロゲロゲロゲロ・・・」とレコードモンツァのエキゾーストノートを奏でる。この音はアバルトが6000時間以上かけて開発したサウンドジェネレーターであり、窓を開けた時に外に聞こえる音と、窓を閉め切った車内の音が異なって聞こえる気がした。このサウンドジェネレーターはもちろんアクセルペダルと連動していて、加速時には気持ちが良い音を奏でる。そして、車内では単純にエンジン音を再現しただけでなく、何処か電気的なものを連想させるエキゾーストノートに聞こえたのだ。

走り出して直ぐに、床下に配置されたバッテリーにより、ガソリンエンジンモデルのアバルト695より低重心で重量バランスがいいことがわかる。

走行可能距離を犠牲にして、バッテリー重量を抑えたことで、車両総重量が1,360kgと比較的BEVでは軽いため、トルクのあるモーターにより、低速時からガソリンエンジンモデルより軽快に走る気がする。BEVにとって走行可能距離は重要にも関わらずこの割り切りはフィアット、アバルト500のキャラクターを考えると正解だったのではないかと思う。

自動車専用道路に入ると、高速安定性もガソリンエンジンモデルより優れている。足回りについても、ガソリンエンジンのアバルト695はかなり硬くて有名であるが、BEVの500eでは、上質になり、多少硬めといった程度だ。また、ボディ剛性も非常に高く洗練されている。

センターコンソールにドライビングモードの切り替えボタンがあり、ツーリズモ、スコーピオンストリート、スコーピオントラックとあるが、パワーよりも、回生ブレーキの利きが大きく異なり、自動車専用道路や峠等走行シーンで使い分けると、楽しく走行距離を延ばせることができそうだ。

この日私がほぼフル充電から、約80kmを試乗してバッテリー残量が75%になっていた。走行可能距離303kmを考慮するとまあまあバッテリー残量も正しい数値と思われる。

一方で、FFでありながら、ステアリングが軽く、コーナでの手ごたえに物足りなさを感じた。また、メーターパネルでアバルト500eのいろいろな設定が変更できるが、正直分かりづらく使いにくい。

価格がハッチバックで630万円、カブリオレが660万円もする。テスラモデル3が561万円から購入できることを考えると非常に高額な価格設定となっていることが残念だ。

アバルト 500eのシート表皮はアルカンターラでホールド性や座り心地も問題ない。ステアリングのセンターマークがブルーになっている部分など、環境に配慮した車のイメージに繋がる。
外装も先代アバルトを継承するデザインとなっている。また、アバルト 500eには今までサイドのトリコロールカラーのフラッシュエンブレムではなく、電気を連想させるサンダーの蠍エンブレムが付く。

ガソリンエンジンの継続モデルを感じることができるアバルト500e

今販売されているBEVの多くのモデルは、EVを主張している中で、このアバルト500eはサウンドジェネレーターからもわかるように、あたかもエンジンを搭載しているかのように錯覚させるモデルになっている。私の勝手な推測であるが、アバルト500ガソリンエンジンモデルの大ヒットや、アバルトのブランドイメージにより、おそらくアバルトのエンジニアたちは、ガソリンエンジンモデルで継続モデルを作りたかったに違いないが、社会環境によりベース車両であるフィアット500のBEVシフトにより、限られた条件の中で、このアバルト500eが生まれたのはでは無いかと思う。

しかし、今回試乗していい意味で刺激的で、アバルト500ガソリンエンジンモデルの継続モデルを感じることができ、BEVでもアバルトファンを裏切らない形で、この1台を製作してくれたと思った。

最後に、この車を試乗してゲームや映画の世界では無いが、今後1台のBEVで様々なガソリンエンジン車の音や走り等を疑似的に再現できるような車がそう遠く無い未来に出て来るのかもしれないと思った。

アバルト 500eのホイールセンターキャップの電気蠍のマークも印象的だ。18インチホイールでタイアサイズは205/40R18である。
アバルト 500eはカブリオレをオープンにした状態でも先代同様にデザイン的にまとまっていて素敵だ。

Text & photo: 池淵 宏