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これもある種のスクープ? ドイツメーカーが新型車をテストする秘密のテストコースを暴く

2020年7月7日

シークレットテスト 新車開発のためのドイツ車メーカーテストコース一覧

これらの閉鎖されたドアの向こう側のコースでドイツの自動車メーカーはテストを行っている。ドイツの自動車メーカーはドイツ国内に巨大なテストサイトを構え、新型車のテストをおこなっている。その秘密の開発センターがどこにあるのか、こっそりと教えよう。

フェンスは高く、壁は厚く、ほとんど通行不可能で、警備員の前を通過するのは警察であっても難しい。
秘密のテストトラックは、ドイツの自動車メーカーを厳重に保護する。
そして、それは不思議なことではない。
なぜなら、アッシュハイム(Aschheim)、ドューデンホーフェン(Dudenhofen)、エーラ=レッシエン(Ehra-Lessin)、インメンディンゲン(Immendingen)のいずれの場所であっても、最高レベルでの秘密保持が求められるプロトタイプは、通常、24時間体制で試験場に出動しているからだ。
ここでは、とりわけシャシーが徹底的にチューニングされ、エンジンはその性能の限界までプッシュされ、本当にハードにプッシュされ、その後に日常の道路上での操作と実用性が繰り返し、繰り返し、試される。

旧軍事訓練場でのメルセデスのテスト

ダイムラーは2019年まで、テストトラックとなる黒い森の新拠点を稼働させなかった。
その昔、ドイツ軍は、ここインメンデンで緊急事態時を想定してリハーサルを行った。文明から遠く離れた場所である。
ナンバープレートに「Y」と書かれた軍用車両が消え、武器や弾薬が取り除かれた後、ダイムラーは莫大な費用をかけてこの地を整備、テストトラックに生まれ変わらせた。
そして、その努力は報われた。
メルセデスとスマートのテストエンジニアたちは、今では年間12ヶ月、ここで車両テストの大部分を実施できるようになったからだ。
また、シュトゥットガルトから車で約1時間半の距離にあるため、時間と交通費を節約できるのもメリットだ。

見た目と同じくらい複雑。メルセデスは2019年から、ドイツのバーデンヴュルテンベルク州のイメンディンゲンに新しいテストセンターを設けている。

BMWはミュンヘン近郊のアッシュハイムでテストドライブを行う

国際的な競合他社と同様に、BMWもいくつかのテストセンターを運営している。
カリフォルニア州のオックスナード(Oxnard)が公道でのテストドライブのための拠点であるのに対し、ミュンヘン近郊のアッシュハイムや南フランスのミラマ(Miramas)では状況が大きく異なっている。
極秘のプロトタイプは、24時間体制で週7日、一般の人々の目やカメラから保護された状態で、敷地内を走り回っている。
さらに、BMWは数年前からスウェーデン北部のアリエプローグ(Arjeplog)近郊に冬期テストサイトを運営しており、ここではほとんどの自動車メーカーが12月から2月にかけて雪と氷の上で冬期テストを行っている。
この目的のために、冬の間に凍りついた湖を数平方キロメートルに及ぶテストエリアに変え、特にドライビングダイナミクスとアシスタンスシステムのテストを行っている。
夜になると、カモフラージュ用のフォイル(迷彩箔)がスカンジナビアの公道に張り巡らされ、テストコースが完成する。

グローバル。BMWは、ミュンヘン近郊のアシュハイムにある拠点の近くで、そして世界中で車のテストを行っている。

フォルクスワーゲングループには数多くのテストコースが存在する

アウディ、セアト、シュコダやVWのように、ポルシェは、フォルクスワーゲングループの様々なテストサイトで開発されている。
しかし、シュトゥットガルトからほど近いヴァイザッハでのテストは、ホームグラウンドで行われるので、ベストなテストトラックだ。
ここは試験中に覗き見されないように厳重に監視、保護されていることは言うまでもない。
これだけでは物足りない場合や、南イタリアのナルド(Nardo)の高速コースが空いていない場合は、ハノーファー(Hanover)の北に位置するエーラ=レッシエンへと旅を続け、そこにはVWが運営する強力なテストエリアがあり、アウディも利用している。
アウディのさらなるテストトラックは、ノイブルク(Neuburg)とノイシュタット(Neustadt)に存在する。どちらもインゴルシュタット地域内にある。

有名なスポーツカーの拷問コース。ポシェは、ポルシェ本社の在るシュトゥットガルトからそれほど遠くないヴァイザッハ開発センターでケイマン、911、その他のポルシェファミリーを過酷なまでに徹底的にテストしている。
エーラ=レッシエンに在るVWのテストコースで走行テスト中のブガッティ シロンのプロトタイプ。時速500キロ以上(!)のテスト走行も可能なコースとして有名だ。

オペルは数十年前からドューデンホーフェンでテストを行っている

オペル(現在はフランスのPSAグループに属している)は、1960年代半ばからライン=マイン(Rhine-Main)地方のドューデンホーフェンで中央テストセンターを運営している。
敷地内には、高速周回コース、スキッドパッド、エアバッグ実験室、空調室など70キロメートル以上の広大なコースがある。
50年以上にわたって、オペルの全モデルが生産に至るまでに2億キロ以上のテスト走行を行ってきた。
ここでも入場は厳格なセキュリティチェックの後に行われる。
リュッセルハイム(Rüsselheim=オペルの本拠地)からの人々でさえ、秘密保持は厳重に誓わされる。

石畳の舗装、モーグルの坂道とオペル車のプロトタイプ。

テストコース、それは自動車好きなら一度は行ってみたいと思う場所であるに違いない。
ホンダはニュルブルクリンクそっくりのコースを持つというし、マツダはヨーロッパのベルジアン路(石畳の道路)をそっくり現地から購入しテストコースに埋設していた。トヨタは広大な北海道の他にも多数持っているし、最近では愛知に驚くほどのスケールを持つコースを開発した(まだ建設中)。

いったいそんな場所でどんな未だ見ぬ新型車や、想像もつかない先行研究がなされているのか、興味は尽きないだろう。
だがテストコースは華々しさや楽しさとは無縁の、地道で忍耐の必要な試験が日夜行われている場所であろうことも想像に難くない。
おそらく「耐久」とか「ブレーキ」などと書かれたプレートを付けた車の中には、スパゲッティのような配線がのたうち回り、ノートPCを持ったエンジニアたちが、真夏の中でもエアコンを切ったりしながらデータを測定する…。そんな地味でつらい日々が続く場所、それがテストコースなのだろう。
高速巡回路を最高速度チャレンジでビュンビュン走るみたいなテストは幻想に違いないだろうし、そんなことよりも、いかに壊れないか、いかに誤作動をしないか、そして危険はないか、そんな解析をひたすら繰り返しながら、迫り来る発売スケジュールに間に合わせるべく実験を繰り返す、そんな姿があってこそ優秀な自動車が生まれるのである。
富岳のようなスーパーコンピューターの登場でかなりの解析もできるし、以前に比べればきっと多くのデータはシミュレーションで得られる時代なのかもしれない。
だが最後の最後に必要なのはマイスター級のドライバーが運転し、人間の感性にいかに合うかどうかを試す部分だろう。暑い日も寒い日も、雨の日も大雪の日も、かえってそれがチャンスとばかりに走行テストを繰り返すテスト部隊が必ず存在する。
華々しさなどみじんも存在しないような場所で、日々開発にいそしむエンジニアたち…。一生懸命な姿を一目見てみたいとも思うが、実際には素人のそんな甘い考えなど入り込む隙などありえない聖域なのである。

Text: Stefan Grundhoff
加筆:大林晃平