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【クラシック オブ ザ デイ】80年代のポルシェキラー「BMW M635CSi(E24)」物語

2023年12月3日

世界一美しいクーペと言われる初代6シリーズE24のトップモデルがBMW M635CSiだった。1980年代半ば、世界最速の4シーター、はたまたポルシェキラーと言われた。クラシック オブ ザ デイ!

「シャークノーズ」または「バイエルンエクスプレス」: これらは「BMW M635CSi」に対する一般的なニックネームであり、286馬力の「M88」エンジンを搭載した「BMW M635CSi」は、ポルシェ928S、ポルシェ930、ポルシェ944ターボと互角のパフォーマンスを発揮したことから、「ポルシェキラー」としても知られていた。1976年から1989年まで製造された「BMW E24シリーズ(初代6シリーズ)」のトップモデルである。

AUTO BILD誌は、1984年以降に生産されたスーパー6シリーズについて、”上級バイエルン車が他のすべての人の革ズボンを脱がせる”という適切な記事を書いた。当時、このスポーツクーペは世界最速の4シーターとされ、1989年まで5,655台が生産ラインから送り出された。現在では極めて希少な「M635CSi」は、まさにBMWの伝説である。それだけに、人気が高く、価格も高価である。

「BMW M635CSi」は、スポーツカーとラグジュアリーカーを見事に融合させた、速くて快適なクルマである。ボンネットの下には、M1と同じ4バルブDOHCの3.5リッター直列6気筒エンジン「M88」が搭載されている。

BMW M635CSiのツインテールパイプは、センター出し。Mのバッジ以外は、かなり地味に見える。

Mクーペの最高出力は286馬力、最大トルクは340Nmである。つまり、1.5トンのこのクルマは、わずか6秒半で100km/hを突破し、最高速度は255km/hに達する。動力伝達は、5速ギアとリミテッドスリップディファレンシャルを標準装備したマニュアルのゲトラグ製スポーツギアボックスが担う。

中央に配置されたツインエキゾースト

「M635CSi」は、低く張り出したフロントスポイラー、ボディカラーにペイントされたエクステリアミラーなどが、標準的な「6シリーズ」モデルとは異なっている。

初期の購入者の多くは、BBS製の鍛造ホイールにワイドタイヤ(VR 415 TRX)を注文した。もうひとつの特徴: ツインエキゾーストは、このBMWのリア下にほぼ中央に配置されている。

4シーターの室内には、スポーツステアリングホイールとスポーツシートが標準装備された。オンボードコンピューターとエアコンディショナー、オーディオが納まるセンターコンソールはドライバー側を向いている。

現在の市場状況と価格

現在、「BMW M635CSi」の中古車は、非常に希少であると同時に多くの人々から求められている。供給はかなり少ない。保存状態の良い個体の価格は、通常6万ユーロ(約960万円)の大台を超えている。

大林晃平:
世界で一番美しい2ドアクーペは何か?と聞かれたら、僕は40年前から「BMW 6シリーズ」と答えることに決めている。そして今でもその指定席は変わらないままだ。今でも6シリーズはまったく色あせないばかりか、妙に抑揚が強く、難解ですっきりとしないデザインばかりの現代の路上で、たまに6シリーズを見かけると、そこだけ空気が変わったような異空間にも感じてしまう。クラシカルとかそういうことではなく、あの頃の女優がずっとそのままの姿で凛として歩いているかのような、普遍的で永遠の美しさというのはこういうものか、と教えられるような自動車。それが6シリーズなのである。

この素晴らしいデザインを創ったのはフランス人のポール ブラック先生である。このお方、デザインした車がもうどれも殿堂入りの名作ばかりで、その一端を上げればメルセデス・ベンツSL(W113)。メルセデス・ベンツ600(W100)、その頃のメルセデス・ベンツのセダンすべて(W108、W109、W114、W115他)、同クーペ……とその頃のメルセデス・ベンツはすべて担当し、メルセデス・ベンツらしいメルセデス・ベンツを創造した後、BMWへ移籍し、今度は3(E21)、5(E12)、6(E24)、7(E23)といった、BMWらしい魅力を持ったBMWのすべてに携わった・・・。ということは、その頃の「格好いいあなぁ」と思えるゲルマン民族の自動車はすべてこのフランス人であられるPB先生がクリエイトされたのであった。いやはやものすごいお方である。

なんでもPB先生は絵を描くだけではなく、彫刻家(及び画家)としても著名で、ブガッティ ロワイヤルの復刻レストア作業の際には、コーチビルダーとして、自ら作業に参加したのだという。描いてよし、削ってよしの生粋の芸術家なのだ。

さて、そんな数々の歴史に残る自動車を作り上げた後、PB先生はメルセデス・ベンツのデザインをブルーノ サッコ(サッコ氏はイタリア人)に譲り、一方のBMWでは、その後、ピンキー ライ(香港出身)、クリス バングル、長島譲二、エイドリアン ファン ホーイドンクといった著名な方たちが担当し、今に至る。

肝心の?PB先生はといえば、生まれ故郷のフランスにもどり、今度はプジョーのインテリアデザインを担当し、505、405、605、106、406、206などのデザインを生み出しただが、こちらの方は個人的には普通な感じのインテリアという印象が強く、エクステリアほどの切れ味を感じられない代わりに、毎日触れても飽きない、おとなしい印象の物だと思う。

そんなPB先生の経歴で自動車以外に特筆しておかなくてはいけないのは、高速鉄道のTGVをデザインしていることで、やはり多彩な才能を持っていた方であるといえよう。そんな先生は今年90歳とのことだが、まだまだお元気らしい。先生の有名な言葉を最後に書いておこう。

「クルマのデザインとはナイフのようにとがっていても、ジャガイモのように不格好でもいけない。その中間がちょうどよい」。うーん、深い、やはり芸術家ですなぁ。PB先生、今の巨大なキドニーグリルを持った、エレクトリカルパレードに出る車輛みたいな巨大SUVのBMW、どう思われますか・・・?(;^ω^)

Text: Julian Rabe
Photo: AUTO BILD