初テスト マツダMX-30 マツダ初の電動SUVモデル その評価は?
2020年6月29日
マツダMX-30: テスト、EV、SUV、クロスオーバー
マツダ初の電気自動車でも運転の楽しさは失われていない。マツダMX-30クロスオーバー、2020年9月末に発売へ。そのデビューEVを早速試乗してみた。
マツダがEVデビューで歩む道は大胆だ。全長4.39メートルのMX-30は、長いボンネット、対照的なルーフとドアが反対方向に開くという目を引くデザイン、シックなインテリアに加えて、何よりもドライビングの楽しさを追求している。そして、日本のエンジニアたちは、この点でなかなか良い仕事をしてくれた。
1.7トン近いMX-30は低回転域からのたっぷりとしたトルク、ダイレクトなステアリングが印象的だ。ウィッシュボーンやツイストビームアクスルなど、フロントにマクファーソンストラットを採用したシャシーも、うまくチューニングされている。
しかし、MX-30は決してスポーティではない。それが本来の姿であり、マツダのコンセプトなのだ。
ワインディングカントリーロードでは、G-ベクタリングコントロールが活躍し、バランスのとれたアクスル荷重と低重心の組み合わせで、ダイナミックなドライビングプレジャーを実現している。
容量35.5kWの310キログラムのバッテリーパックは、車内のフロアにフラットに配置されており、マツダによれば、理想的にはフル充電で最長262キロの航続距離が可能だというが、実際の航続距離は200キロ前後が現実的なようだ。
MX-30の走りは、街中を走るには快適だ
路上で速くて楽しいことは間違いないが、MX- 30は長距離旅行には向いていない。なぜなら、そのように仕立て上げられていないからだ。マツダは、都市部での使用にMX-30の主たる用途を置いている。航続距離もセッティングも、そうである。
街中では143馬力(107kW)と271Nmのトルクでドライブは十分だ。
MX-30は9.7秒で0から100km/hまで加速し、140km/hくらいで高速道路ではリラックスしてドライブすることはできる。一方、MX-30は電気自動車だからといって路上で完全に無音というわけではない。
アクセルを踏むと、速度が上がるにつれて車が人工的に音を作り、響かせるようになっている。これは特に迷惑なことというほどのものではないが、必要とも思えない。そして残念ながらオフにすることもできない。
50kWのバッテリーは30分でフル充電になる。容量が小さいのだから、時間が短いのは当たり前ではあるが…。
後部座席はちょっと窮屈な感じがする
装備は、ベーシックモデルでもナビゲーションシステム、LEDヘッドライト、パーキングアシスト、ヘッドアップディスプレイ、多数のドライビングアシストシステムなど、すでに非常に十分以上ものが兼ね備わっている。
また、現在のボルボモデルをちょっと彷彿とさせるシックなインテリアもある。繊維とレザーのインサートが入ったライトカラーのシートに加え、いくつかのスイッチや実用的な収納コンパートメントなど、すべてが非常に簡素で落ち着いたものに仕上がっている。
コックピットは、中央のデジタルディスプレイが2つのアナログディスプレイで囲まれていて、少し古い感じがする。音声操作が可能なセンターの多機能ディスプレイなどはもっと大きくてもよかったかもしれない。
リアのスペースは、傾斜したルーフラインと開けられない小さな窓のせいで、狭い洞窟の中にいるように感じる。
またRX-8が備えていた逆方向に開くドアは、ディテール的には優れていても、あまり実用的とは言えない。
マツダMX-30は、2020年9月25日から欧州市場に投入される。事前予約はすでに始まっている。
いわゆるファーストエディションのための33,134ユーロ(約410万円)というベース価格は、ここドイツでは、9480ユーロ(約115万円)という寛大なる政府からのEVへの補助金のおかげで、23,654ユーロ(約290万円)にまで引き下げられる。
マツダの今年の販売目標は2500台と現実的だ。
MX-30をどう考えるかは、なかなか難しい。
もちろんヨーロッパの法規をクリアするために必要な完全な電気自動車という観点からの必要性は言うまでもないが、誰に向かっての自動車なのかという点に関してはなかなかすっきりとした回答を得ることができそうもない。
航続距離だけで良い悪いを言う気はないし、すべての人が長い航続距離を必要としてはいない、という考え方もそれはそれで正論であろう。
だがこの車をシティコミューターなどの、それほど遠くまで行かない人向けのクルマかと思ってみると、ビミョーに大きく、使いにくそうな観音開きのドアがネックになってしまう。
ではちょっとおしゃれなSUVのEVとしてみる時には、おそらく実用で200キロ程度という航続距離が足を引っ張ってしまう。
普通のCX-30 と違うボディと、違う内装をわざわざ用意し、これから世の中に登場させるEVとしてみた場合、何か全体的にわりきれない、いま一つの感じがしてしまうのである。
もっと他車よりも優れた安全デバイスや運転補助システム、あるいは話題の通信システムなどの電気自動車ならではの新しい運転感覚、といった新しい雰囲気に何か欠けてしまっている。そういう点においては、同時期に世に出るホンダeのほうが圧倒的にわかりやすく、明快といえるだろう。
長年研究しているロータリーエンジンのエクステンダーは、まだまだ世に出るのは難しい何かがあるのかもしれない。そしてそれはかなり高価なものになるのかもしれない。だがデザインの他にあとひとつ、これから世に中に生まれる新しいEVとして、特徴的なものがあったならと思うと残念でならない。
今までのガソリン自動車と比較しても違和感のない運転感覚とか、そういうものを追いかけることもマツダの道なんかもしれない。だが、いやらしいほどEVであることを主張し、性能や自動運転や未来感を醸し出しているテスラやヨーロッパのメーカーのEVと比べると、あまりに控えめでちょっと心配になってしまうのも確かだ。
Text: Stefan Grundhoff
加筆:大林晃平
Photo: Mazda