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比較テスト ポルシェ タイカン対BMW M8 異なるコンセプト真っ向勝負

2020年6月18日

自然吸気エンジン対電動モーター どちらがどのようにいいのか? 

内燃機関エンジン対電動モーター? それがここでの質問だ。BMW M8グランクーペとポルシェ タイカン ターボ S。どちらも625馬力。公道とレーストラックを使って検証してみた。

全長約5メートル、全幅は2メートルに満たない、クーペのようなボディワーク、4つのドア。それぞれ625馬力。ここまではほぼ同じだ。しかしBMW M8グランクーペに搭載された4.4リッターV8とポルシェ タイカン ターボSに搭載された2基の電動モーターは異なるコンセプトだ。未知の戦いへようこそ。

ポルシェの0から100km/hスパートは、この世界ものではない。少なくとも我々がこれまでに経験したすべてのものからは遠く離れたもので、頭蓋骨の中の脳は後ろの壁に激突して、意識を失いかねない類のものだった。
スタートダッシュから2.8秒後、公道上でスピード違反事故さえ起こしかねない速さだ。だがBMWも負けず劣らず、3.1秒で100km/hを通過する。
しかし、私たちをさらに驚かせたのは、そこからもう100km/hまでの加速だった。
実は我々は、タイカンがそのあたりで息切れするのではと考えていたのだが、予想に反して、ポルシェ タイカンはその後も、猛烈に加速し続け、200km/h到達時点で、BMWにコンマ8秒の差をつけていた。
さらに、タイカンに標準装備されているカーボンセラミックブレーキシステムは残酷なまでに減速する。2.3トンEVは、わずか31.5メートルで、100km/hから完全停止する。
BMWもテスト車のM8にセラミックブレーキシステム(8,800ユーロ=約110万円) を装備していて、ポルシェよりも400キロ軽いのだが、M8 は、100km/hからの完全停止に32.6 メートルを要した。

レーストラックでの典型的なポルシェパフォーマンス

我々は、公平な目で両モデルをテストするためのレース トラックに、ユーロスピードウェイ・ラウジッツを選んだ。
走り始めるやいなや、我々はタイカンの驚くほど適切なアンダーステアに強い印象を受けた。中速域では大胆な走りを見せてくれるが、これは慎重にハンドリングすれば、最速ラップを狙う際に役立つ。約700kgのバッテリーによる低重心化により、ロールする素振りはほとんどない。
全長3,282メートルのコースを走り終えた時点でのラップタイムは1分32秒76で、歴代リーダーボード14位だった。
比較のために挙げておけば、歴代ラップタイム第1位はポルシェ911 GT2 RSの記録した、1分25秒91だ。
そしてBMW M8は? 1分32秒96(歴代16 位)で、タイカンよりも0.2秒遅いだけだ。ポルシェよりも機敏で軽快な足どりに感じるが、ツイスティな最初のセクションで手間取ってタイムロスしたようだ。
第2セクションではミディアムテンポからの加速が重要で、タイカンは容赦なく突き進む。
トップスピードでの突進が求められる最後のセクションでは、M8はコンマ数百分の1秒を回復し、フィニッシュラインを駆け抜けた。

BMWは今でもクラシックなスポーツカーのように聞こえる

ちなみに、エンジンサウンドの比較をする必要はない。
タイカンには、スポーツプラスの設定で「エレクトリックスポーツサウンド」という合成的に作られた哀れな音を除いて、何も存在しない。
一方、BMWは快調にサウンドを響かせている。
車内はどちらもレザーをふんだんに使っているが、タイカンには考えうるあらゆる場所にディスプレイが設置されている。
BMWにもデジタル機能はふんだんに備わっていて、幸いにも独創性に富んだiDriveのターンプッシュボタンで操作できるようになっている。
リアスペースはほぼ同等だが、ポルシェは、後席乗員の足の角度が極端に鋭くなるのを防ぐために、前席後方のバッテリーをわざと床に設置していないことを強調している。
タイカンの「フランク(「フロントトランク」の略)」には81リットル、リアには366リットルの容量が備わっている。
BMWのフロントにはクリーム色のV8が装備されているのは周知の事実だ。しかし、リアに440リットルのラゲッジスペースが備わっていて、トータルでは、ポルシェとほぼ同じ量のスペースが備わっている。
エンジンを除けば、かなり似かよっているのである。

完全な轟音。野太いサウンドをリアで発するV8は、フロントで強烈な推進力を非常に明確に提供する。

【フォトギャラリーと結論】

パワーの発生源が違いを作る。
BMW M8グランクーペは4.4リッターV8、ポルシェ タイカン ターボSは2基の電動モーター。
0-100km/h加速タイムは、ポルシェ タイカンが2.8秒で、BMW M8が3.1秒だった。0-200km/hはタイカンが9.7秒でBMWより0.8秒速かった。
タイカンに標準装備されているカーボンセラミックブレーキシステムは、力任せに減速する。100km/h時から完全停止まで31.5メートル。
BMWのテスト車にもセラミック製ブレーキが装着されていた。100km/h時から完全停止まで32.6メートル。
レーストラックでは、タイカンの驚くほど適切なアンダーステアが印象的だった。全長3,282メートルのコースを走り終えた時点でのラップタイムは1分32秒76で、歴代リーダーボード14位だった。歴代ラップタイム第1位はポルシェ911 GT2 RSの1分25秒91だ。
BMWのラップタイムは1分32秒96(歴代16 位)で、タイカンよりも0.2秒遅いだけだった。
車内はどちらもレザーをふんだんに使っているが、タイカンには考えうるあらゆる場所にディスプレイが設置されている。BMWにもデジタル機能はふんだんに備わっていて、幸いにも独創性に富んだiDriveのターンプッシュボタンで操作できるようになっている。

結論:
数年前のことだが、私の近しいクルマ好きが、「車にとってエンジン音は大切な要素なのに、電気自動車のような無音の車なんてありえない…」と言っていたのを思い出す。
同時にガソリンとオイルの香りのしない車なんてつまらない、ともその人は言っていた。
意外とそういう保守的な(?)エンスージャストは多く、少なくともミドル以上の年齢の自動車好きにとっては、エンジンの音や排気ガスの香りさえも大切な要素なのだろう。もちろんそれを否定する気もないし、そういう意見を聞くと妙に懐かしいような、そして嬉しいような気持になることも事実ではある。 
だが私はそんな、王道の自動車好きの中では意外と変わり者らしく、音がしない車も、香りのない車も嫌いではないし、いつかそういう車だけの時代が来るのだとしても自動車の根源的な魅力が失われないのであれば、どんなパワーユニットであってもぜんぜん構わない、とずっと思っている。もちろん今すぐに電気自動車に乗り換えるかと言われれば、航続距離や価格、そして充電時間や、充電場所の確保(これが一番厄介かもしれない)などを考えると、今現在はまだ電気自動車じゃなくてもいいや、というわがままな考えでいる。
なんとも自己中心的で申し訳ないけれど、まだガソリンが自由にどこででも手に入る時代が続くのであれば、わざわざ電気自動車を選んで乗ることもないか、というわけで、今現在も持っている自動車は普通のガソリンエンジンの車と、ディーゼルエンジンの自動車だ。いつか電気自動車に乗らなくてはいけない時代になったとしたら、その時に電気自動車に乗り換えればいい、環境に厳しい意識高い系の人から白い目で見られそうな発言だが、実際にそういう人は多いのではないか。

そんな人間ではあるけれど、今回の電気自動車とV8エンジンの車とどちらを選ぶかといわれると、相当悩む。
タイカンの電気自動車だからこそ持ちえた高性能はものすごく魅力的だし、航続距離もほとんどの使用条件の場合、不足のないところにまで来ているとも思える(充電時間や、充電する場所などを考えなければ、の話ではあるが…)。
だから2020年の今、タイカンを選ぶことは、実はM8やパナメーラのターボを選ぶよりもスマートで格好良いことなのかもしれない。そもそもポルシェという会社は、実は928や959を見ればわかるように、新しい技術を積極的に用いることも多い会社だから、タイカンのような車も決して嫌々作っているのではないとも思う。
だがその一方で、M8を2020年の今選ぶことが間違いかといえば、それも違う。
今や少数派となりつつある、ハイブリッドでもない純粋な内燃機関のV8を選ぶことは、これまたずるいかもしれないが、今が最後のチャンスかもしれないし、今後もう出現することのないパワーユニットかもしれないからだ。
おそらくタイカンを性能的にも航続距離においても超える電気自動車は、これからどんどん出てくるだろう。まだまだ電気自動車は「これから」の自動車なのだから。一方で、M8のような、昔気質の内燃機関の車は、ますます存在すること自体が不自由な世界になるだろう。そしていつの日か「V8エンジンの車に乗っていたことがある」というあなたの自動車歴は、そのころの若者たちに羨望のまなざしで見られる時代が来るかもしれないのである。

Text: Alexander Bernt
加筆:大林晃平
Photo: Ronald Sassen / AUTO BILD