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【クラシック オブ ザ デイ】AMGチューンが施された「三菱ギャランAMG」は文字通り超レアな日本市場500台限定モデル

2023年8月15日

三菱ギャランAMG: クラシック オブ ザ デイ。この177馬力の三菱AMGを知る人はほとんどいない。AMGがまだメルセデスの傘下に入っていなかった頃、他メーカーからのチューニングオーダーもあった。

AMGという伝説的な略称を目にすると、すぐにメルセデスのパワフルなモデルを思い浮かべるだろう。それもそのはず、アファルターバッハに本拠を置くAMGは1998年以来、実質的にメルセデスの一部であり、フロントに星印のついたあらゆるものの合法的なドーピングを専門としてきた。

しかし、1999年にメルセデスが株式51%を取得する以前は、シュヴァーベン出身のパフォーマンススペシャリストは他のメーカーからのオーダーも請け負っていた。たとえば、三菱からの依頼である。第2世代の「デボネア サルーン」がビジュアル的に洗練された後、AMGは1990年代初頭に「ギャランE30」を担当した。

三菱ギャランAMGは500台生産された

日本市場限定で500台が生産された三菱ギャランAMG。まず、ビィジュアル的なレタッチが施され、ラジエーターグリル、専用ホイール、サイドスカート、リアスポイラーが装着された。

三菱ギャランは、AMGによって技術的にもビジュアル的にもアップグレードされた。
Photo: Cars & Bids

AMGは標準のサスペンションを、ガス圧式ショックアブソーバーとスポーツスプリングを備えたものに交換した。

しかし、本当のハイライトはボンネットの下にある。「ギャラン」の2リッター自然吸気エンジン「4G63」には大幅な改良が施され、シャープなカムシャフト、改良型マニホールド、新型ピストン、チタン製バルブスプリング、中空ロッカーアームなどが採用された。その結果、144馬力から170馬力へとパワーアップされた。これほどのパワーアップのために、「ギャランAMG」の同世代のモデルはターボを使わざるを得なかった。

三菱ギャラン(E30系)はドイツ市場を駆け抜け、万能スポーツの栄誉を手にした。
Photo: Uli Sonntag

動力は5速マニュアルまたは4速オートマチックトランスミッションを介して前輪に伝達された。適切なトラクションがあれば、ゼロから100までのスプリントは約8秒で可能だったと言われている。オリジナル車であれば、フロントとリアのバンパーに「AMG」のエンブレムがあり、特別モデルであることがわかる。

全輪駆動で目立たないギャランはクライマーになった

6代目「三菱ギャラン(E30系)」はドイツ市場にも投入された。1988年春、比較的目立たない4ドアノッチバックサルーンが発売され、その1年後にハッチバックが発売された。

全輪駆動の「GTI-16V」は、後輪ステアリングを備えていた。そして、三菱ギャランのハイライトはこの全輪駆動だった: この全輪駆動のおかげで、雪に覆われた坂道を難なく登り、泥沼の林道を進み、地元の砂利採取場を横切った。

ラリー仕様の「VR-4」は、1989年から1992年にかけてヨーロッパ、アフリカ、アジアの重要なラリーで優勝した!

大林晃平: 三菱自動車とAMGと言うと、たいていデボネアAMGというネーミングが浮かぶ。確かにあの車の破壊力とちぐはぐさは並大抵のものではなく、一度見た人の記憶に深く残る。といっても、それは多くの場合、妙な車とか、戦車のような恰好とか、違和感を覚えて記憶に残るわけで、決して格好いいからとか、素敵なスタイルということでインパクトがあるわけではない、申し訳ないけれども。

なにしろデボネアといえばその名前とはうらはらに(?)、三菱自動車の最高級車として、本来ならば三菱コングロマリットの重役たちがリヤシートに収まって三菱商事の最上階にある三菱倶楽部で開催される三菱金曜会に乗り付ける三菱役員専用車みたいな車だからで、それがAMG化されたと知った時のインパクトと違和感は並大抵のものではなかった。

といってもデボネアAMGはマフラーが専用になる他は、外装のエアロパーツと専用ホイールだけが特徴で、それ以外のチューンナップはなく、フッカフカでサポートなど皆無のベロア調シートもオリジナルそのままであった。もちろんデボネアAMGが販売好調ということはなく、日本の自動車の歴史上、カルトな存在として今でも語り継がれている。

そんなデボネアAMGと比べると、ギャランAMGは、はるかにまっとうで、常識のあるAMG化をされていると言えよう。その前に、このころのオリジナルギャランといえば、やはりトップグレードのVR-4が大きな影響力を持ち、それは高性能なフルタイム4WDセダン、というイメージの強いモデルであった。ライバルは日産ブルーバードSSSのアテーサで、アテーサが人肌のぬくもりを持った高性能フルタイム4輪駆動車という絶賛評価を多くの自動車雑誌で得たのとは対照的に、ギャランは高性能だけれども、どこかサイボーグのように冷たい性格の高性能車と評されていた。

残念ながらその2台を比較試乗することなどできなかったから、本当にモータージャーナリストの皆さんが言う通りのことなのかどうか、全く証明などできないまま今に至ってしまっているが、ルックスやイメージカラー(ブルーバードは赤や黒に対し、ギャランはシルバーが定番だった)から受ける印象も、確かにそんな性格差だったように思う。

そんなことを知ってか知らずか、AMGがギャランに施したチューンアップや、そのスペックは大変興味深い。というのも、ギャランAMGはFWDで、ノンターボというスペックのギャランをベースにしているからで、ターボとフルタイム4輪駆動モデルの組み合わされた高性能モデルもカタログにあるというのに、あえてそれを選ばなかった、という点が興味深く、そして妙に嬉しくなってしまう。このころのAMGは結構ちゃんとした価値観を持っていたんだなぁ、と2023年現在、街にあふれるAMG G63とかを見ながら遠い目になってしまう。

なぜならば高性能一本勝負であるならば、ターボと4輪駆動が組み合わさったVR-4をベースに選ぶはずなのに、あえてAMGは普通ともいえるFWDとノンターボのモデルにそれらしいチューンナップを施し、さらには本物のウッドパネルや皮内装を与えたモデルを成立させているからである。決して数値や絶対的な高性能だけを追い求めたのではなく、ちょっと他とは違うギャランを演出しながらも、最高性能ではなく、運転して楽しめる自動車を目指していた、とも考えられるからだ。そして当時、価格的には300万円をやや切る、約280万円というプライスタグを下げて販売されたギャランAMGだが、500台のみと言うこともあってか、現在日本での流通はゼロ。今後も滅多に市場には出てこないだろう。

それにしても三菱はこの頃、いろいろなヨーロッパのブランドとコラボレーション企画をするのが好きだった。ミラージュにはイタルボランテのステアリングホイールとポルシェデザインのホイールのついたX1Xというモデルもあったし、デボネアにはアクアスキュータムの内外装を施されたモデルもあった。さらにランサーEXにはニナリッチの内外装を与えられた(色はボルドーとシャンパーニュという2色で、言うまでもなくどちらもワインの産地である)バージョンも設定されていた。

今ならそんなヨーロッパとのコラボレーション企画などうっかり提案したら、三菱金曜会で問題提起されてしまうような無駄遣い(失礼)ぶりだが、ゆるくていい時代だったよなぁ、と三菱関係者とは無縁の私などは、なんだか当時のそのお茶目っぷりが可愛く思えて仕方ない(笑)。

Text: Lars Hänsch-Petersen