【クラシック オブ ザ デイ】90年代初頭その軽さは感動的だった「プジョー106ラリー」物語
2023年7月29日
約100馬力の高速ラリーカーは、その軽さで感動を与える。プジョー106(S1)は、シトロエンAXと兄弟車でもあった。クラシック オブ ザ デイ。
「プジョー106(S1)」は、1980年代末のPSAの小型車製造の特徴であった軽量化の恩恵を受けている。フランスのリオンの子どもの重量は760から890kg。
なによりも、98馬力のパワフルなエンジンがそのパワーを十分に発揮する。「106」が今でもさまざまなモータースポーツで活躍しているのも不思議ではない。そして、フランスだけではない。
時速200kmに達するプジョー106ラリー
初代「106」世代のシックなスペシャルモデル、「プジョー106ラリー」は1993年に発売された。ボンネットに収められた1294立方センチメートルの4気筒エンジンは98馬力を発揮し、「106」の0-100km/h加速は10.3秒というものだった。
しかし、この小さな旋風は、曲がりくねった田舎道でこそ本領を発揮する。遅めのブレーキをかけて、ステアリングの正確な反応を楽しみながら、あっという間にカーブの頂点に達する。「106」が初心者のためのラリーカーとして人気があるのも当然だろう。しかし、スラロームレースでも戦闘力がある。
錆の点でもほとんど不満はなく、技術的にもそれなりに安定していると考えられる。時折発生する電気系統のトラブルに気をつければ、少ない費用で多くの楽しみが期待できる。
プジョーのハイライト: スチールホイール、デコラティブストライプ、レッドカーペット
「プジョー106ラリー」は、外から見ると白いスチールホイールとスマートなトリムストライプが目印だ。室内では、レッドカーペットがこの特別モデルの特徴だ。
購入前に、エンジン冷却システムなど「106」の弱点をチェックする必要がある。サーモスイッチに欠陥があると、エンジンに冷却空気が供給されないことがある。これはシリンダーヘッドガスケットの破裂につながる。
もうひとつ厄介なのは、ブレーキの消耗が激しいことだ。チューニングは比較的安価である。専門的な知識があると便利だが、安易にいじると予期せぬ出費につながることがあるからだ。98馬力の「106ラリー(S1)」が見つからない場合は、1.6リッターエンジンを搭載した「プジョー106ラリー(S2)を選ぶことができる。
大林晃平:
プジョー106が発表された当時、フランスの小型車はどれも魅力にあふれていた。ライバルのルノーはトゥインゴを発表していたし、プジョーにはちょっと上のセグメントに205もあった。シトロエンには106の兄弟車のサクソもあったが、これは日本に導入される際に登録商標の関係上、シャンソンという、なんとも間の抜けたネーミングを与えられてしまっていたが、シャンソンだって化粧品に商標登録があるはずで、どうしてシャンソンというネーミングが与えられたのかは、越路吹雪や菅原洋一だってわからないナゾである。
さてそんな106だが、ライバルのトゥインゴと比べると、ものすごく自動車の基本に正しい姿の小型車で、いかにも当時のプジョーらしい、端正で美しいスタイルを持ったモデルである。トゥインゴがモノフォルムの斬新なボディデザインと、自動車とは思えないように素敵な内装テキスタイルやディテール処理(ミントグリーンで彩られたドアロックなどが最たるものである)を持つのと比べると、メーターパネルもシートも当たり前の形や色で、そこがまたプジョーらしかった。
そしてこの2台とも実用面では甲乙つけがたいように使いやすく、タフで乗って楽しい小型車であったことが素晴らしい。小さく安いセグメントであったとしても決して手を抜かずに作る・・・。そんな良き時代のヨーロッパ車が106でありトゥインゴであったといえよう。この2台のどちらを選ぶかという究極の質問を受けたならば、可愛い姿をしていながらも骨太で実用性満載のトゥインゴに後ろ髪をひかれつつ、折り目正しい端正さを持った106を選んだかもしれない。
というのも、106には5ドアや1.5リッターのディーゼルエンジンといった様々なバリエーションがあり、さらにはグリフという小さな高級バージョンさえ存在していた。グリフの目指したものはもちろんルノーでいうところのバカラであり、小さいながらも本革シート(このころは本革シートは珍しかった)を持ち、ダッシュボードには小さいながらも木目パネルがついていた。グリフほどの高級バージョンでなくとも、5ドアの普通のモデルがプジョーらしくていいなぁ、と自分なりのチョイスを思い描いてみたものの、日本に導入されたのは、XsiやS16といった高性能モデルだけで、ヨーロッパではどの街角にもころがっているようなベーシックな106は最後まで導入されることがなかった。日本という特殊な極東のマーケットには高性能モデルのみ導入、という判断は間違ってはいないのかもしれないが、個人的には普通の106に魅力を抱いていたので、当時はそこがなんとも歯がゆかったものである。さすがにディーゼルエンジンは無理としても、1.0とか1.2のガソリンエンジンモデルで5ドアが導入されたとしたら・・・。
そんなじじいの繰り言はさておき、今回の106ラリーはモータージャーナリストとして有名な下野康史氏が当時購入し所有していたことでも知られている。下野氏といえば、TVRやフィアット126など、一風変わってはいるが、とにかく運転して楽しい自動車を所有していたことでも知られている。そんな氏が選んだほどにラリーは魅力的であったということの証左であろう。
106ラリーの魅力は国立劇場のように真っ赤なカーペットや、現行の208に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいような1620mm全幅など数々あれど、やはり一番のインパクトは800kg前後という軽さであろう。これは普通の106よりも100kgども軽い。100馬力に満たない馬力数値など、今の若者たちには笑いものかもしれないが、一度でもこの軽さの自動車に乗りクラッチをつないだのであれば、笑いなどどこかに消えて、軽さこそ正義であると実感することになると思う。エアコンも各種安全デバイスも装備されていないから実現できたと言ってしまえばそれまでだし、今とは比較できないかもしれないが、それでもこの軽さは適当に作って実現できるものでは決してない数値であろう。
そんなもの、大きさも装備も、クリアしなくてはいけない法規制も異次元の世界だから、比較しても無駄と言われるかもしれないが、今日本で購入できる一番軽いプジョーは208で、1,160kg。350kgほどもラリーよりも重い(比較しても意味はないかもしれないがe208は1,500kgと、106ラリーの2倍近い)。
安楽で快適で安全デバイス満載の208を決して否定しないし、自分で毎日乗るのであればやはりやせ我慢せずに208を選ぶと思う。でももう少し小さく、もう少しシンプルで軽いプジョーを出してくれたならば・・・。そう思うと同時に、自動車の魅力と正義にとって、軽さというのは普遍的なものだとも実感する。だからこそ106ラリーは忘れ去られることなく、いつまでも輝き続けていられるのだろう。
蒸籠蕎麦(せいろそば)ならぬ、具のない皮だけのガレットのように、なにも豪華装備などないけれど、運転すればひたすらシンプルで楽しい(美味しい)106ラリーの写真を見ながら、すっかり太っちゃったなぁ、と自分のお腹の脂肪をつまんでしまった。
Text: Lars Hänsch-Petersen
Photo: Peugeot