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【クラシック オブ ザ デイ】今や伝説 502台しか製造されなかった光速の190E「メルセデス・ベンツ190E EvoII」物語

2023年7月14日

メルセデス・ベンツ190E Evo II:メルセデス190Eの最もホットなバリエーションであるエボIIは、ボンヴィヴァンというより、アジテーターである。この光速のスモールシリーズは、合計502台が製造された。クラシック オブ ザ デイ。

メルセデスの「ベビーベンツ」である「190シリーズ」は、信頼性と長寿のモデルと考えられている。そんな190をメルセデスはDTMに参戦するためにAMGのスペシャリストたちと共に、強力なウエポン「190E 2.5-16 EvoII」を開発した。

502台が生産ラインから送り出されたこのホットなスペシャルシリーズは、今日、伝説的なスポーツカーとして高い人気を誇っている。

パワフル: 高回転型4気筒エンジンは、2.5リッターの排気量から235馬力を発生する。
Photo: Mechatronik GmbH

EvoIIの高回転型4気筒エンジンは強大なパワーを持つ

「メルセデス・ベンツ190E EvoII」の心臓部には、コスワースチューンの排気量2.5リッター、16バルブ、235馬力の高回転型4気筒が鎮座する。最高速度は250km/h。そして、この車輪のついた戦闘機「エボII」は現在でも多くのコンパクトスポーツカーを圧倒するパワーを持っている。

適切に運転するならば、「エボII」は1速で60km/hまで、2速で100km/hまで、3速で150km/hまで引っ張る。開発者は200km/hで初めて5速に入れることを推奨している。レッドゾーンは7700回転から始まる。だから、このトップオブ190は、ゆっくりおとなしく運転することなど到底できない。4000回転も回せば、運転席の後ろにいる誰もが恐怖心さえ覚えるほど無骨に、野太い轟音とともに突き進む。

ローランド アッシュとBMW M3は、DTMで190と激しいデュエルを繰り広げた。
Photo: Daimler AG

190E EvoIIは、1992年のDTMシーズンで最高のマシンだった

強く、軽く、速い「メルセデス190 EエボII」は、DTM史上最も成功したマシンの1台である。特に1992年シーズンは際立っていた。赤熱した「190」は24レース中16勝を挙げ、プラクティスの最速タイム、最速ラップ、そしてトップ走行キロ数を記録した。今日に至るまで、誰もメルセデスを凌駕することはできない。

AUTO BILD KLASSIK誌は、現代のAMGが、法外なパワーアップがされているにもかかわらず、いまだに「190E EvoII」から学ぶことは多いはずだと考えている(信じている)。

残念ながら、「スーパー190 EvoII」は懐の豊かな人のためのものでしかない。今日、オリジナルで、メンテナンスの行き届いた「190E EvoII」の価格は10万ユーロ(約1,580万円)を優に超える。

大林晃平: 本文にも記されているようにこのエヴォリューションⅡが登場した背景には、当時全盛であったDTMが存在している。多くの自動車雑誌のページには色とりどりのDTMレースの写真が踊り、恵比寿にあったミスタークラフトというお店にはDTMのコーナーがあり実に華やかにミニチャンプスのミニカーが販売されていた、そんな時代である。

さてエヴォリューションⅡというからにはエヴォリューションⅠも当然あるわけだが、こちらはⅡから比べると実におとなしいルックスを持ち、パワーも微妙に異なる。数値的に言えばⅠは231馬力で、それに対しⅡは235馬力と実にその差はわずかに見えるが、ちゃんとチューンアップされているのは、DTMに勝つための進化なのだから当たり前と言えば当たり前である。ちなみに普通の(?)2.3-16は175馬力、2.5-16は切りのいい200馬力と、覚えやすい数値となっている。つまりエヴォリューションⅡは30馬力ほどの性能アップが施されているのであった。

ⅠもⅡも生産台数はホモロゲーションを取得するために必要な500台(+α)で、当然のごとく希少車である。ボディカラーはカラーコードナンバー199と呼ばれるブルーブラックが圧倒的に多い。ほかにも白やシルバー、赤などもミニカーでは存在しているが実際に街で見かけたことはなく、印象的にもブルーブラックの車というイメージである。そして言うまでもなく好敵手のBMW M3がスマートでスリークな印象なのに対し、こちらは勝つためにはなりふり構っていられない、ともいえる迫力・・・。一歩間違えれば下品とさえいえそうなスタイルを持っていた。

そんな中でも一番のちょっとしたコスメティクアイテムは1速が左手前に来るシフト配列を持つシフトのノブで、ここにシリアルナンバーがXXX/500と記され、このXXXの部分がわざわざ赤く記されていることで、この部分が精いっぱいのドイツ人のおしゃれ心であったのだと思う。そして今やここが贋作か否かを見分けるポイントになっているのだから皮肉なものである。

エヴォリューションではない、普通の2.3-16や2.5-16でさえ希少であった当時、東京の街でも見かけることはほとんどなく、私がよく見かけるようになったのは、しょっちゅう入り浸って、お世話になっていた自動車雑誌の、セレブリティーな編集部員の方がこのエヴォリューションⅡを所有され、自家用車として使用されていた頃で、空高く起立したスポイラーはまさに猛々しい男のシンボルそのものであった。

本文には1,500万円などと書かれてはいるものの、今や世界的にその価格は3,000万円~4,000万円ともいわれるエヴォリューションⅡ。普通のモデルのボディパネルのみを取り付け、外板だけを換装した贋作のエヴォリューションも多く、それらはかなり良くできていることもあってか見分けが外観からはつきにくい(前記したようにシフトノブが一番の見分けるポイントと言え、あのシリアルナンバー部分まで交換している例は滅多にないと言われる)。購入の際はお気を付けいただきたい。

Text: Lars Hänsch-Petersen