【JAIA輸入車試乗会】仁義なきポルシェ対決: タイカン vs 空冷911 仁義なき戦い 三番勝負! その3

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先攻: ポルシェ・タイカン ターボ クロス ツーリスモ

「最新のポルシェは最良のポルシェ」という有名な言葉は、ポルシェ社の宣伝部隊とその精神的支配下にある自動車メディアがよく使う紋切り型のキャッチコピーである。しかしポルシェオーナーの方々がそんな進歩的なフレーズを使っているのは寡聞にして存じ上げず、彼らは口を開けば「空冷以外は911と認めない」「メツガーエンジンの997GT3までが本物のポルシェ」「991前期型のNAエンジンこそ至高」などなど、過去のポルシェが最良のポルシェであることを躍起になって説明しようとする。

筆者もそのひとりである。

80年代後半の3.2Lの最終型911と15年ほど付き合っている人間としては、ツフェンハウゼンの赤レンガの旧工場で作っていたポルシェこそが本物のポルシェであり、新工場で生産された964以降は……(以下、自主規制)。

さて、目の前に最新型のタイカン ターボ クロス ツーリスモがある。ポルシェ初のEVであるタイカンの高性能グレードのターボ仕様の、そのまたツーリングワゴンというほぼ最高級モデルだ。価格はオプション抜きで2105万円に達する。全長は約5メーター、全幅も約2メーターという堂々たるサイズだが、しかし乗り込んでしまうと他のポルシェと変わらずクルマの四隅を把握できるような感覚がある。内装のデザインや運転席から見える景色も実に嫌らしいまでにポルシェテイストであり、自分のポルシェが最良のポルシェと言いたいだけの度量の狭い空冷911オーナーをして、タイカンはポルシェ以外の何物でもないことを認めざるを得ない。

走り出すと、これもまた憎らしいほどにポルシェテイストである。まずステアリングの握り心地が何とも言えずにポルシェなのだ。握りが太く、柔らかな表皮で覆われることの多い最近の高性能車とは逆に、タイカンは普段手を添える9時15分のあたりの握りがやや細く、また硬質な手触りで愛車の空冷を少し思い起こさせた。このドライな感触がドライバーに緊張を強いるのである。いつの時代もポルシェは乗りやすく仕上げられているが、メルセデスのように安穏に運転できる訳ではなく、どこか生命を賭してドライブするようなところがある。

背筋を伸ばして街を静々と走ると、やがて交通量の少ない片側二車線の幹線道路に出た。前を行くのは地元ナンバーの軽自動車にミニバン。スーパーカーのように幅広いタイカンが後ろにつくと、さっと追い越し車線を譲ってくれた。ありがとう。そう呟きつつ、愚かな右足は無意識にアクセルを深く踏み込んでいた。

…………!!!!

軽自動車とミニバンは爆風に飛ばされたかのように後ろに吹っ飛んでいった。無言。予想もしない加速Gに血の気が引く。時間にして僅か数秒。この数秒でタイカンは未来にタイムワープしたかのように点から点へと瞬間移動した。このクルマは何なのだろうか。

果たしてこれは自動車なのだろうか?

後攻: 空冷のポルシェ911

タイカンの加速は狂気のレベルに達していた。こう言っては何だが、内燃機関のクルマなら500馬力も600馬力も経験しており、最新モデルならではの優秀なシャシーと電子制御システムのおかげで特に生命の危機を覚えることなくビッグパワーを楽しんできた。しかし、近年のハイパワーEVの中間加速はスーパーカーを乳母車に感じさせるほどの異常な暴力性を持っている。これは人類が初めて経験する世界である。

遡ること約半世紀、1974年のあの日、あの時、人類は似たような衝撃に遭遇している。ポルシェ930ターボの登場だ。それまで小排気量の軽量スポーツカーと、大排気量の重量級グランドツーリングカーしか知らなかった人類は、軽量ボディにターボエンジンを組み合わせた930ターボを初めて経験した。

930ターボの加速は異次元であった。

RRレイアウトで誰よりも重い後輪荷重を持つ911が、誰よりも力強いトルクを発生するターボエンジンに思い切り蹴飛ばされながら走っていくのだ。NAのカレラですらアクセルのオンオフでトラクションが目まぐるしく変化しドライバーを恍惚と恐怖の狭間に追い込むというのに、ターボのトルクは完全に致死量を超えていた。付いたあだ名はWidow-maker(未亡人製造機)である。

そんな訳で、タイカン ターボを走らせながら、初めて930ターボを運転した時の経験を反芻していた。これは現代に蘇ったWidow-makerではないか。ターボというグレード名は、930ターボの衝撃を再来させたことから名付けられたのだろう。モード切り替えで最辛口のスポーツプラスにして加速すると、狭まった視界の先に人生の走馬灯すら見えてくる。スポーツプラスでは加速時にV8エンジンのような演出音が鳴るが、これはドライバーの気持ちを盛り上げるというよりも、加速Gに相応しいサウンドを出して少しでも恐ろしさを減らすことが目的ではないかと思った。人間は無音で瞬間移動されると恐怖しか感じないものだ。

タイカンの試乗を終え、愛車の911カレラに乗り換えて家路についた。ノンパワーのステアリングは嘘のように重く、ブレーキは力いっぱい踏みつけないと効かず、それでいてエンジンは風のように軽く回る。タイカンや930ターボのようなヒステリックな加速はしないけれど、アクセルに即応する正確で力強いトラクションは全く同じ。トラクションこそがポルシェの本質である。時代もモデルも作り手も工場もすべて違うけれど、ポルシェはポルシェなのである。

結論: 空冷911の勝ち!

自分のポルシェが最良のポルシェ。ポルシェオーナーなら全員賛成してくれるでしょう。(笑)

【ポルシェオタクからのおまけ】

ポルシェの旧赤レンガ工場。
911、930ターボの元となったカレラRSRターボ(ポルシェミュージアムにて撮影)。
ポルシェにも電気自動車はあった(ポルシェミュージアムにて)。

ショートインプレッション by スタッフメンバーズ

今回のJAIA試乗会では多くのEVに乗ったが、こうもキャラクターが異なるのかと思った。内燃機関よりもそれぞれのキャラクターが際立つのか、タイカンはポルシェ感を凝縮しているような気がした。圧倒的な加速感と正確なハンドリングはポルシェそのものだし、これが4ドアで実現できていることに驚きを禁じえない。ただ、「ターボ」と言う名称だけが新時代のクルマにふさわしいのかが未だに腹落ちしていない。(日比谷一雄)

ポルシェ初のフル電動スポーツカーは大柄なボディにも関わらず、圧倒的な加速力と、異次元なドライブフィールと動力性能で、内燃機関では味わえない電動スポーツカーの未来や魅力を見せてくれた1台だった。また、スタイリングやエレクトリックサウンドが奏でる未体験の加速音等、数年先の未来の車が現代に現れたかのような体験ができた。また、電動になっても、ポルシェらしいハンドリングになっていたことに好感を持てた。今回タイカンの試乗によりポルシェの今後の電動化に期待が膨らんだ。(池淵宏)

Text: AUTO BILD JAPAN
Photo: AUTO BILD JAPAN