【JAIA輸入車試乗会】仁義なき同門対決:アルピナ B4 Gran Coupe vs BMW 330e M Sport 三番勝負! その2

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先攻:BMW ALPINA B4 Gran Coupe

写真を見ての通り格好いいクルマである。B4はBMW 4シリーズの4ドアクーペのアルピナ版であるが、巨大化したキドニーグリルへの違和感はもはや消え去り、クーペスタイルのプロポーションと低くセットされた車高、20インチの大径ホイールがクルマ好きの古典的な美意識を刺激してやまない。そしてアルピナを見ていつもニヤリとさせられるのは、フェンダーとタイヤのクリアランスやキャンバーの付き方が走り屋のセンスそのものなことだ。いわゆるツライチセットや車高ダウンはアルピナでは全く不要である。ノーマルの時点で完璧な仕上がりになっているからだ。

B4の3.0L 直列6気筒ターボエンジンは495psを発揮する。アクセルを踏むとノーマルのBMWとは異次元のダッシュを見せるが、それはレーシングカーや改造車のように迫力を前面に押し出すものではなく、あくまでもジェントルに振る舞うのがアルピナ流だ。滑らかな乗り心地と自然なハンドリングを両立させた足回りの仕上げも同様である。かつてモータースポーツの世界が優雅で貴族的であった1950年代に、マイク・ホーソーンという名ドライバーがいた。1958年のF1チャンピオンである。ホーソーンはレーシングジャケットの下に白いシャツと蝶ネクタイを合わせた出で立ちでレースに出場していた逸話を持つが、アルピナB4はそんなホーソーンのエピソードを思い起こさせる雰囲気がある。スポーツとスタイルの共演。それがアルピナのテイストなのである。

そんなアルピナであるから、乗って走って感じる動力性能やハンドリング性能は魅力の半分に過ぎない。見る時間帯によって微妙に印象を変える塗装の艶やかな質感、身体にしっとりと馴染む内装のレザー、スポーツドライブに必要なインフォメーションは届けつつも洗練を極めたステアリングやペダルの上品なタッチ。アルピナの年間生産台数はわずかに1700台程度であり、フェラーリ以上にエクスクルーシブな世界がそこにある。

今回試乗したアルピナB4でとりわけ素晴らしかったのは、内外装から走り味に至るまですべてのテイストが美しく統一されており、オーケストラの指揮者のような仕事をする開発者の存在を感じたことである。彼、もしくは彼女は、スポーツアスリートのような荒ぶる魂をエレガントな装いの下に隠し持つマイク・ホーソーンのような素敵な人物なのだろうと思う。そうでなければ、こんなクルマは作れない。

永らく独立系の会社としてクルマ作りを行ってきたアルピナだが、2026年以降はアルピナの商標権を獲得したBMWが企画と開発を行うという。BMWが作るアルピナが、オーケストラの指揮者を感じさせるクルマになるかどうかは誰にもわからない。いまわかるのは、アルピナ自身が作るアルピナを新車で乗りたいのならば、今が最後のチャンスということである。

後攻:BMW 330e M Sport

現行G20型になってから、不思議と5シリーズのような堂々たるサイズに見えてしまう3シリーズ。試乗車はM Sport仕様であったが、かつての颯爽としたスポーティな印象はなく落ち着いたスタイルである。パワートレーンはいわゆるプラグインハイブリッドであり、最高出力184psの2.0L 直列4気筒ターボエンジンに、最高出力109psの電気モーターを組み合わせている。高回転まで気持ちよく吹け上がる直列6気筒や、やや前傾姿勢で低く構えたスタイルで昭和の若者の憧れとなった3シリーズは、そのユーザーと共に歳をとってしまったようだ。

そんな訳で、かなりの低いテンションで下道を走り試乗会場となった大磯の歴史ある街並みを冷やかし、そして西湘バイパスを流して雄大な相模湾を眺めていたら、まったくクルマの存在を忘れてしまった。BMWを運転しているという心の華やぎ、あるいは駆けぬける歓びを感じていないことに他ならないが、反面、気に障るような欠点が何もない出来の良いクルマという証拠でもある。かつての昭和の若者は子育てを終え、仕事も引退しているだろう。そんな方が奥さんと田舎に旅行に行ったりするのに最適なクルマだと思った。いや、思っていた。

山坂道に差し掛かるまでは……!

かけらほどの期待も持たずに大磯の裏山に入りコーナーをいくつか抜けると、それまで一緒に走っていた後続車はすぐにミラーから消えた。速い!そして気持ちいい!さらりと軽いけれど正確なステアリングはスムーズなターンインを助けてくれる。1820kgと重いはずの車体はつるりと軽快に身を翻して脱出姿勢を決め、そしてコーナー出口のトラクションがいい。本当にいい。アクセルに即応してトルクが出てクルマが前に前に前に進む。この時、ATが唐突にシフトダウンしてトラクションが抜け、エンジンが吠えて唸ったりするのが従来の内燃機関のクルマだが、モーターを持つ330eはそんな無作法な真似はしない。ドライバーのアクセル操作とタイヤが路面を蹴るトラクションが1ミリのズレもなく美しく一致しており、コーナー脱出のアクセル操作が実に楽しい。これぞ21世紀の駆けぬける歓びである。

現在のBMWのクルマ作りのコンセプトを固めたモデルは、1960年代に登場した1500、通称ノイエクラッセである。その末裔は現在の5シリーズであるが、今回試乗した330eは、ノイエクラッセの「上品」「高品質」「スポーティ」という特徴をこれ以上ない形で再現していると感じた。90年代までのクルマが持つダイレクトな操縦感覚や内燃機関の味わいはないけれど、最新のクルマでないと持ち得ない清潔なステアリングフィールやモーターが生み出す洗練されたパワーデリバリーが、BMWが本来的に持つ上品かつ高品質なテイストを20世紀の技術では到達不可能なレベルにまで昇華させている。このクルマは21世紀のノイエクラッセなのだ。そのことに気がついた時、パンチに欠けると思っていたスタイルさえも、凛とした上質な佇まいで魅力的に見えてきた。330eは本物のBMWである。

結論: BMWの勝ち!

どちらも素晴らしいクルマに違いないけれど、BMW本来の魅力を見事に再構築してみせた330eにより深い感銘を覚えた。参りました。

ショートインプレッション by スタッフメンバーズ

JAIAの試乗会はとっかえひっかえさまざまなクルマに試乗するので、そのクルマのスペックが必ずしも頭に入っていないで乗り込んでしまうことがある。しかしこのB4グラン・クーペは別格だ。BMW製ストレート6を磨き上げたビターボエンジンは乗った瞬間にその素性がわかる。直6らしいビートを伴うスムーズな加速感だが、いつの間にか制限速度近くにまで迫っていて慌ててスロットルを戻す。495psもあることをあとから知るのだが、スペックから想像されるような乱暴な振る舞いが一切ないのがさすがのアルピナ。(日比谷一雄)

アルピナB4グラン・クーペを目の前にするとアルピナのエンブレムと伝統的なデザインのアルミホイールに目が留まる、次にドライバーズシートに座ると洗練された内装にアルピナの空気感を感じることができる。スターターボタンでエンジンを始動すると、直列6気筒のエンジンとステンレス・スチールから奏でるアルピナエキゾーストのすばらしさを再認識する。アクセルペダルを踏むと、滑らかにストレス無く加速していき、エンジン、ハンドリング共に究極のラグジュアリーカーである。(池淵 宏)

Text: AUTO BILD JAPAN
Photo: 中井裕美、池淵宏、AUTO BILD JAPAN