【ひねもすのたりワゴン生活】ちょいとひねくれ。軽井沢の秋物語 その6
2023年2月13日
伝説の巨漢力士と信州くるみが待っていた道の駅。
「道の駅 雷電くるみの里」は、思ったより離れていた。とはいえ、都内のような渋滞があるわけでも、赤信号に度々止められるわけでもないから、至極快適。昨年、南九州を旅した時も、市街地から少し離れると同じような時間を過ごしたが、こういうドライブを味わうと、普段の運転がいかにストレスに満ちたものかを知らされる。まぁ、都会のドライブもそれはそれで楽しさがあるのだけれど…。
建物に近づくと力士の姿をした大きな銅像が目に入る。そこでようやく気づいたのだが、駅名の“雷電”は、あの伝説の力士、“雷電 爲右エ門”のことだった。もうちょっと早く気づけよ…という話だが、雷電がこの地、東御市の生まれという縁でもうひとつの名物“くるみ”とのコラボになったらしい。
ご存じの方も多いだろうが、雷電は江戸時代に活躍した巨漢力士。197㎝、169㎏(他説あり)の大男と伝えられており、生涯254勝10敗という圧倒的な強さを誇った。あまりの強さに、張り手やかんぬきなど、さまざまな禁じ手が課せられたという。この身長、現代でもプロバスケットやバレーボール選手クラスだが、平均が155㎝程度の江戸時代には、彼の姿、存在そのものが話題になったことだろう。ここには、無料の資料館が併設されていて、化粧まわしのレプリカや、番付表などを見ることができる。無類の強さでありながら、素顔は気遣いの細やかな紳士だったようで、まさに“気は優しくて力持ち”だったのである。
さて、お目当てのくるみを求めて農産物の直売コーナーへ。今年こそ!と、意気込んで進む先に、鹿の角と熊の油が現れた。これもまた山の恵み…さすが信州である。思いがけない出会いだったけれど、鹿の角は飾り物としてだけではなく、ナイフのグリップや工芸材料としても用途は広い。値札を見ると、その手の専門店などよりずっと安く値付けされていて、思わず手を伸ばしたが、よく考えたら私には使い道がない。ナイフ作りを趣味とする知人がいるので、土産にいいかも?なんて頭を掠めたけれど、それにはちょっと小ぶりだったし、色や柄の好みが分かれるだろう。それにしても、これだけの角が得られるのだから、実に豊かな自然である。
その横に熊の油。馬油はよく見かけるが、これはあまり出会ったことがない。ヤケドや傷、肌荒れに効くらしいが、山に詳しい友人によれば匂いが強いそうなので、買っても家人に敬遠されそうだ。
さて、いよいよお目当てのくるみ売り場。ネットに入った信州産の大粒が積まれていて、心が躍る。しかし、春の天候不順の影響で収穫量が少ないため、購入できるのは1人2ネットまで…。さらに、並んでいるのは前年産で、新物は売り切れてしまったようだ。
ちなみに、これをすり鉢でペースト状にして砂糖を加え、餅に絡めたものが「くるみ餅」。国産のくるみで作ると風味も格別なのである。
くるみも手に入れ、目的は達成。すると、急に空腹感が襲ってきた。ここは信州…食べると言ったら、あれしかない。
向かった先は小諸の蕎麦店。以前の軽井沢滞在時に偶然見つけた店で、素朴な雰囲気と蕎麦の美味さが印象に残ったのだが、今回も旅の締めくくりに選んでみた。中山道から上田方面に向かう北街道沿いにあって、創業は1808年だという。200年をゆうに超える老舗だ。建物は130余年になるそうで、なるほど風格を感じるわけだなぁ…と納得。店内にはお土産用の蕎麦だけでなく、リンゴやおやきなど信州の名物が並んだ物販コーナーもあって目を楽しませる。ちなみに、この店は乾麺も150年の歴史を持つというから、それも味わってみたい。
オーダーしたのは、「くるみ蕎麦」。まず、小さなすり鉢とくるみが用意され、すり下ろして蕎麦を待つ。くるみの甘みとコクに、きりりとしたつゆが加わると、滋味豊かなつけ汁の完成。自家製粉の麺はのど越しよく香り高いが、北国街道は加賀の殿様も通ったというから、この味を楽しんだかもしれない。
こうして晩春の軽井沢旅は大団円…我が相棒は、信州の幸と2日間の思い出を満載して家路についたのでした。
Text&Photo:三浦 修
【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。
【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。