【ひねもすのたりワゴン生活】ちょいとひねくれ。軽井沢の秋物語  その5

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寄り道のつもりで訪ねた緑友食堂。それは小麦の香りが漂う林の中のパン工房だった。

 抱えるほどの野沢菜やずっしり重い根菜など、発地市庭での戦利品をカーゴルームに積み込んで向かったのは、例のパン工房「緑友食堂」。売場にあったチラシ一枚と、カーナビの案内でクルマを走らせた。カーナビ全盛のご時世だが、山中など人里離れたエリアでは頼りにならないことがある。普段、森や湖畔の撮影など自然相手の仕事も多いので、何度も何度も痛い目に遭ってきた(笑)。今回はそれほどではないにせよ、助手席でチラシ、ドライバーはカーナビ…という合わせ技がいちばん(笑)。

 件の食堂は、銀行の保養施設だった建物をリノベーションした複合施設だという。私たちが目指したのはイートインのできるパン工房のスペースだったけれど、羊毛の編み物教室や機織り教室、マッサージやヨガなども開催しているらしい。

庭先には大量の薪。これからの季節、薪ストーブの温かさが店内に満ちる

 それは静かな林の中にあった。木造のシックな建物の周りには、ほどよい間隔の木立が広がる。初夏なら緑の美しさが格別だろうが、この季節も枯れた木立の合間から注ぐ晩秋の光が柔らかく、気持ちいい。駐車もそんな一角で、駐車場というより林間の空きスペースに置かせてもらうというイメージ。それがまた素敵で、この2日、長距離を走ってくれた相棒も寛いでいるように見えた。やはり庭先には大量の薪が積まれていて、このあたりのライフスタイルを想わせる。

庭先の静かな木立で、心なしか相棒も寛いでいるように見えた

 小麦の香りが満ちる店内には焼き上がったばかりのパンが並び、テーブルで食べることもできる。キャッシャーの脇にバルミューダのトースターが置かれていて、購入したパンのリベイクも可能。コーヒーや紅茶もセルフサービスで楽しめるのが嬉しい。
 周囲の環境もそうだったように、このスペースにもゆっくりとした時間が流れていて実に居心地がいい。「ほっこり」、「のんびり」、「ゆったり」…いろいろな言葉が浮かんだけれど、やはり“居心地がいい”に尽きる。このあたりに住んでいたら、パンとスープを目当てに毎朝通ってしまうだろう。京都に旅すると、定宿の近くに美味しいパン店があって、毎朝舌鼓を打つのだが、ここも近くに宿を捜せば同じような過ごし方ができそうだ。

板張りの床や薪ストーブ…大きなガラス窓から眺める庭の木立。至福のひととき
店内には動物性脂肪や砂糖を使わないパンが並ぶ

 緑友食堂のパンは無添加を謳っていて、乳製品や砂糖は加えていないという。使用するのは信州や北海道の国産小麦粉と塩、そして3種の酵母だけ。2種の自家製酵母と、イタリアから持ち帰った小麦酵母を使い分けているらしい。素材を活かした…なんて言葉はあちらこちらで耳にするけれど、ここのパンをひと切れ口にすると、その意味を実感する。

黒板には、「寝かせ玄米」、「ごろごろ野菜と自家製味噌のおみそ汁」なんて、心疼く言葉が…

 リベイクすると香ばしさがひときわで、少し前に朝食を食べてきたのに、手が止まらなくなった。この日は時間が早かったけれど、昼近くになればサンドイッチなど調理パンも並ぶようで、寝かせ玄米とごろごろ野菜の具だくさん味噌汁なんて和なメニューもあるらしい。ちなみにメニューはすべてビーガン。女性客が多いのも頷ける。
 道の駅へ向かう途中のちょっとした寄り道のつもりが、すっかり寛いでしまって、気がつけば小一時間。爽やかな木立…温かみ溢れる建物…美味しいパン…ほどよい距離感の接客…「ここに泊まれたらいいのになぁ」と、後ろ髪を引かれながら道の駅に向かったのだった。
 国道18号線に戻り、佐久方面へ走る。途中、追分の古い宿場町風情も気になったが、今回は我慢…次回の楽しみに。同行の顔ぶれを見れば、なんといっても、最優先は道の駅(笑)。そして、くるみを手に入れなければならない。

緑友食堂のエントランス。軒先にキノコが干してあった

Text&Photo:三浦 修

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。