【ひねもすのたりワゴン生活】ちょいとひねくれ。軽井沢の秋物語  その4

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軽井沢の雪。そして、ひと抱えもある野沢菜との出会い

 翌朝ほんのひと時、雪が舞った。前日、「ここはあまり雪が降らないんですよ…」と教えてくれたホテルマンが、「お客様は運がいいですね。今年の初雪です」と微笑んだ。枯れ木立の間を雪が降りていく光景は、桜の花びらが散っていくようでもあり、その風情にしばし見とれてしまう。

朝、雪が舞ってきた。ノーマルタイヤだったので気になったが、ホテルを発つ頃にはすっかり上がり、青空になった

 朝食は、館内の割烹熊魚菴で和定食をとった。多過ぎず少な過ぎずのほどよい品数が嬉しい。この“ほどよさ”が大切で、最近、これでもかと食べきれないほどの品数を並べたてる宿に出会うけれど、夕食ならまだしも、和の朝食はそういうものではないような気がする。朝から刺身の盛り合わせや尾頭付きの煮魚がど~んと鎮座したり、和食なのにコップに注がれた生ジュースが何種類も並んだりすると、過ぎたるはなんとか…という教えが頭を過る。

 炊きたての美味しいご飯と、出汁のきいた熱々の味噌汁。焼いたばかりの干物と海苔や御新香。そして小鉢がせいぜい二つ三つ。それが美しく配されていれば、何もいうことはない。なんでもかんでも豪華にすればいい…というものではないと思うのは私だけだろうか…(笑)。

ごくありふれた和の朝食。さりげなさが嬉しい。ちなみに洋食も人気です…

 さて、この日は、これといって予定を立てていなかったが、道の駅好きな同行者がいるのだから寄らないわけにいかない。いや、今回に関していえば、旅の目的の半分近くを占めると言ってもいい(笑)。

 クルマ旅の楽しみは、訪ねた先々で出会ったものを片っ端から後先考えずに買えることだ。新幹線や飛行機では、持ち帰れる土産の量などたかが知れている。宅急便という手もあるが、買ったその日に家で受け取るのは不可能だ。土地の幸を、帰宅してすぐに楽しめるのもクルマ旅の魅力なのである。

 ちょっと話が逸れるけれど、そういった施設に寄る予定があろうがなかろうが、遠出するときには必ずクーラーボックスを積むことにしている。出先でどんな食材、美味に逢うか…行ってみなければ分からないからだ。まさに一期一会。せっかく手に入れた土地の幸を鮮度よく持ち帰るためには、クーラーボックスが最大の武器となる。プラスチックやステンレスなどのハードタイプと、折り畳みが可能なソフトタイプがあるけれど、保冷力ならハード、利便性ならソフトということになる。鮮魚店で見かける発泡スチロールの箱でも、充分に役は果たしてくれるが、あまりにも色気に欠ける(笑)。
 まぁ、いずれにせよ、千載一遇のチャンスを逃さないために、こういった保温ケースを積むことをお薦めしたい。自動車メーカーもロゴを入れたスマートなクーラーボックスを作ってくれたらいいのになぁ…(笑)。私の勉強不足で、すでにどこかが出していたらごめんなさい。

万平ホテルのカフェテラスのアップルパイ。人気の秘密は、信州産の紅玉のほどよい酸味と老舗ならではの丁寧な仕事

 さて、スマホで調べると、30㎞ほど先に「道の駅 雷電くるみの里」というのがあるらしい。時節柄、「信州に来たのだからクルミを買って帰りたいねぇ…」などと話したばかりだったので、異論なく目的地決定。実は前年、同じ頃に信州を旅した時には、一帯の店がどこも売り切れで、クルミを買うことができなかったのである。

 しかしその手前に、道の駅ではないものの、人気の農産物直売所があると判明。ホテルから10㎞ほどの「発地市庭」という施設で、地元の産物を中心にかなりの品揃えらしく、別荘族にも評判だという。行きがけの駄賃に…と、まずはそこを訪ねることになった。

 日本ロマンチック街道とも呼ばれる旧国道18号線を小諸に向かい、中軽井沢駅を過ぎた先で左折する。ホテルからの所要時間は20分ほどだった。広い駐車場には、別荘族と思しき高そうなクルマが並び、あらためてここが軽井沢であることを知らされる(笑)。

 大型体育館のような建物には、地粉を使った蕎麦屋も併設されていて、新蕎麦を手繰る客の姿が目に入った。つい引き寄せられたが、朝食を食べてきたばかりなので横目で通り過ぎる。
 広大な売り場は、その半分近くを農産物が占めるイメージで、入口付近には薪が積まれていた。ここを訪ねる人々の中には、薪ストーブや暖炉の愛用者も多いのだろう。

 すぐに目に飛び込んできたのが、大きな緑色の束。それは葉もの野菜で、ひと束が両手で抱えるほどのボリューム…値札を見ると生の野沢菜だった。野菜なのに「生」というのは妙な話だが、野沢菜のそんな姿は見たことがなかったのだ。野沢菜漬は大好物だから、時々食卓に乗せるけれど、それは工場で漬け込んでカットされた果ての姿。青々として厚みのある葉と、瑞々しくて太さのある茎は、都内のスーパーや八百屋ではお目にかかったことがない。
 で、「家で野沢菜漬けを作ってみたら?」そんな話が持ち上がった。この大荷物、脇に抱えて帰るのはちょいと辛いけれど、クルマ旅なら躊躇はない。211ワゴンのカーゴルームは、ふた束でも3束でも呑み込んでくれそうだ。こんな出会いも旅の醍醐味と言っていいだろう。

 30分ほどの間に、ショッピングカートはキノコや根菜など秋の産物で山盛りになった。で、レジに向かうと、その手前にいい香りを漂わせたパンのコーナーがあった。さほど遠くない店からの出品で、地図も添えたパンフレットも置いてある。カフェが併設されているようで興味が湧いた。
 だったらその店で焼きたてを買いたいよね…と、またまた思いつき病を発症(笑)。行き当たりばったりもいいところだが、これもまたクルマ旅の楽しさ。寄り道上等!気まぐれ歓迎!朝令暮改万歳!なのであります。

発地市庭で出会った生の野沢菜。その迫力にびっくりした

Text&Photo:三浦 修

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。