【名車物語 その9】ミュンヘンオリンピックの年にミュンヘンで生まれた高級スポーティセダン5シリーズの元祖 BMW 528物語

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BMW5シリーズでオリンピック・タイムトラベル。今日は時計の針を50年ほど前に戻そう!1972年、我々はミュンヘンでオリンピックを迎えた。ほぼ同時期に、BMWは新型5シリーズを初公開した。ちょっとしたオリンピックツアーの時間だ。

9月のある夜、7時過ぎに、ミュンヘンにあるBMW駐車場のアッパーデッキに車を停めた。目の前には4気筒をコンクリートで固めたようなBMWの本社、オリンピック競技場のテント屋根、高さ291メートルのオリンピックタワー、キドニーグリルの黄色いリムジンを交互に眺め、夕陽を受けてとても美しく輝くすべてを、まばたきしながら見つめていた。

携帯電話のバイブレーションがなければ1972年9月4日と思えたかもしれない。つい数分前、隣のスタジアムで16歳のウルリケ メイファルト選手が走り高跳びで1.92mの金メダルを獲得し、私たちは酔いしれていた頃だ。

50年前、ドイツは、77,000人収容のスタジアム、水泳・多目的ホール、アイススポーツセンターを備えた街区全体を、13,487人の選手と付添人のためのアパートも含めて、いかに早く、美しく、持続的にゼロから建設できるかを世界に示したのだった。

1972年 初代BMW5シリーズE12

同じく1972年9月に、最初の「BMW 5シリーズ」、モデルシリーズ「E12」がデビューした。

初代5シリーズ「E12」はその後1981年にかけて、1.8リッター直列4気筒の518から、3.5リッター直列6気筒の535まで、幅広いモデルが展開された。高品質、ラグジュアリーである一方で、モータースポーツでも活躍し続ける動力性能。そんなBMWのブランドイメージが確立される時期の、まさに中心を担ったシリーズと言っても過言ではないだろう。ここから5シリーズの世界が誕生したと言い切ってもよい。

ビル地下のカープールにあるカラーガイダンスシステム。

ルーフピラーがまだフィリグリーでボディが細かった時代、塗装がインカレッドやアマゾングリーン、リビエラブルー、あるいは我々のクルマのようにゴルフイエローで、カラーコード「070」と呼ばれていた時代、このクルマは気楽な時代を思い起こさせる。その頃4.62mはアッパーミドルクラスの尺度だったが、今では3シリーズでさえ9cm長くなった、と言わなければならない。かつて0-100km/hのスプリントが10秒を切ると十分速いということを、このクルマは思い出させてくれる。

「余裕があるから乗るクルマがある」というのが、昔の広告スローガンだった。「乗れるからBMWを買う」ということだ。

最大8000rpmのレブカウンター、緑は効率、赤は楽しさを表す。

22,530マルク(約170万円)の夢

2.8リッター直列6気筒キャブレター、165馬力、後輪駆動。当時は22,530マルク(約170万円)でFMラジオ「Bavaria」まで搭載した夢のような製品だった。

ラジオ上部のセンターコンソールにあるファンは、3つのわかりやすいダイヤルで構成されている。左側で冷温、右側で風の出る場所をコントロールする。真ん中には時計、その周りには3段階の換気用の回転輪を組み込んでいる。これ以上ないほどシンプルなデザインに仕上がっている。

ミュンヘン72とBMW75: まるで時間が止まってしまったかのようだ。

今回試乗した5シリーズはフェイスリフト前のモデルで、フューエルフィラーフラップはナンバープレート横の後方右側にあり、1976年以降のように側面にはない。スピードメーターは220km/hまで、レブカウンターは5000回転までが常にBMWを走らせるべきグリーンレンジ、6500回転からが、決して回してはいけないレッドレンジとなっている。

3速オートマチックは、やや遅れて、やや頑強に後輪にパワーを伝達する。4000rpmまでトルクがフルに発揮されないため、燃費を気にしないようにアクセルを踏まなければならない。

E12の中でも528iは、直列6気筒2.8リッターに燃料噴射装置を装備した高性能なモデルだった。特徴的なキドニーグリル、6気筒エンジンをアピールする丸目四灯。フェラーリやランボルギーニといったいかにもスーパーカー然としたウエッジシェイプのクルマに混じって、少し渋めのデザインだが、当時はスーパーカー少年たちから憧れの視線を集めていた。

全長4.62mの車輪のついたエレガンス。センターキャップにもBMWのエンブレムは「青い空、白い雲、プロペラ」を表す。

今回は試乗によって70年代の精神を感じ、直6を感じ、その音を聞き、ガソリンとオイルの匂いを嗅いで「5シリーズ」を堪能した。

技術データ・価格: BMW 528 (1975)
• エンジン: 6気筒、フロント縦置き
• 排気量: 2788cc
• パワー: 165PS@5800rpm
• 最大トルク: 238Nm@4000rpm
• 駆動方式: 後輪駆動、3速オートマチックトランスミッション
• 全長/全幅/全高: 4620/1690/1425 mm
• 乾燥重量: 1385kg
• トランク容量: 440リットル
• 0-100 km/h加速: 9.5秒
• 最高速度: 198km/h
• 平均燃費: 9.2km/ℓ
• 価格(1972年当時): 22,530マルク(約170万円)

かつての直線的な、いわゆるBMWらしいスタイルを好む人は、それを色濃く残す「E12」に魅了されるだろう。長く存在感のあるボンネット、前傾したフロントグリル、BMW独特の凄みすら感じる顔つきもシンプルなデザインはいまもまったく色あせていない。

【ABJのコメント】
本当にBMWらしいBMWというのはどれか?

BMWファンにはそれぞれの回答があるかもしれないが、個人的にはこのころの「5シリーズ」が僕にとっての懐メロでもあり、BMWらしい一台であると主張したい。今見てもシンプルで美しいボディデザインや、明快で当時のブラウン製品を連想させるような美しい内装などなど、当時のメルセデスベンツとはあきらかに違った思想で作られていたモデル、それがこのころのBMWではないか、と思うからである。

このころの「3シリーズ」も「5シリーズ」も今見ると大変繊細で、ちょっと華奢なイメージさえ抱いてしまうが、それこそがライバルのメルセデスベンツとは一番違う部分であり、明るい空気のアルプスの空と雪を抱いたエンブレムの意味は、そういう部分にもきっと反映されていたのだろうと思う。

今回、AUTO BILDのスタッフが試乗している「528」は明るいイエローのボディカラーと相まってなんとも不思議なほどの華やかさを演出している。それでも写真のとおりに今のドイツを背景において撮影しても少しも浮いたところがないし、古くさく感じられないのはさすがとしか言いようがない。内装も同じように、特別に古くささを感じるところはナビがないことやラジオの形態、エアコンシステムのコントローラーくらいで、メーターやスイッチは今のモデルよりも見やすく使いやすそうにも思えてしまう。オートマチックトランスミッションのセレクターだって今の微妙に使いにくいセレクターよりも使いやすそうではないか。

現在BMWの主流になっている逆回転のタコメーターをデザインした担当者に、ぜひこの一台に乗せてあげたい、そんな気持ちをいただくほど、この当時のデザインは明快で正しい主張にあふれていると思う。(KO)

Text: Andreas May
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de