【スーパーテスト】真のグランツーリスモ マセラティMC20を徹底テスト 車両データ&性能数値を含むフルレポート!
2022年9月16日
マセラティが贈る本物のグランツーリスモ。ついに古いGT時代とフェラーリとの結婚に終止符を打ち、マセラティは勇気を持ってMC20を作り、スポーツカーのエリートたちと競い合ったのである。果たして彼らの偉大なる挑戦ならびに新たなスタートは成功するのか?
F1テクノロジーがマセラティにも?最近、どのスポーツカーメーカーも、モータースポーツのトップクラスからエンジン部品やハイブリッド、エアロダイナミクスを採用したことを自慢げに話している。しかし、多くの場合、それは純粋なマーケティング用語に過ぎないのだ。
新型MC20とF1テクノロジー
モデナを拠点とするこの開発チームはまだF1とは何の関係もないが、噂によれば、イタリアのメーカーは近いうちに、ハースかザウバーのF1チームと組むことになると言われている。しかし、フェラーリとの長年のパートナーシップにより、F1への接近は多くの人々が気づかないうちに、いつの間にか実現されていた。
それでも、マラネロが初めから「MC20」のプロジェクトに参加したわけではない。では、マセラティの新型スーパースポーツカーに搭載されたF1技術はどこにあるのだろうか?
「MC20」もリアに6気筒ターボエンジンを搭載しているが、もちろんそれはまだF1の技術にリンクしているわけではないのだ。
「ネットゥーノ(Nettuno)」と呼ばれるこの新型エンジンは、マセラティ自身が設計・製作したもので、デュアル燃料噴射、デュアル点火、プリチャンバーの使用などが盛り込まれている。
630馬力@7500回転
ダブルイグニッションは、1気筒あたり2つのスパークプラグを使用するもので、マセラティのエンジンはF1のパワーユニットと共通の原理を採用している。エンジンに関する詳しい情報は?
排気量3リッター、V型、2つのターボチャージャーで脇を固め、電子制御式ウエストゲートを装備、運転席と助手席の後ろの低い位置に配置、Tremec製8速デュアルクラッチトランスミッションを搭載。
最高出力630ps@7500rpm、最大トルク730Nm@3000rpmよりを発揮。機械式リミテッドスリップディファレンシャルは標準装備、電子式は2,380ユーロ(約33万円)で、テスト車には装着されていた。このスペックだけでもかなり期待できそうな、ワクワクさせる内容だ。
6気筒とサウンド・・・、はどうだろう。リスニングとドライビングの実技テストはこれからだ。その前に、「MC20」のコンセプトについて少し説明を加えよう。
「メラクSS」、「MC12」に続くマセラティ第3のミッドエンジンスーパースポーツカーは、ダラーラ社と共同開発したカーボンファイバー製モノコックボディをベースに、高性能エンジンを活用するために準備されたものである。
モノコック構造ボディを採用しているのはマクラーレンだけで、マラネロの兄弟、フェラーリでもアルミニウム構造に限定している。「MC20」の広々とした室内もそのためだ。
また、インテリアは、上質な素材、カーボンファイバーを多用したシンプルなデザインで印象的なものとなっている。オンラインインフォテイメントも最新で、ナビゲーションも必要以上にジャマにはならず案内してくれるし、サウンドシステムも素晴らしい音だ。その上、伝統的で親しみやすい特徴も備わっている。
例えば、ボタンひとつでドアが開く、ループで閉じる、「ジュリアQV」でおなじみのモードコントロールなどだ。ノブをひねると、「Wet」、「GT」、「Sport」、「コルサ(Corsa)」、「ESPオフ」モードに切り替わる。
各プログラムでは、レスポンスから排気フラップ、シフトタイム、さらにトラクションコントロールからダンパーの硬さまでのパラメーターが調整される。電子デバイスによるトラクションコントロールは、100%(Wet)から90、60、30と少しずつ小さくなっていき、最終的にはOFFになる。
シザーズドアの採用により、入室が容易に
シザーズドアは、印象的なデザインだけでなく、入室を容易にするための工夫も施されている。そして、オプションのレーシングバケットシートに、完全にリラックスして座ることができるのだ。ただでさえ低い着座位置が、「MC20」ではさらにお尻がアスファルトに近くなる。
注目点: シートを電動で調整し、シェル全体を前方または後方に傾けることができる。変速機などの操作コントローラーは直感的で無駄がない。
細かい点では、画面上での温度設定がやや不便なため、運転から目を離すことが多くなる。また、バックミラーをディスプレイとして使うのは、少し慣れが必要だ。それに付随する外装カメラもそうだ。
「MC20」の美しいリアエンド: サイドとボンネットに設けられたエアインテークがエンジンを冷却し、インタークーラーにフレッシュエアを供給する。
さらに、控えめなティアオフエッジと大きなディフューザーを備えている。アンダーボディは完全に覆われている。「MC20」では、テールフィンや深いスポイラーリップは必要ないと発表されている。
専用開発された「ダンプトロニックX」システム
特別なディテール: 「マセラティ トライデント」を模したエアベントが付いたリアウインドウ。マシンを起動する前に、筐体について少し説明しよう。ブレーキバイワイヤーデジタル(オプション)として設計されたカーボンセラミックブレーキがテスト車両に搭載されている。
さらに、245と305のブリヂストン製20インチホイールと、ビルシュタイン製のアダプティブサスペンションを装備している。ドイツのサスペンションメーカーが、「MC20」のために特別に開発したのが「ダンプトロニックX」システムだ。ラウジッツリンクサーキットでの性能については、また後日報告したい。
その前に、モノコックやインテリア、カーボンブレーキなど、軽量なものの重量を挙げておこう。イタリア人は1馬力あたり2.3kgというフルボディーの目標を掲げているが、2.5kgにとどまっている。実際に「MC20」はファクトリー仕様より100kg以上重くなっており、これは決して良いスタートだとは言えないものの、ポルシェ、フェラーリ、マクラーレンのライバルは「MC20」よりも軽くはないのだ。
カントリーロードと高速道路へ。静止している時の「ネットゥーノ」は、630馬力とは全く違う、かなり細い音がする。そして、最初の数メートルもどちらかというと控えめで、我々が想定していたような爆発的な迫力はない。少なくとも「GT」モードでは、むしろ滑らかでクリーミーだ。
しかし、「Sport」モードに入れると、MC20が目を覚ます。バックのビートは明らかに喉越しが良くなり、シフトタイムもキレている。まさにその通りだ。マセラティのサスペンションは実によく、都心の石畳の路面でもそれほど震えることなく飲み込み、高速道路では長距離走行の達人になりそうな勢いだ。
最高速度326km/h?
ステアリングは緩すぎず、正確すぎず、まさにグランツーリスモのように細かく調整されている。新型エンジン「ネットゥーノ」を走行プログラムの「コルサ」モードに設定し、一度スピードを上げて気分を盛り上げると、もう止まらない。
2000rpm以下ではまだブースト圧がわずかに残っているが、それ以降はコンプレッサーが歪みなくチェーンにぶら下がり、スロットルのジャークのリズムに合わせて同時に回転し、タコメーターは、リミッターを連打するほど勢いよく空中に舞い上がる。ちなみに、スタッカートの硬質なエキゾーストノートのため、かなり壮快かつ愉快な体験ができる。
【車両データ】
モデル | マセラティMC20 |
エンジン | V6ツインターボ、センターリア縦置き |
排気量 | 2991cc |
最高出力 | 630PS@7500rpm |
最大トルク | 730@3000~5500rpm |
駆動方式 | 後輪駆動、8速コンバーターオートマチック |
全長/全幅/全高 | 4669/2178/1224mm |
ホイールベース | 2700mm |
乾燥重量 | 1604kg |
0-50km/h加速 | 1.3秒 |
0-80km/h加速 | 2.1秒 |
0-100km/h加速 | 2.9秒 |
0-130km/h加速 | 4.2秒 |
0-180km/h加速 | 7.3秒 |
0-200km/h加速 | 9.0秒 |
0-250km/h加速 | 15.4秒 |
0-280km/h加速 | 21.6秒 |
制動距離(100km/h時より) | 30.7m |
最高速度 | 326km/h |
テスト時平均燃費 | 6.8km/ℓ |
基本価格 | 230,000ユーロ(約3,220万円)より |
テスト車価格 | 252,015ユーロ(約3,528万円) |
ターボの備わった6気筒エンジンは期待を裏切らない。200km/hであってもさりげなく落ち着き、2回シフトダウンすれば250まで、300でも難なく駆け上がる。最高速度326km/hは、むしろ控えめな表現だ。しかしながらそんな走りの楽しさの中で、残念ながらカーボンブレーキはネガティブに目立ってしまう。フィードバックに欠け、細かいドージングができず、全体的に古臭く、石のような感触で、残念だ。一方、縦方向のダイナミクスについては、ストッパーが強力で少なくとも制動距離に関しては納得できる。
0-100km/h加速: 2.9秒
ポルシェならローンチのテストを中止するところだが、マセラティの開発チームは冷静に受け止め、他の測定の前にローンチのテストをするよう勧めただけだった。嬉しいことに、スプリントスタートでブリヂストン製タイヤが一時的に温められる。ステアリングホイールのローンチボタンを押すと、回転数は3.5回転に落ち着き、6気筒エンジンが素晴らしい音を立て、2つのターボチャージャーが唸りを上げ、そして走り出すのである。
「MC20」がスリップすることなく飛び出し、シフトチェンジのたびにブースト圧が力強くアクションを起こし、2.9秒後には100mの壁を破るのだ。そして、まさにそれは続いていく。200(9.0秒)、250(15.4秒)、280km/h(21.6秒)へと。0-300km加速には、2.5kmのストレートは短すぎた。
ブレーキも、先ほど述べたように、やや麻痺しているが、幸いなことに、タイヤのグリップ力は高く、ABSはうまく調和しており、100km/h走行時から30.7メートルという優れた制動距離も納得のいくものだ。
いよいよMC20の本気度が高まる
そして、サーキット走行。今回はラウジッツリンクだ。コルサモードでロールインするとシャシーがかなり硬すぎることが明らかになる。もう少し柔らかい方が良い。そして、もうひとつ目立つことがある。常時稼働しているツインターボは、「MC20」を想像以上にオーバーステアにしているが、それを利用すると楽しく走ることができる。
それでも速いラップを刻む秘訣は、挑戦するよりもその俊敏性を鍛えることにある。そして、タイヤを交換して、さらにラップをこなす。
つまり、コーナーの立ち上がりで少し戻し、安定したところで頂点に向かって誘導し、できるだけ早く巨大なトルクを取り戻すことを確認するのだ。特に、高いギアを使ってコーナーから加速する場合に効果的だ。
トラクションそのものもすごいのだが、730ニュートンメートルというトルクの数値を鑑みると、有限であるとも言える。特に低速ギアでは、ラップタイムを向上させるよりも早く、横向きになることに気づくだろう。そして、これは、起伏のあるブレーキングゾーンで急減速すると、まるで魔法にかかったようにシャシーがハードにセットされるのだ。
しかしながら、マセラティは次のコーナーで完璧にコーナーを曲がらず、長い左コーナーでのバンプも完全にカバーしきれなかった。何があったのだろう?どうやらABSが、ハードブレーキングが荒すぎると判断し、自己防衛策として自動的にサスペンションを固めに戻したようだ。さらに何度かトライして、1周はゴーストの介入なしにうまくいったが、それでも最終的にはコンマ数秒しかラップタイムを更新できなかった。結局、すべてはスピードが足りなかったのだ。630馬力、1604kg、良いタイヤ、1分30秒台前半のタイムがパッケージとして必要だ。結局、1分31秒41にとどまった。ラップタイム自体は遅くはないが、イタリア人も我々も、トライデントにはもう少し期待していたはずだ。
ザクセンリンクサーキットのほうが「MC20」に合っていたかもしれない。近いうちにチェックしたい。
結論:
マセラティに賛辞を送る。本物のグランツーリスモである「MC20」は、高速道路でも田舎道でも快適に走ることができ、レース場でも楽しく機敏に動き、ブレーキもきちんと効かせることができる。エクセレンテ(Eccellente)!
【ABJのコメント】
「マセラティMC20」、まだ実車には遭遇したこともなければ見たこともないが、レポートを読む限りマセラティらしいマセラティなのではないかと推測されるスーパースポーツである。後輪駆動でV6ツインターボ、というのは「ビトュルボ」を彷彿させる、というのはもはや古すぎる例えかもしれないが、それでも開発陣の頭のどこかには、そんなオマージュもあるのかな、とやはり邪推してしまう成り立ちではないか。
ハイブリッドシステムや電子デバイスによる四輪駆動というハイテクに頼らず、昔からのテクノロジーのどこが悪いんだ、とばかりに開き直ったかのようなスペック。ハイブリッドシステムやBEVでなければ車にあらず、という風潮を笑い飛ばすかのような清ささえ感じてしまうのは、やはりひいき目すぎるかもしれない。だがもう一か所、スペックを見ながらうれしかった点は、1.5トンを切っているウェイトである。往年の車重からすれば、あともうちょっとの減量を、と感じないこともないではないが、それでも他のスーパースポーツが2トンは当たり前のような重さを持つことを考えれば1.5トンを切ったことには大きな意義もあるだろう。
マセラティのSUVを否定する気はないが、「グレカーレ」や「レヴャンテ」のようなマセラティからのニュースを受け取るよりも、この「MC20」のレポートを読むほうが素直に嬉しい・・・。そしてできれば適当なサイズの4ドアセダンもマセラティとして残してほしい・・・。「ビトュルボ」や「クアトロポルテ」に憧れを抱いた世代にとって、SUVモデルばかりのマセラティなんて寂しすぎるではないか。(KO)
Text: Guido Naumann
加筆: 大林晃平
Photo: Maserati S.p.A.