【このクルマなんぼスペシャル】このワンオフの初代レンジローバーに約2千万円の価値はあるのか? その背景とともにレポート!
2022年8月15日
レンジローバーI 5.0 John Eales Developments: ファッシネイション オリジナル レンジローバー(Fascination Original Range Rover)。14万ユーロ(約2千万円)のユニークな初代レンジローバー。果たしてこのワンオフのレンジローバーIは14万ユーロ(約2千万円)の価値があるのか?我々は、この希少なレンジを駆る。ミニマイレージ、レストア済み、強化済み、でも見た目は絶対オリジナル。
この英国車は、ステアリングホイールに片手を添えて気軽に運転する習慣から、記録的な速さで私を解放してくれた。ハイパワーのフルステアアクスルに、片寄りのない典型的なセルフステアリングの挙動を備えた車だ。その理由は1979年製のこの旧型車には、Gemmer社製の循環式ボールステアリングが搭載されているのだから、当然といえば当然である。メリット: オフロードでのバウンドがほとんどない(ドライバーの親指を折ってしまうような力だ)。一方で、狙いを定める精度やコミュニケーション能力は、強みとは言えない。
ああ、「レンジローバーI」が「中古車で1万マルク(約70万円)」なんて見出しをポップに出していた時代があったことを思い出す。しかし今や、シグマリンゲン近郊のベウロンにあるランディポイントは、「レンジローバーI」を14万ユーロ(約2,000万円)で提供する。
この車が特別なのは、第一に8,000km弱しか走っていないこと、第二にレストアされていること、第三にシリーズ生産モデルよりパワフルであることの3点だ。3.5リッターV8の代わりに、クランクシャフトとマニホールドを新しくした拡大版、レスターシャー州のスペシャリスト、ジョン イールズ社の5.0リッターV8がボンネットに搭載され、273馬力で標準ユニットの2倍のパワーを誇り、エンジンの価格は約3万2,000ユーロ(約448万円)である。
オリジナルではないトランスミッション
このエンジンにより、レンジローバーはスロットルに素早く反応するが、決して攻撃的でなく、滑らかな加速をする。また、マニュアル変速機のおかげで、トルクコンバーターがパワーロスすることもない。
このギアボックスは、シフトトラベルが長いことで有名なオリジナルのものではなく、最近のディフェンダーに搭載されている、マニュアルの5速ギアボックスで、リダクションとセンターロックが装備されている。ボンネット、ドア、ホイールアーチ、ウィンドウシール、ブレーキラインなど、すべて取り外す必要があった。
70年代の「レンジ」は多くの作業を必要とした。リジッドアクスルのセルフステアリングビヘイビアは、ステアリングの補正が必要だった。ワイヤーハーネスは、オーバーホールの時期が来ていた。また、椅子張り職人を呼んで、ファブリックシートをオリジナルカラーのレザーシートに交換した。ランディポイントのボス、ウルス スティーグラーによれば、トータルで約500時間の作業だったそうだ。
オリジナルレンジローバーは邪悪な金づる?
また、「レンジローバー」によくみられるボディの腐食は、ここではまったく見られない(腐食は特にテールゲートを荒らすのが普通だ)。「テールゲートがまだ使えるという理由だけで、完全なドナー用の車を購入したこともあります」とスティーグラーは教えてくれた。
初代「レンジローバー」はカムシャフトの摩耗、クランクシャフトのベアリングや油圧タペットの摩耗、燃料ポンプやスターターの不調、ラジエーターの液漏れ、電気系統の異常など、金回りの悪い車と言われている。
ラジエーターの水漏れだけでも、コックピットを取り外さなければならないので、ワークショップで丸一日かかってしまう。1998年の『ゲレンデヴァーゲンマガジン』誌によれば、さまざまな故障のリスクは、同程度の年式と保存状態の「トヨタ ランドクルーザー」や「メルセデスG」の4倍にのぼるという。
1982年、初代レンジにオートマチックトランスミッションを初搭載
1970年から1995年まで、英国はこのフルタイム4輪駆動のパイオニアを作り、常にアップデートしてきた。1973年には、当初ウイング前面に取り付けられていたサイドミラーがドアに移され、同年にはパワーステアリング(当初は有償)、リアワイパーなどが追加された。さらに1981年に念願の5ドアモデルのレンジローバーが登場し、翌年には初めてオートマチック車を設定し、爆発的な受注を記録したのである。
1970年の発売当時、グランドホテル仕様のオフローダーは、他の追随を許さないものだった。「ジープ ワゴニア」は1963年から販売されていたが、レンジローバーのようなパッケージは他にはなかった。フルタイム4輪駆動、リアにレベル補正ダンパー(ボーゲ社製)、コイルスプリング、ディスクブレーキが全車に装備されていた。
オリジナルのレンジは実用的ではない
ミドルサイズサルーンより速い、オフローダー。オフロードでも「シリーズIIIランドローバー」より優れていることが多い。1970年から1978年の間に「レンジローバー」の価格は4倍になったからといって、売り上げが少しも落ちないばかりか、1987年には、「レンジ」は「ランドローバー」ブランドのベストセラーモデルとなり、ブランドを救ったほどだ。
オリジナルの「3ドアのレンジローバー」は、前席の乗員が後席の乗員を乗せた後、シートを再調整しなければならず、実用的ではなかった。自動巻き取り装置のない3点式シートベルトも、乗り降りの際には邪魔な存在だった。
開発エンジニアのジェフ ミラーは、分割されていないエステートテールゲートとロック可能なセンターコンソールを望んでいたが、レイランドのエンジニアや、生産化担当重役は、そのどちらとも拒否したのである。しかし、この面倒な「レンジローバー2ドア」にもファンがいたのだろう、結局1994年まで4ドアモデルと並行販売されることになった。
床から33cmの高さに座ってV8を聞いていると、そんな2ドアであることの不便さは気にならなくなる。この光のパビリオン、この全方向の透明感、まさに近代美術館にふさわしい作品だ。
【ABJのコメント】
「レンジローバーといえば、やっぱり故小林彰太郎さんの顔が浮かんでくる。おそらく「レンジローバー(その頃はレインジローバーと呼ばれていた)」を日本に紹介した最初のモータージャーナリストは小林さんで、自身も中期モデルの4ドアにマニュアルミッションを組み合わせたモデルを愛用し、軽井沢の別荘と旧碓氷峠をガンガン飛ばしながら往復していた、というレポートを垂涎もので読んだものである(ちなみにカーグラフィック誌で日本に輸入された最初のレンジローバーをレポートしたのは、なぜか小林さんではなく大川悠さんで、どうしてだろうと不思議に思ったものだった)。
結局、小林さんはマニュアルミッションで飾り気のない4ドアの「レンジローバー」を数年愛用したのち、「六本木などで妙な輩が乗り始めたことに嫌気がさして」(ほとんど本文のまま)しまったことが原因となり、「レンジローバー」を手放してしまうのだが、それ以降は、正直言って初代ほどの情熱を2世代目や3世代目の「レンジローバー」に抱いていたかというと、あまりそういうインプレッションを読んだ記憶はない。
おそらくこれは推測ながら、大きく豪華になりすぎ、本来の路線から大きく逸脱して、高級路線を歩み続けた「レンジローバー」には共感できなかったのではないか、と思われるが、僭越ながら私も「レンジローバー」は最初のこのモデルにつきる、と今でも思っている。そう言い切れるのは、実際にこの初代の「レンジローバー」の中古車をローンを組んで買い、所有していたことがあるからで、自腹で払っているからこそ、この車への思いは強い。そしてもちろん、当時はまだ若輩ものの私が無理を承知で「レンジローバー」を購入するという暴挙に及んだのは、もちろん小林さんのインプレッションに感化され、あこがれていたからであることは言うまでもない。
そんな私が以前に所有していたのは、アメリカから個人輸入した「レンジローバー カウンティ」という、4ドアにオートマチックトランスミッションが組み合わさったモデルで、3.9リッターのガソリンエンジンモデルであった。もちろん中古車で買ったものだったので、私のところに来た時点で、走行距離はざっと8万kmを重ねており、所有していた3年の間に2回路上で立ち往生する故障に見舞われた。一回は電気系統のトラブル、もう一つは燃料系統のトラブルだったが、まあそういうものだと思い、修理しつつ乗りながらも、「レンジローバー」を所有できたという喜びを、やせ我慢しながらも堪能していたのである。
その後、今までレンジローバーは4回のフルモデルチェンジを重ね、フルモデルチェンジするたびに私からは縁の遠い、超高級なSUVへと邁進していった。最近、最新の「レンジローバー」のインプレッションがさまざまなメディアに掲載されはじめたが、最低でも2,000万円は必要な、巨大で豪華絢爛な最新の「レンジローバー」は、もはや私の生きる世界とは別物の世界に君臨する自動車になってしまったことを痛感する。
さて、この初代「レンジローバー」、これこそが設計者たるスペン キングが手掛けた「ホンモノ」のモデルだが、美しい内装(標準モデルでは決して本革シートではないことに注目するべき)と、シンプルなエクステリアデザイン、そして細いタイヤと必要十分なパワー。そしてもはや決して大きくも重くもないそのディメンションとサイズ・・・。ここにこそ、「レンジローバー」本来の世界がある、と言ってもよい一台である。さすがに2000万円と聞くと、これまた私の生きる自動車世界とは別物の世界ではあるが、新型「レンジローバー」と今回の一台、どちらかをくれると言われたらあなたはどちらを選ぶだろうか? 小林さんなら一瞬も迷わず、初代レンジローバーを選ぶであろうことは間違いないだろう。(KO)
テクニカルデータ&価格: レンジローバー I 5.0 John Eales Developments
• エンジン: V8ガソリンエンジン、フロント縦置き
• 排気量: 4998cc(標準: 3528cc)。
• 最高出力: 273PS@5500rpm
• 最大トルク: 437Nm@3550rpm
• サスペンション: リジッドアクスル(フロント)&コイルスプリング(リア)
• タイヤサイズ: 205/80 R16
• 駆動システム: 全輪駆動、5速MT(標準: 4速MT)、オフロードED付き
• 全長/全幅/全高: 4550/1770/1770mm
• ホイールベース: 2540 mm
• 回転半径: 11.3m
• 地上高: 190 mm
• 最大積載量: 1,670リットル
• 乾燥重量: 1,870kg
• 牽引能力: 2,500kg
• 最高速度: 190km/h(標準:154km/h)
• 燃料タンク: 86リットル
• 価格: 140,000ユーロ(約2,000万円、標準モデル3.5 V8:36,000ユーロ=約510万円@コンディション2)
Text: Rolf Klein
加筆: 大林晃平
Photo: Landy-Point