【ひねもすのたりワゴン生活】私とワゴンの果樹園的生活365日 その5
2022年7月23日
空からやってきた窃盗団
満を持して、再度収穫に向かったのはゴールデンウイーク初日。乾いた風が心地よく、さくらんぼ狩りには絶好の晴天だった。我が相棒、211のステーションワゴンにザルを3つ4つ放り込み、飲物やタオルなど小物も積んで家を出た。
自称果樹園は、初夏の緑が眩かった。プラムも柿も無花果ものびのびと葉を広げている。その間をくぐって、さくらんぼに向かった。
と、………ない。さくらんぼがない。あんなに真っ赤だった樹が、ほとんど緑になっていた。枝の奥のほうに残っているのは、2割あるかないか。いや、もっと少ない。残っている中には色づいていないものも多い。この3日の間に何が起こったのか、なんでこんなことになったのか…頭が混乱した。近所に学校があるので生徒がつまみ食いをしたか…そんなことも頭を掠めたけれど、敷地の入り口には一応ゲートのようなものがあるし、だいたい、そんなに食べられるか?という量が実っていたのだ。
と、頭上が妙に騒がしい。見上げれば電線にずらりと野鳥。えっ?ひょっとしてお前ら?まさか…ねぇ…。
あたりを見回すと、無数に種が散らばっている。というより、ちょっと大げさに言えば敷き詰めた感じだ。どうやら、彼らがとっかえひっかえやってきて、食べてしまったらしい。そう考えると、熟した実が残っているのが、枝の込み入った奥ばかりというのも頷ける。
一瞬、怒りが湧いたけれど、すぐに笑いがこみ上げてきた。いや、あっぱれ…。大したもんじゃないですか。3日前には手つかずだったのに今日はこの有様。ってことは、彼らも私たちと同じように、もう少し…もう少しと、美味しくなるのをじっと待っていたわけで、最高のタイミングを逃さずに思う存分味わったわけである。完敗だ。
結局、収穫できたのは小ぶりのカゴにひとつほど。全部採っていれば、6、7㎏はあっただろうけれど、そのほとんどを野鳥将軍と彼の軍団が腹に収めたのだった。とはいえ、家族で少しずつ味見をするには充分だったし、家族みんなでその美味しさに目尻を下げたから、それでよしとした。
翌年、大きなナイロンのネットを手に入れた。樹の全体を覆って、彼らの猛攻を防ぐためだが、あまり目の細かいものでは光も遮ってしまうと思い、粗目にした。これがまたやっかいを呼んだ。
例の赤ちゃんさくらんぼの頃から掛けてしまうと、網目からその小さな実や枝先がかなりはみ出してしまう。で、そのまま熟したら野鳥将軍の餌食になる。ほどよい時期に網の内側に戻そうとすると網に引っ掛かって落果する。
で、ある程度まで実を太らせてから掛けることにした。すると今度は網掛けするときに絡まって、こちらも落果が続出。まぁ、素人なんてこんなものだ。
落果と言っても、その数は、野鳥にやられた数を考えれば取るに足らないし、そうでなくても台風や爆弾低気圧でそれなりの数は失うことになる。そう思って、樹が赤く彩られるのを待つことにした。野鳥将軍と彼の精鋭部隊をもってしても手も足も出るまい…そんなことを思いながら、ほくそ笑んでいたのだが…。
【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。
【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。