【ザ・プロフェッショナル】日本代表片岡選手が第3位入賞! 第13回国際R-M®ベストペインターコンテストを振り返る
2022年7月22日
もちろん、狙いは優勝でした ― 片岡選手の仕事場である株式会社 中央自動車鈑金工業所/阪神サンヨーホールディングスグループを訪れての第一声だった。
第13回国際R-M®ベストペインターコンテストを終えて帰国した、日本代表の片岡雅也選手にインタビューすべく、兵庫県尼崎市の中央自動車鈑金工業所/阪神サンヨーホールディングスグループを訪れた。同社は設立55年を迎える老舗自動車鈑金工場で、きれいで大きな建物は工場というよりは高級車ディーラーそのものだった。
まずは笑顔で迎えてくれた片岡 満社長に話を伺うと「お客様から中央に仕事を出して良かった、と言ってもらえるように日々改善していきたい。そして技術の向上はもちろん、スタッフが仕事に集中して、事故が起きにくい、働きやすい環境を整えることも重要です」とおっしゃっていた。
2017年にできた新工場は、長年の経験を活かして、吟味した最新設備が導入されて建てられた。新工場の完成とほぼ同時に塗料を全面的に水性塗料の「R-M®オニキスHD」にスイッチした。そして、BASFおよびR-M®の認定工場、フォルクスワーゲン認定工場第1号、アウディ認定工場第1号、テュフラインランド プラチナ認定工場を取得して、素晴らしい環境を整えて、変わりゆくニーズに対応している。すべてのスタッフの応対は、元気で無駄のない動きが素晴らしく、信頼性が高いことが伝わった。拘りが強い希少ヒストリックカーのオーナーがクルマを預けていることもそれを裏付けている。
片岡選手が帰国して1週間あまりたったこの日、コンテストを振り返ってもらった。
中央自動車鈑金工業所に就職したのはいつですか?
―2012年入社です。産業機械のメーカーに勤務していましたが、父親の誘いに乗って、心機一転鈑金塗装業界に飛び込みました。父の会社に入るなんてことは想像もしていなかったのですが、クルマは好きでした。ただ、今はVWトゥーランに乗っていますが、入社当時は外車、ドイツ車のことはほとんど知りませんでした(笑)
仕事を始めてみていかがでしたか?
―当時は職人気質の厳しい先輩が多く、私のような新人に対して、熟練の目は冷たかったです。
そもそもベストペインターコンテストに出たいと思ったきっかけは?
―6年ほど前、会社がR-M®の水性塗料「オニキスHD」の導入を決めて、その研修のため横浜にあるR-M®のトレーニングセンターを訪れた際、ベストペインターコンテストのポスターが目について、何の確信もありませんでしたが「次回は日本代表になって出場します!」とR-M®のトレーナーに宣言しました。そのあとはただただ、トレーニングを受けるのが楽しかったです。
日本代表に決まったものの、国際大会はコロナ禍で2年先の開催になったわけですが、その準備期間はどう過ごしてきましたか?
―コンテストでは、場合によっては知っていなくても日常の業務に支障がないことも求められます。そのため、日々の業務とは別に、コンテストで求められる知識、技術も習得する時間も必要でした。なので、横浜のR-M®のトレーニングセンターでトレーニングを受けたり、休日出勤したりして業務と両立するべくコンテストの準備をしてきました。日常の業務の合間を縫ってトレーニングを受けに行くことになるのですが、すべてのスタッフの理解を得られたわけではありませんでした。また、トレーニングを重ねて、知識や技術が身に付いてくると、感覚重視のベテランスタッフとぶつかることもありました。コンテストと業務の両立はなかなか難しく、その結果、しかめっ面で家に帰ることもあり、家族にはずいぶんと迷惑をかけたと思います。家族の理解やR-M®のサポートがなければこの結果はありませんでした。それと、今は慣れましたが、人に見られながら仕事をしたことがなかったので、最初はそれだけで緊張しました。
さて、コンテストの3日間はどうだったのでしょう?プレッシャーはありましたか?
―海外旅行に行ったことがなかったので、海外で競技をするというだけで緊張しますし、関係者の期待を背負って結構なプレッシャーはありました。ただ、競技の合間に話してみてわかったことですが他の選手も同じだったようです(笑)
初日の競技は、塗装の前段階でデジタルツールを用いて最適な色の処方を検索する「処方検索」と、色に関する知識が問われる「色分析」でした。そう言いながら片岡選手がグラフで色の特性を判断する様子を再現してくれたのを見て、筆者は塗装業界のデジタル化を目の当たりにして興奮した。これを使えば誰でも色が作れる!そんなわけはないのだが、デジタル化されることで、時間の短縮、塗料の無駄遣いを減らし、高い品質を維持することができることを実感した。
―― しかし、この2つの競技では思いのほかスコアが伸び悩んでショックでした。
2日目以降はどう対応したのですか?
―こうなったら開き直りじゃないですが、「競技」に徹するのではなく、日頃の自分を出してみようと気持ちを切り替えました。競技を楽しむことにしました。
ボンネットの塗装の課題で使用されたメタリックグリーンは難しいとされる色で、初日に塗った選手の中にはムラができて完全に失敗した人もいました。しかし私は逆にリラックスして、冷静にいつもどおり塗装することができました。マスキングも敢えて日頃やっている、効率、スピードを重視したやり方で行ったのですが、審査員が褒めてくれたのでびっくりしました。
見事な挽回劇になったわけですが、結果発表の時の気持ちをお聞かせください。
―3位で自分の名前が呼ばれた時は本当に嬉しかったです。この2年間のこと、家族、会社の皆の顔が思い浮かびました。
コンテストが終わって、普段の職場に戻ってからはどうですか?
―世界第3位を心から一緒に喜び、認めてもらえたことを実感しています。日本代表に決まって以来、陰ながら努力する姿を見てくれていたんでしょうね。
社内の祝勝会で「コンテストが終わった今がスタートラインだ」と熱く語っていたのが印象的でしたが、今後について思うところはありますか?
―いつまでも感覚で仕事をするのはよくないと思っていました。感覚に頼っているとなぜ成功したのか、なぜ失敗したのかがわかりませんから。でも、まだ経験が浅い僕には説得力が足りなかった。だからコンテストで良い成績を収める必要がありました。これで
自分が学んできた理想的なぺインターとして始めることができると思っています。
デモンストレーションをお願いした
お邪魔した日は、塗装ブースが空いていたこともあり、片岡さんにお願いしてボンネットの塗装課題を調色から塗装まで再現してもらった。実際の競技では日本ではなじみのないセアト(SEAT)のメタリックの淡いグリーンだったが、ここではなじみのある日産ノートのオリーブグリーンを使用した。さすがエキスパートと思ったのが、手際がいいだけでなく、調色の際も、ベースの色に何色か足すのだが、さながらインストラクターのように非常に分かりやすく説明してくれたことだ。筆者にもできそうだと錯覚するほどわかりやすかった。作業を見られるだけでも緊張していた片岡選手が大きく成長したことを垣間見た。
そんな片岡さんは今、次期ベストペインターコンテスト(2024/25開催予定)参加を目指す塗装技術者や、同じR-M®ユーザーをサポートしていきたいと話している。
取材を終えて
今回のインタビューで、彼がどれだけ優勝したかったかがよく伝わった。相当の苦労も味わったことで勝ち取った結果だ。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」ではないが、3位だったとことで克服すべき課題が見えたのはとても良かったのではないだろうか。なぜならば片岡さんの仕事は競技で勝つことが目的ではないのだから。しかもビハインドから盛り返した挽回劇は、彼の人生にとってゆるぎない自信となることだろう。
片岡さんはベストペインターコンテストの直前に行われた親善競技会で、「補修塗装したことがバレないような仕上がり」を念頭に仕事をしていると話していたのを思い出した。R-M®が推奨する正しいプロセスに添って仕事をすれば、それができるのではないだろうか。
これまでの取材を通して、R-M®が環境に配慮した製品を開発し、デジタル化を推進すると同時に、トレーニングや、国際コンテストの主催などで若い技術者を育てるといった“ひと”にフォーカスした取り組みでこの業界を盛り立てるのだという決意のようなものを感じた。
また、コンテスト後にBASFコーティングス事業本部グローバル戦略マーケティングディレクターのファビエン・ボスケッティ氏は次のように述べている。
「『国際R-M®ベストペインターコンテスト』は、自動車補修塗装業界の将来にわたる持続可能な発展のために、国際規模での人材育成を目的としたR-M®の事業における重要なイベントです。私たちは、創造性、デジタル化の推進、サステナビリティにおいて最高のパフォーマンスを発揮してくれたすべての代表選手を大変誇りに思います。彼らの持つスキルは、我々の顧客と自動車補修塗装業界の発展に寄与するよう、次世代の自動車補修塗装技術者に必要な包括的で正しいスキルです」と。
【第13回国際R-M®ベストペインターコンテスト日本代表】
片岡 雅也(Masaya Kataoka)
ペインター歴10年
株式会社 中央自動車鈑金工業所/阪神サンヨーホールディングスグループ所属
片岡選手は職業柄、補修塗装をしたクルマはすぐわかると言う。それを聞いた筆者は最近街を行き交うクルマを見るときに、塗りムラがないか、あら捜しするような見方をするようになってしまった。そして、スプレーガンを握ってみたい気持ちは大きくなるばかり。自動車補修塗装への興味は尽きない。
Text&photo : アウトビルトジャパン