【このクルマなんぼ?】走行距離たった2,461㎞ BMWカラーのワンオフV12ロードスター メルセデス600SL その正体は?
2022年5月13日
BMWカラーに塗られたユニークなメルセデス600SL。このメルセデス600SLはワンオフモデルである。工場出荷時、V12ロードスターはBMWカラーである「バイオレットブルー」に塗られていた。現在、このSLはわずか2,461キロの走行距離でオークションに出品されている。その詳報!
今回は、カーコレクションの最高峰と言われている、ブルネイの王室が所有する車の話だ。1980年から2000年代初頭にかけて、スルタンとその弟のジェフリ王子は、おそらく世界最大の自動車コレクションを作り上げた。多くの神話が存在するコレクション。その中には、「マクラーレンF1(3台しか製造されていないF1 GTも含む)」が10台、「ブガッティEB110」が数台、「フェラーリFX」や「ベントレー ドミネーター」など、スルタンのために特別に作られたモデルも多く含まれている。噂される価値は数十億ユーロ(数千億円)!!!に及ぶとされる。
その大半は、現在もブルネイに残っている。しかし、時折、この謎のコレクションから個々の車両が抜け出すことがある。例えば、この今回オークションにかけられる「メルセデス600SL」のような個体だ。30年近く前のモデルだが、走行距離が2461kmと極端に短い。
スルタンは500台以上のメルセデスを所有していると言われている
スーパーカーへの情熱に加え、スルタンとその弟はメルセデスに特別な思い入れがあるという。結婚式では、500台以上のメルセデスが王室の車庫に停められたという。もちろん、トップモデルだけだ。その中には、スルタンが数台所有していたとされる「R129」シリーズの「メルセデス600SL(1993年からはSL600と呼ばれている)」も含まれている。
そのうちの1台が、5月21日にイギリスの「Historics Auctioneers」でオークションにかけられる。ロードスターは工場でBMWカラー「バイオレットブルーメタリック」に塗装され、黒のレザーインテリアとの組み合わせで、まさに唯一無二の存在感を放っている。また、数千台の車を所有する場合の問題点として、この「SL」も過去29年間でわずか2,461キロしか走行していない。
2021年にイギリスに輸入されたメルセデス600SL
28年間王室コレクションに収められていた右ハンドルの「600SL」は、2021年にイギリスに輸入され、メルセデスで大規模な修理が施され、イギリスでの車検も取得している。もちろんハードトップとセットで提供される「600SL」は、優れた印象を与えている。塗装は色褪せず、内装も最高の状態だ。
ロードスターのボンネットには6.0リッターV12(M120)が搭載され、最高出力394馬力、最大トルク570Nmを4速オートマチック(1995年からは5速オートマチック)を介して後輪に供給する。完全停止状態から6.1秒後に時速100㎞に到達し、最高速度は250km/hだ。とはいえ、「R129」はスポーツカーというより、ラグジュアリーなクルーザーである。電動ソフトトップを開ければ、上質なV12サウンドに耳を傾けることができるようになっている。
確かに外装色「バイオレットブルーメタリック」は、万人受けはしないかもしれないが、少なくとも極端に少ない走行距離と王道の過去は、この「600SL」をコレクターにとって興味深い存在にするはずだ。専門家によれば、推定価格は45,000~60,000英ポンド(約740~985万円)に相当するという。ちなみにドイツでは、「R129」シリーズの一番安い「600SL/600SL」が2万ユーロ(約280万円)前後から販売されている。本当に状態の良いものは40,000ユーロ(約560万円)ほどする。ドイツでは現在、走行距離2,000㎞未満の赤の「SL 600」が13万9,000ユーロ(約1,940万円)!!!という破格の値段で売りに出されているが、これは特別な色を付けていない場合である。それに比べれば、元ブルネイの「SL」はほとんどお買い得といえるかもしれない。
【ABJのコメント】
世の中にはあるところにはある、というか、数千台の自動車を持っているといわれるブルネイの王族が持っている、500台以上のメルセデスベンツの中からひょっこりと出てきたのが今回の「R129 600SL」である。走行距離はおそらくさらっと数回乗ってあとは整備で動かした、そんな感じだし、程度はもちろん極上、言ってみれば新車のまま置いておいたクルマである。なぜBMWのボディカラーにメルセデスベンツを塗らなくてはいけなかったのかはわからないが、確かにこういうボディカラーのBMWの「850」とか「3シリーズ」の限定車があったような気もする。
不思議なのは、なぜたまにこういう車が市場に出てオークションにかけられることがあるのか、という点だが、ブルネイの王室にとってはお金のためではないことは間違いない。ではどうしてか? おそらく推測だが、自動車を管理している担当者(か、会社)が、そっと一台持ちだしてきて売っているのではないか、と勝手ながら思ってしまう。昔からホテルや宮殿の銀食器や絵画などをこっそり持ち出して競売にかける、手癖の悪い輩がいることは自明の理である。そういう感じで、そろそろこの「R129」ならいいかな、とコソ泥の判断で倉庫から盗み出してきた、そういうものなのではないだろうか。そりゃ数千台もあったら、たったの一台くらい、なくなっていたって誰にもわからないに違いないのだから。(KO)
Text: Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: Historics Auctioneers