【輸入車オールスター試乗会】ランボルギーニ ウラカンSTO JAIA試乗会 前編

359

蘇った「ボブのおもちゃ」

■小学三年生の主張

ランボルギーニはイカれた自動車メーカーだ。だからイカれたクルマを作っても誰も文句は言わないが、大磯プリンスホテルの駐車場に鎮座するガルフカラーも鮮やかなウラカンSTOは、何故かどうしてか肝心のイカれ方がしっくりこないのだった。暴走族車輌というよりレーシングカーそのもののスタイルは、最新最良のエアロダイナミクスの研究成果という印象であり、率直に申し上げてランボルギーニのイメージとは何かが違う。

老害の感覚を丸出しにするならば、ランボルギーニのイメージとは筆者が小学三年生の時に見たカウンタックなのである。

あの日、近所の駐車場に停まっている黒のカウンタックを見つけた筆者は戦闘機の翼のような巨大なリアウィングにしびれてその場で動けなくなり、ようやく動けるようになったら家に帰って父親のカメラに24枚撮りのフィルムを詰め、カウンタックのもとにダッシュで舞い戻って24枚の写真を一気に撮ったのであった。最高速300km/hが嘘だというのは小学三年生の小僧でも知っていたが、現物を目の当たりにすると、本当はもっとスピードが出て、そのまま空を飛ぶんじゃないかという気がしたものだった。

しかるに、ウラカンSTOはドアが上に開かないばかりか、ダウンフォースが効きすぎて絶対に空なんか飛ばないことがひと目でわかるスタイルであり、小学三年生の自分が「こんなのランボルギーニじゃない!」と心の中で叫ぶのも当然なのであった。

路上の核ミサイル

「はい、えー、このモードは使わなくて大丈夫かと存じます。公道ですから」とは、試乗前のランボルギーニの広報氏の説明である。このクルマには通常走行用の「STO」、サーキット走行用の「Trofeo」、雨天用の「Pioggia」の三つの走行モードがあり、発進前にTrofeoモードを選ぼうとした筆者に対して広報氏が親切に助言してくれたのであった。

この助言を正しい日本語に翻訳すると「使うな」である。

高効率なターボエンジンやモーターなど当世流行りのガラクタを備えていないウラカンSTOは、5,200ccの自然吸気V型10気筒エンジンだけで勝負する宝石のようなスポーツカーであり、今どきの基準では「たった」640psに過ぎないとしても、潔く四輪駆動システムまで捨て去り、後輪駆動として1,339kg(乾燥重量)まで軽量化したこのクルマが路上の核ミサイルであることに変わりはなく、慎重に運転しないと肉体的にも社会的にも人生が終わってしまう。

恥ずかしながら

という訳でSTOモードを選んで静々と発進してしばらく走り、世の中の試乗記やYouTubeで連発される「乗りやすい」という感想がメーカーへの忖度でなく真実であることが実感できた。絶対的に乗り心地が硬いとはいえ、タイヤの当たりはマイルドであり、ボディ剛性が高くてシートも素晴らしいので不快な印象は一切ない。驚異的なのは、前輪245/30 R20、後輪305/30 R20というタイヤサイズにも関わらず、やや荒れた路面でもワンダリングを感じないことである。頭のネジが2本くらい外れたクルマ好きなら、苦痛なく毎日乗ることだってできるだろう。

スーパースポーツカーの限界的な特性を探るにはサーキットに持ち込むしかないが、オーナーの使用用途のほとんどが公道走行であるため、公道での試乗は重要である。筆者は鋼管フレームの時代のフェラーリを愛車にしているが、サーキットに持ち込む機会は皆無であり、それどころか仕事が忙しいのでワインディングにもたまにしか行かない。だから、仕事や生活の雑事の合間をぬってその辺の公道でさっと走らせた時に、どれだけドライバーを楽しませてくれるかという、いわばエンターテインメント性能がこの手のクルマにどれだけ大切なのかを理解しているつもりである。

その観点から見て、ウラカンSTOは事前予想を遥かに超越して素晴らしく、なんだか恥ずかしいけれども、あまりの良さに心の底から惚れてしまったのであった。

■巨人の吹くラッパ

何が良いって、それはエンジンである。0-100km/hが3.0秒だとか0-200km/hが9.0秒だとか、そういう数字には興味がない。

筆者の興味の対象はひたすら音とフィールである。

公道で許される範囲で自然吸気のV10を歌わせてやると、低回転でルルルルッというV10特有のビートを刻むエンジンは、高回転に近づくにつれて徐々にハモってきて、ある回転でオクターブの高いひとつの劇的な絶叫となり、そしてレブリミット目掛けて一気に吹けきっていく。その時にドライバーが味わう恍惚は、大変申し訳ないが、こんな雑文やYouTubeでは決してわからない。

例えば(そんなものがあるとして)全長50メートルの巨大なラッパの中に身体ごと放り込まれて、巨人が全力でそのラッパを吹いたとしたら、同じような体験ができるかもしれない。つまり、音を聴くとか楽しむとかそういう平和な何かではなく、強烈な音圧に包まれて息をすることすら出来なくなるという、これはトラウマ寸前の人生の事件なのだ。

最大トルク567Nmは6,500rpm、最高出力640psは8,000rpmで発揮されるため、エンジンを回せば回すほど加速がますます熾烈になり、天も割れよと叫ぶエグゾーストがそれに加勢し、どんなに厳正中立な自制心をもってしても正気を保つのは難しくなる。

これは人類が生み出した自動車文明のひとつの到達点である。

ほぼレーシングカーなのに、街乗りもできる懐の広さ。公道を走れるレーシングカーを新車で買えるのも今が最後?(KH)

Text: AUTO BILD JAPAN(アウトビルトジャパン)
Photo: 中井裕美 / 日比谷一雄 / AUTO BILD JAPAN(アウトビルトジャパン)