【ひねもすのたりワゴン生活】9日間、2000㎞のぐうたらワゴン旅 その10
2022年1月22日
思いがけず、津山訪問
丹波篠山のひと時から神戸に戻ると、翌日から旧知の友人を訪ねたり、買い物をしたり…しばしの骨休めとなった。東京近辺で仕事をしている私にとって、坂とカーブの多い神戸は新鮮なドライブが楽しめる。たとえば、滞在していた北区の大原から友人が待つ長田区までは約14㎞…。行きはひたすら下り坂、帰りは延々上り坂。普段の生活なら頭に浮かぶのはせいぜい小田原から芦ノ湖に向かうくらいのもの(笑)。市街地でこんな状況はない。それが楽しくて、ついクルマで動き回ってしまう。
さて、次の目的地は岡山県の下津井港。今回の旅の大きな目的のひとつだ。以前にも触れたように、ドライブによる地方創生の雑誌を編集するために取材で訪れたのがきっかけで、すっかり気に入ってしまった。
…が、実は前段がある。この小さな港町に知り合いが住んでいて、その魅力は取材で訪れる前に彼から伝えられていたのだった。彼は以前、私の編集部で働いていて、言わば部下だったが、生まれ故郷の下津井へ戻り、その後アメリカでの生活を経て、現在は再び下津井で生活している。取材の件は、彼の親戚が讃岐うどん巡りに特化したレンタカー業を営んでいると聞き、件の雑誌で紹介しようという話になったのである。
彼が下津井に戻ってきた頃から、毎年春になると、ひと抱えほどの荷物が届くようになった。中には紐で縛られた乾燥ワカメ。知る人ぞ知る「下津井ワカメ」だ。初めて届いた時には、包み紙を開き、強い潮の香りに心が躍ったものの、その真価を知るはずもなかった。
しかし、紐をほどきワカメのかたまりをほぐしてみると、驚きの連続だった。まずは、紙のような…という表現が決して大げさではないその薄さ。手荒く扱うと、パリッと割れてしまうほど。そして、口に含むと濃厚な旨みと強めな塩味が舌を悦ばせる。
聞けば、下津井の海は川のような強い潮流が名物で、そこで育つワカメは厚くならないのだとか。また、一般のワカメは水揚げしてから洗浄するが、ここでは海水をまとったまま干し上げるので、ミネラルや塩分が残る。
そんな下津井ワカメは、水で戻さず、ハサミなどで細かくして、炊きあがった熱々のご飯に混ぜ込むのが真骨頂だ。4,5分もすれば、ワカメはご飯の水分と熱で戻り、自然な塩味と旨みの絶品ワカメ飯となる。もちろん、立ちのぼる濃厚な潮の香りは言うまでもない。
以来、ワカメが届くたびに、瀬戸内の小さな港町への想いを募らせていったのだった。
神戸から下津井は200㎞弱。高速を使えば2時間強で着く距離だ。のんびり発っても午後早くには港を眺められるだろう。…が、ここで、またまた予定変更。連れ合いの姪が、岡山県の津山市で待つ夫のもとに向かうと聞き、彼女を乗せて同地を訪ねてみることになったのである。
中国道を経て到着した津山は春爛漫だった。吉井川に沿った街並みは、静かで落ち着いた印象。徒歩で巡った津山城跡は桜と菜の花で彩られ、その美しさに目を奪われる。東京を発つときには思いもしなかった寄り道と感動…。
これもまたぐうたらワゴン旅の醍醐味である。
【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。
【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。