「プラモデルはやっぱり面白い」Vol.10 ホンダ
2022年1月1日
「ありがとう ホンダ!」
ご存知の方も多いと思うが、昨シーズンをもってホンダがF-1参戦から撤退した。
昨シーズンの年間ドライバーズチャンピオン争いは、最終戦まで持ち越される大接戦であった。その最終レースで、ホンダエンジンを搭載したレッドブルのマシンをドライブしたフェルスタッペンが僅差でハミルトンを抑え優勝し、ドライバーズチャンピオンの栄冠を勝ち取った。
2015年からホンダとしては第4期のF-1参戦であった。当初はマクラーレンとのジョイントで、誰もが第2期参戦時の黄金期の復活を期待した。しかし予想は大きく外れ、大苦戦の連続となってしまった。
ホンダファンからも「撤退やむなし」との声が聞こえた程であったが、その後のオールホンダ(ホンダ全社)の努力、「トロロッソ(後のアルファタウリ)」、「レッドブル」との共闘により昨シーズンの素晴らしい結果としたのである。
ホンダスタッフ達の血のにじむような努力と結果はメディアでも報じられたが、その努力は尊敬または感謝に価すると思う。
その優勝記念ではないが、今回はホンダ車を採り上げたいと思う。
「ロータス ホンダ99T」タミヤ製 1/20スケール
まずは2台のF-1モデルカーを紹介したい。2台の共通点は、どちらも日本人初のフルタイムF-1ドライバーである、中嶋悟(敬称略)がドライブして活躍したマシンである。
中嶋は1987年に名門ロータスのアイルトン・セナに次ぐセカンドドライバーとしてデビューを果たした。F-1参戦時から本格的なTV中継が開始され、日本中に一大ブームを巻き起こした(ブームという表現は使用したくないが、現状を鑑みると、悲しいかな、ブームと表現せざるを得ない)。
当時のF-1人気からプラモデルメーカー各社(国産だけでもアオシマ、アリイ、カワイ、グンゼ、タミヤなど)が、モデル化を競った。その中でも継続してスピーディーに発売したメーカーは、タミヤであった。
「ロータス ホンダ99T」は大人気のマシンのモデル化であり、タミヤとしても力が入ったとみえる。ボディカラーの専用色「キャメルイエロー」を発売、また後年にはウイングの翼端板が異なるバージョンもモデル化した。
この専用色の「キャメルイエロー」の発売は、特にF-1モデル入門者にとっては非常に有益であったと思う。F-1モデルは複数のカラーを使用して塗装することが常であるが、この「ロータス ホンダ 99T」のカウリングは単色塗装であり、この「キャメルイエロー」を吹きつけることで完了するのだ。F-1モデル製作未経験者には最適なキットと言える。
「ブラウン ティレル ホンダ 020」タミヤ製 1/20スケール
1990年に中嶋はロータスからティレルへ移籍した。移籍直後のマシンにはフォードエンジンが搭載されており、思ったような活躍が出来なかった。
しかし翌年には念願のホンダV10エンジンがティレルに供給された。また同時に中嶋は、そのシーズン終了をもってレース活動を引退することを発表していたこともあり大注目のシーズンとなった。
特に日本GPは「中嶋の母国ラストラン」ということもあり、日本中のF-1ファンを熱狂させた。異様なほどの中嶋人気ぶりに、当時のティレルスタッフも不思議がったが、それは中嶋の人間性のなせる業であった。
私はそのシーズンの「ブラウン ティレル ホンダ 020」のキットを製作した。カウリングのカラーはガンメタルを基本色として、ホワイトのマーキングである。しかし写真の作例通り、ホワイトのデカールを直接貼付すると透けてしまい発色が悪くなってしまう。やはりホワイトのデカール貼付部分には、ホワイトの下地塗装が必要であると痛感した。
また本作は全くの素組みであるが、やはり多少でもコード類、パイピングなどの追加製作を施せば、より完成度の高いF-1モデルとなるはずである。反省だらけの作品となってしまった。
どちらのキットも現在は絶版中であるが、ネット上では流通しているようである。それほど苦労なく入手可能と思われる。
「ホンダ・シティ ターボ」タミヤ製 1/24スケール
特に1980年代は、ホンダが発表したどのニューモデルも大人気を博した。「シティ」「プレリュード」「アコード」等々。人気の原因は「おしゃれ」「可愛い」「格好良い」「高性能」…と高評価であった。
その「可愛い」車種の代名詞となったのが、初代「シティ」である。「トールボーイ」という背の高いキャラクター性を持たせ、特に若者から大好評となったのである。当時のTV CMでも「マッドネス」(英国のバンド)が独特のセンスを発揮して、「ムカデダンス」は大流行した。
ホンダは初代シティを発展させて「シティターボ」、「シティカブリオレ」、「シティターボⅡ(ブルドッグ)」と追加モデルも発表して、どれもが好評であった。そしてタミヤは上記のモデルの全てのキットを発売した。
私は「ホンダ・シティ ターボ」を作成したが、1982年発売でモーターライズ仕様となっている。この小さなキット(全長140㎜)にモーターと単3電池を搭載させるにはタミヤも苦心したに違いない。
また実車のセールスポイントと同様に「モトコンポ」(ミニバイク)までが車内に格納可能となっており、楽しさ満載のキットである。勿論、製作中も楽しめたが、特にピースサインをしている若者のフィギュアには感心させられた。このフィギュアの水準は、当時の他メーカーを遥かに上回る出来の良さである。私はカープラモデルにフィギュアが付属していても、製作しないことが多い。しかしこのフィギュアは乗車させることで、シティの楽しさを倍増させる力を持っている。
「ホンダ・シティ カブリオレ」タミヤ製 1/24スケール
続けて「ホンダ シティ カブリオレ」を紹介したい。このキットも少ない部品点数ながら、実車の雰囲気を良く捉えている。製作中も楽しめたが、このようなオープンタイプのキットは、完成後もインテリア(車体内部)が目立つので決して手を抜けない。対応策としてタミヤはチェック模様のフロアマットを付属させた。ただしインパネのメーター類用のデカールは付属してもらいたかった。(写真の作例では塗装で再現してみた。)
また残念ながら、このキットにはフィギュアが付属していない。カブリオレなのだから是非とも2体乗せたいものである。
両キットとも絶版中であるが、根気良くネットなどで探せば見つかる可能性は高い。
「ホンダ スポーツ800Ⅿ」ニットー製 1/24スケール
ご存知の通り、ホンダは二輪車メーカーとして出発した企業である。1963年8月にホンダ初の四輪車である軽トラック「T360」を発表。同年9月にはF-1に参戦、またスポーツカーである「S500」までも発表したのである(試作車「S360」も存在した)。
この年だけをみてもホンダのレーシングスピリッツが感じられる。「T360」にはDOHCエンジンが搭載され、軽トラックでありながら高出力を誇った(30PS/8,500rpm 他メーカーの360ccエンジンは20PS程度)。
「S500」も直4DOHC 排気量531cc 44ps/8,000rpmという高性能エンジンをパワートレインとして可愛らしくも、またスポーツカーらしく美しいデザインであった。
しかし3ヶ月後の1964年1月には後継車である「S600」が発表された。ボディデザインは「S500」とほぼ同様であるが、エンジンは直4DOHC排気量606ccに変更し57PS/8,500rpmと出力アップとなった。
自動車ジャーナリストとして草分け的存在だった故小林彰太郎氏は、1964年7月から9月にかけて「S600」をヨーロッパに持ち込み、ホンダのF-1デビューなどを取材し日本へ伝えた。
因みに「S600」でロータス・カーズを訪れ、コーリンチャップマン氏(ロータスの創始者)に面会した際には、同氏がエンジンが割れるほど各ギアで引っ張ってどこかへ消えた、という逸話が残っている。
「S600」の後継車として、「S800」は1966年1月に発表された。エンジンは直4DOHC 排気量は791ccに拡大され最高出力は70ps/8,000rpmと相変わらずの高性能である。ボディタイプはオープン(屋根なし)とクーペ(屋根あり)の2種類が用意された。
まずはニットー製の「ホンダスポーツ800Ⅿ」を紹介したい(車名にⅯが付くが、これは北米向けを国内向け仕様とした車種であり、サイドマーカーが装備された点が外観上の大きな変更点である)。
このキットのメーカーであるニットーは現在では存在していない。ただし金型をフジミが引き継いで一時期は販売していた。
当初ニットーが発売した時期は1980年頃と思われるが、キットの箱を開けるとボディ、タイヤなどが透明パッケージに包まれてディスプレイされている。当時この様にディスプレイされていたのは高額なキットに限られていたが、このキットは高額ではないものの高級感を醸し出している。(これだけで胸が躍ってしまう。)また現在では付属されていない接着剤もディスプレイされていることに時代を感じてしまう。
肝心のキット内容であるが、エンジンヘッド周辺、シートベルトとその金具まで再現されており本格的なスケールカーである。美しいスタイリングも良く再現されており、当時の他社のレベル以上である。個人的には是非とも再販を願いたいキットである。
「ホンダS800」「ホンダS600」タミヤ製 1/24スケール
最後にタミヤ製の「S800」「S600」を紹介したい。実車のボディも両車とも共用であるから、キットも同様である。格好良く、可愛らしさも感じさせるスタイリングが再現されている。
当然のことであるが、プラモデルの利点は実車が目の前に無くとも、カーモデルであれば、いつでも360度どこからでも鑑賞できることだ。本項ではホンダSシリーズ3台を取り扱ったが、改めて見直してみると3台の外観などの比較が容易である。また各模型メーカーの考え方も理解出来る。
拡大解釈かもしれないないが、ニットー製のS800Ⅿを観察していると、開発スタッフの拘りと熱意が伝わってくる。前記の通り、ニットーのキットは素晴らしい出来の良さである。約20年後に発売されたタミヤ製と比較しても遜色ないと思える。
しかしニットー製のキットが発売された当時は「クルマのプラモデルは完成後、モーターやゼンマイなどで走らなければ売れない」時代だったのだ。その時代にあえて「走らない」本格的スケールカーを開発したニットーの拘りは評価されるべきと思う。
タミヤ製の「ホンダS600」は発売中。ニットーの「ホンダスポーツ800Ⅿ」とタミヤ製の「ホンダS800」は絶版中である。ニットーのキットはネットなどでもあまり見かけない。一方、タミヤの「S800」は比較的ネットなどで見つけやすい。
Text & photo: 桐生 呂目男