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【ひねもすのたりワゴン生活】9日間、2000㎞のぐうたらワゴン旅 その8

2021年12月25日

神戸でひと息。そして、丹波篠山。

 関東で暮らしている私にとって、神戸はとても不思議で魅力的な街だ。歴史的な歩みや港湾都市という共通点から、横浜や下田などと共に語られることが少なくないけれど、似て非なるもの…どころか、港町というカテゴリー以外、まったく違うように思える。
 かつては、年に1度か2度仕事で出向いては用件を終えると慌ただしく帰京…のような訪問ばかりだったが、この地に縁を得て、プライベートで3日、4日と滞在するようになり、あっちこっちに足を伸ばしてみると、(関西の方には笑われてしまうかもしれないけれど)、びっくりすることばかり。あっという間に虜になった。まぁ、田舎者の戯言と笑っていただければ…。
 まずは、あんなに山が迫っているとは思わなかった。阪神タイガースの応援歌で六甲山の名前くらいは知っていたけれど、それがどんなものかは実感できなかったし、港町といえば横浜のイメージだったから、起伏と言ってもせいぜい、港の見える丘公園…という程度の話だったからである。
 ところが…神戸ときたら、あのおしゃれな繁華街からちょいと走れば急峻な山道となって道を緑が包み、山頂に着けば驚くようなパノラマが待っている。よくある、町はずれの丘陵や小山といったレベルではない。自然散策を満喫できる広大な植物園もあれば、牧場もあって、ガイドの案内で自然観察が楽しめたり、出来たてのミルクで喉を潤せたりする。

早くから外国人の生活が繰り広げられた神戸では、牧場が身近な存在。弓削牧場は市民の憩いの場でもある
ミツバチも牧場の住人。こんな看板に微笑んでしまう
取れたての牛乳で作られた軽食も人気…

 大げさにいえば、横浜球場の先に丹沢や高尾が迫っているようなものだが、横浜だったら、そこに至るまでに東京近郊の住宅地、ニュータウンがこれでもかというくらいに待ち構えていて、うんざりするほど時間がかかるのである。
歴史に育まれた薫り高く豊かな都市文化と自然がこれほどコンパクトに融合している例を私は知らない。

南京町は、横浜の中華街と並ぶ中国料理のメッカ。神戸訪問の楽しみにもなっている
ラーメン好きにとっても神戸は魔界(笑)。呑んだ後の〆の一杯にも最高…
安い値段で楽しめる店も多い。まったくもって罪作りな街だ(笑)

 そんなわけで、今回の旅でも神戸で数日を過ごすことにした。友人もいるし、訪ねてみたい場所もある。連れ合いの姉夫妻がこの地に住んでいるので甘えることになったのだが、有馬温泉も件の牧場も森林植物園も至近で、朝起きると山の宿にいるような爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込むことができる。鳥の囀りも賑やかだった。
 で、到着の翌日…「丹波篠山に行ってみない?」と嬉しいお誘いがあった。何も予定を考えず、南京町にでも繰り出そうと思っていたくらいだったので、大喜びで出かけることにした。丹波篠山といえば黒豆の産地で、以前その姉から枝豆を食ってもらい、あまりの美味さに驚いた記憶がある。仙台生まれの両親を持つ私にとって、枝豆といえば、山形や宮城の茶豆、駄々茶豆…と相場が決まっていたけれど、括目だった。
 また、その少し前、ある雑誌の取材で初訪問した際の強烈なインパクトも頭から消えてはいなかった。取材の相手は、ある木工作家。農業を営む両親と同居する彼は、会社勤めをしながら、作品を作り続けていて、全国にファンを持っていた。それまで「丹波篠山」という地名は知っていたけれど、ただそれだけ。位置すらあやしいものだったのである。

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。