【このクルマなんぼ?】東ドイツ製ワーゲンバス? バルカスB 1000とは? その正体と値段
2021年12月19日
この古色蒼然としたバルカスB 1000は素敵なVWブリの代替品だ。もしあなたがVWブリT2を探しているのなら、バルカスB 1000も検討してみてはどうだろうか。この安価な個体は、ベルギーで生き残っており、きれいに再塗装されている状態、あとはドライバーが必要なだけだ。
「バルカスB 1000」は、他に類を見ないオールラウンダーと呼ぶにふさわしい車だった。ドイツ民主共和国(東ドイツ)で製造された唯一のバンであるため、バス、救急車、霊柩車などあらゆる仕様にされていた。その強みは、フロントエンジンと前輪駆動という駆動コンセプトと、その持続性の高さにある。そのため、実際に「VW T2ブリ」を探している人にも適している。
今、eBayでは、1983年製の「バルカスB 1000」が出品されている。値札は3999.99ユーロ(約52万円)だ。そして特筆すべきは、二重のネームプレートを持つ車であることだ。2枚目のプレートは、この「ブリ」の代替品が、「ピエルクス‐バルカス(Pierrux-Barkas)」であることだ。ピエルクスはベルギーの会社で、供給された部品を使って「ヴァルトブルク」や「バルカス」を組み立てていた。その名前は現在ではマニアの間でもほとんど知られていない。そのため、今回出品された車は、おそらくユニークなコレクターズアイテムとなるだろう。
このバルカスはまともな個体に見える
その「ピエルクス‐バルカス」の広告写真を見ると、年季の入った車が写っている。時間の経過とともに発生したサビなどのボロがはっきりと現れている。売り手が説明文に「カルトバスは溶接作業が必要」と記載しているのもうなずける。しかし、写真を見る限り、基本的には使用可能な個体であるようだし、絶望的なケースではない。現地での直調査で特に問題がなければ、熟練したメカニックと優秀な溶接工がこの希少な「西欧バルカス」をちゃんとレストアすることができるはずだ。
搭載されている技術は複雑ではない。運転席と助手席の間にある3気筒2ストロークは、「ヴァルトブルク353」から来ており、排気量は997cc、45馬力だ。初登録は1983年3月。スピードメーターによれば、このバスは現時点で86,534km走ったことになっており距離計も5桁しか表示されていない。通好みの特徴は、許容総重量が2.24トンではなく2.5トンであることだという。書類によれば、前オーナーは2人。エンジンは動き、変速機も動く。しかし長時間の休眠状態のため、ブレーキは外されている。
「バルカス」は、「VWバス」から隠れる必要はなかった。1961年に登場した「B 1000」は、欧米のライバルに隠れることなく登場した。46馬力で「VW T1」よりもパワーがあり、リアにエンジンボックスがなくても何とかなっていた。その材料は、現在でもモダンなものだ。ローフレームシャシー、自立したボディ、独立懸架、フロントステアキャブ。車輪はトーションバースプリングで個別に吊り下げられ、ストラットドームはボディに突き出ていない。前輪駆動は、負荷条件の変化という問題を解決した。
エンジンの重さとフロントアクスルの頑丈なトランスミッションのおかげで、荷物を積んでいても、空荷でも、「バルカス」は常に十分なトラクションを得ることができた。しかし、ベルリンの中央委員会が「バルカス」の開発に干渉したのは不幸なことだった。まず、後継の「B 1100」の製造にゴーサインが出ず、結局、VWエンジンを採用したため、「B 1000-1」は「VW T4」と対決しなければならなかったのだ。
親しみやすい顔とエレガントなカーブを持つ「バルカス」の愛好家たちは、現在ファンクラブを形成して団結している。ファンクラブはよくネットワーク化されていて、新参者を助けてくれる。彼らは、ハンガリーの車やスペアパーツの調達先など、さまざまな質問に答えてくれる。
そして「バルカス」のスペシャリストたちは、オリジナル生産のものも含め、多くのパーツを在庫している。「バルカス」はもはや掘り出し物ではないものの、維持費は手頃だ。また、チューニングに関しても、現場は寛容だ。例えば、車高を低くすると、首をかしげるどころか、拍手喝采を浴びるのだから。
恥ずかしながらバルカス、という名前は初めて今回知った。オードトワレ(バルカン)でもなく、大阪の高層ビル(あべのハルカス)でもなく、バルカスは東ドイツ生まれ、ということは、あのボディが段ボールで作られていたことで有名な? トラバントのお仲間のような車なのであろうことは想像がつく。
外観は今の日本のミニバンたちに爪の垢を煎じて飲ませたいほどシンプルでいい感じだし、その姿はほのぼのとしていながらも機能的で個人的には好きだ。だが21世紀の現在、このバルカスを実用にしようということは、かなりハードルが高い。エアコンやパワーステアリング、オートマチックトランスミッションがついていないことは言うまでもないが、それ以前に絶対的な性能が現在の路上で混走することに足かせとなろう。さらに信頼性などは推して知るべしレベルで、かなりのトラブルは路上で応急処置できるぐらいの度量と技量が必須となろう。
実用車ではなく、あくまでもクラシックカーとしてつきあう、そんな人には雰囲気的にも、希少性に関しても、そして価格に関しても魅力的ではあるが、ちょっと好き、くらいでお付き合いするのは難しいと思う。
Text: Lars Hänsch-Petersen
加筆: 大林晃平
Photo: ebay/neoen_neoen / Werk