【初テスト】V12搭載装甲バージョンSクラス メルセデスS680ガードに初試乗 その感想と評価は?
2021年10月18日
V12を搭載したメルセデスS 680ガードは、手榴弾の爆発にも耐えられる。
メルセデスは、新型Sクラスのガードバージョンを再びラインナップに設定、発表した。最高の贅沢に最高の安全を。ドライビングレポート!
ダイムラー社は、メルセデスSクラスで、フラッグシップ乗用車の装甲バージョンをリニューアルした。
「S 680ガード4MATIC」は、豪華さと最大限の安全性を両立させるために設計されている。
我々は、標準モデルより2トンほども重い(つまり4トン!!)、V12エンジン搭載「Sクラス」を実際に運転してみた。
メルセデスは、Sガードのニューエディションに新たな道を選んだ
先代は基本的に「Sクラス」を装甲化したものだったが、新型は「Sクラス」ルックを備えた装甲化した車両である。
つまり、ボディシェルまでもがガードのために特別に作られており、その中には精巧な保護機構も含まれている。
その上に、装甲部材をボルトで固定している。
数センチの厚さのプレートと、飛散防止機能を備えた多層ペイン(窓枠)により、VPAM保護等級VR10を達成している。
これは民間企業では最高レベルの保護等級であり、この等級の車は、グレネード(手榴弾)攻撃や、アサルトライフルやスナイパーライフルの射撃に耐えられるようになっている。
ガスや煙は過圧システムによって遮断され、アンダーボディに設置された約10個の消火剤ノズルが火災を鎮圧する。
また、ブレーキやトランスミッションを含むパワートレイン全体が、膨大な重量増加に対応している。
Sクラスのシェルは単なるカモフラージュ
Sクラスのシェルは、基本的にはカモフラージュであり、車列の中で目立たないようにするための技術だ。
これは見事に成功しているが、よく見れば違いがわかる。
例えば、ミシュランの太いパックスタイヤは、ショットアップ(射撃)されても、30km程度の走行が可能となっている。
また、電動ドアオープナーの代わりにハンドルが付いている。
安全上の理由から、S 680ガードには設定されていない装備もある
一見すると、ごく普通のSクラスのように見える。
しかし、その印象は、ドアを開けた瞬間に一変する。
「S 680ガード」は、約200kgの重量を持つドアの中に、窓を緊急に開けるためのアキュムレーターとコンプレッサーを内蔵している。
アクチュエーターは、ドアの開閉をサポートし、坂道でも重いドアが所定の位置に留まるようにする。
後部座席のチェック。
このモデルでは、自律運転は用意されていないが、広さと豪華さは、再び「Sクラス」ロングホイールのレベルに達している。
冷蔵庫、ヒーター付きマッサージシート、後席インフォテイメントなどは「Sガード」にも搭載されている。
ただし、ガラスルーフやヘッドライナーのジェスチャーコントロールなどの一部の装備は、安全性の理由から用意されていない。
V12の燃費は、その重量のためにトラックと同程度になっている
フロントシートに移動する。
ここでもSクラスの雰囲気が漂っている。
唯一の違いは、センタートンネルにインターカム&シグナルシステム、サイレン、エマージェンシーベンチレーション、消火器のボタンが設置されていることだ。
厚い窓にもかかわらず、外の景色はほとんど損なわれていない。
ボタンを押すと、6リッターのツインターボV12が動き出す。
この612馬力のエンジンは、「Sマイバッハ」にしか搭載されていないが、「Sガード」ではどうしても必要なエンジンだ。
4.2トンの装甲セダンは、小型トラックと同等の重量がある。
したがって、燃費もトラック並みのリッターあたり5.1kmというものだ。
Sガードの重量への対応が印象的
この車は、運転していて、とにかく感動することが多い。
これは主に、1メートル走るごとに感じられる重量感によるものだ。
830Nmのトルクが、全輪駆動の巨人を、力強く前進させることには、純粋に感銘を受けた。
コーナリングの前には、ブレーキがメガメルセデスを圧縮し、サスペンションの支柱からボディを引き剥がすような感覚に陥る。
高速コーナーでは、車全体が大きく傾き、4輪が外側に押し出される。
特にステアリングがギザギザになっているときは、当然ながらアンダーステアがかなり顕著になる。
コーナリングでは、タイヤがグリップを発揮できるように、緩やかにターンインする。
すると、意図したコーナリング半径でもちゃんと動くようになる。
しかし路面に凹凸があると、ボディが長く揺れるので、穏やかなうねりの中のヨットを連想させる。
タイヤがパンクしても、走行時にはほとんど違和感がない
肝心なのは、ガードが限界まで達しても、常にコントロール可能な状態を維持していることだ。
たとえタイヤがパンクしたとしても・・・。
それを実証するために、メルセデスの技術者が左フロントタイヤの空気を抜いて、再びコースに送り出してくれた。
確かに、80km/hまでは通常の直進時とほとんど変わらない。
カーブでは、ターンインが、やや不明確になるものの、それでも十分にコントロール可能だ。
そして、このタイヤが緊急時には命を救うことになる。
この特別仕様車はカスタマービークル(特別受注車)であり、ベースプライスは45万7,100ユーロ(約6,000万円)となっている。
以前からこういった装甲仕様のリムジンというのは、メルセデス・ベンツやアウディなどに(ちゃんとラインナップとして)準備されているし、日本ではセンチュリーなども開発段階からこういう装備が装着されることを想定して開発されているのだそうだ。
だが、今まで、こういった装甲仕様のクルマのインプレッションを読んだことはほとんどなく、そういった意味でも今回のレポートは興味深い。まあ考えてみれば当たり前で、どのような装備がなされているかのネタバレをしてしまえば、その欠点を攻撃されかねないのだから、公にすることは希なわけである。
今回のレポートによれば4トンにもなるメルセデス・ベンツSクラス。そりゃあこれだけ重かったら重厚で乗り心地もいいでしょうね、と感じた(戦車の乗り心地というのは、10トン以上の重さのため実に良いそうである。エンジンの振動と音を除けば、だが)。
しかしこういう防弾装備を装着すると、4トンになっちゃうのか・・・。と、当たり前のことに驚くと同時に、007が映画で見せるアストンマーティンのような走りは無理も無理だよなぁ、とつくづく感じた。
自分がテロリスト集団にも、スペクターにも狙われないような小市民で本当に良かったとつくづく思う。
Text: Moritz Doka
加筆: 大林晃平
Photo: Daimler AG