【ひねもすのたりワゴン生活】9日間、2000㎞のぐうたらワゴン旅 その2
2021年10月3日
自由な9日間というプレゼント。さぁ、どうする?
昨年の春、ちょっとした巡り合わせから、そんなことを改めて実感する旅が転がり込んできた。家人が、年度内に残った有給休暇を消化しなければならないといい、少なくとも9日はなんとかしたい様子。なかなかの長尺だ。海外に出かけることも考えたけれど、希望と条件がかみ合わず、国内でのんびりしようということに落ち着いた。
普段は、旅に出るとしても個人的な義理が関係して国内でも空路を選ぶことが多い。新幹線や電車なら、道半ばでの下車も行き先変更も可能だけど、雲の上ではそりゃ無理な話。基本的にきちんとプランに従うこととなる。
そこで、今回は夢に近づいてみようと思った。思いつきや心変わりが許される旅…ドタキャンも飛び込みもOKな旅…そのために選んだのがクルマだった。仕事では片道700㎞、800㎞のドライブも珍しくはなかったけれど、プライベートとなると長くてもせいぜい半分…。それより遠ければ雲の上をひとっ飛びとなってきた。とはいえ、その距離であっても2泊3日程度だったら、宿の滞在時間を除けば旅のかなりの部分が移動に費やされる。10年ほど前に、そんな日程で秋田県の八郎潟に向かったことがあって、関越道で日本海に出て酒田まで走り、そこで1泊。翌日海沿いを走り、鳥海山を経て八郎潟を目指した。無理な行程ではなかったし、楽しい3日間だったけれど、やはり全体に占める移動時間は小さくなかったし、思いつきでふらりふらりと過ごす旅でもなかった。
今回は9日間。時間は充分過ぎる。どう寄り道しようが、心変わりしようが、つじつまを合わせることができる。心が躍った。
行き先は西に決めた。以前、取材で出かけた瀬戸内の小さな漁港が心に深く残っていたからだ。地方創生なんて言葉が飛び出し、担当大臣が生まれた頃、「自動車の旅で地方創生を」なんてお題が降りてきて一冊にまとめたのだが、その取材先のひとつだったのである。
岡山県の小さな港町…目の前は瀬戸内海で、コンビニも信号もない鄙びた温かな光景と、ゆっくり流れる時間が心地よかった。明石に勝るとも劣らないタコの産地であり、紙のように薄い名物ワカメでも知られていた。港では仕事を終えた若い漁師たちが缶コーヒー片手に談笑していて、通りかかると会釈をしてくれた。
その思い出を胸に、あっちにふらり、こっちにふらりと寄り道しながらの旅なんて考えただけでわくわくした。長距離移動を身上とする我が相棒にも、久しぶりに真価を発揮させてやりたい…と思った。
とはいえ、いくら思いつきで気ままに走るといっても、これだけの長旅だから、最後の目的地と途中の宿泊先はかなりざっくりと決めておくことにした。行ってみたら宿が取れずに車内泊というのは避けたい。大きなワンボックスならまだしも、我が相棒はステーションワゴンである。Lサイズとはいえ天井も低いし、この歳ではちょいと辛い(笑)。ゆっくりと風呂に入り、布団にゴロリとなりたかった。
最終地点は、前記の港町に決めた。東京からまっすぐ向かえば700㎞…ナビに入力すると8時間と出た。その楽しみを9日という時間をかけてどれだけ膨らませられるか、まさに思いつき&ぐうたら旅の真骨頂である。
結果を先に言えば、岡山を目指したはずが、気分にまかせ、ステアリングを握っているうちに広島まで足を延ばすことになってしまったのだけれど…それはある意味でこの旅ならではの正解だったと思う。
【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。
【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。