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【クラシック オブ ザ デイ】このワーゲンの中にはW8エンジンが潜んでいる「VWパサートW8」物語

2021年9月26日

VWパサートW8の魅力とは?フェートンがまだ出ていなかった2001年、VWはお行儀のいいパサート(B5)に、排気量4リッター、275馬力のパワフルなW8を搭載して市場投入していたのだ。クラシック オブ ザ デイ!

ポルシェは300km/hに達するパフォーマンスで当然のように知られていても、「VWパサート」のような落ち着いた兄弟車のハイパフォーマンスモデルはあまり知られていない。しかし、マッスルカーのような評価を受けていた「パサート」もあった。2001年9月から2004年9月まで、フォルクスワーゲンは、「パサートW8」を販売していたのである。VWモデルとは想像できない、8気筒、4リットルの排気量、275馬力のスポーツモデルだ。

eBay上でVWパサートW8が販売されている

クルマオタクにしてエンスージャスト、そして、ガソリンヘッドでもある、フェルディナント ピエヒ氏(ポルシェ博士の孫)の贅沢かつ多少無謀な要求に応え、フェートンの待ち時間を短縮するために、VWのエンジニアは、2001年に新設計の4リッター8気筒W型エンジンを、「パサート」のボンネットの中に、文字通り詰め込んだ。このエンジンは、その特異なデザインのため、古典的なV8とは異なる走りをする。

コックピットの様子: 本革張り、ナビ、ティプトロニックも装備され、このウッドと本革の組み合わせだとかなり上級に見える。

音はどちらかというと6気筒エンジンに近く、骨太な加速はない。これは多くのメディアのテスターたちからも批判された。「W8」は、「BMW 540i」や「メルセデスE430」といった、既存の競合車にはかなわず、0から時速100kmまで7.9秒と遅れをとっていた。しかし、「パサート」の他のモデルと比較すると、W8は明らかに際立っていて、別格のモデルとなっている。

隙間なくピッタリとフィット:パサートB5のエンジンベイに複雑なW8がギリギリ収まっている。

今日、「VWパサートW8」は、アウトサイダーとしての魅力を放っている。外見上の特徴は、小さなエンブレムと4本出しのマフラーだけだ。フォルクスワーゲンに大排気量エンジンは似つかわしくないというネガティブイメージが邪魔をして「スーパーパサート」は、結局失敗したのである。そのため、3年間で2,359台しか売れずに終わり、後継モデルも作られなかった。

「パサートW8」を持っていた人は、再び評価されるまで長い間乗る必要があった。今、その希少価値が認められ、価格はゆっくりと上昇している。ただし、修理は非常に高くつく。例を挙げるとW8エンジンのカムシャフトフェーザーがストライキを起こした場合だけでも、4,000ユーロ(約52万円)以上かかる。

そんな「W8パサート」、日本にもちゃんと導入され、路上でみかけたことも結構ある。ということはこのクルマを理解し、購入した層もいるというわけだが、なかなかしぶい、というか、エンスーなチョイスと言わざるを得ない。見る人がみれば、たしかにこれはW8エンジンを積んだ特別な「パサート」であることがわかるし、乗ってみればエンジンのスムーズさや静かさなどは別格のクルマなのだろう。

だが、これはあくまでも地味な「パサート」であり、フォルクスワーゲンの中のラインナップであるというところが、いくらW8エンジンを積んで、豪華な内装にしたとしても、やはり厳しいものがある。同じように「フォルクスワーゲン フェートン」も理解されないままフェードアウトしてしまったが、やはり豪華で高性能で高価なフォルクスワーゲンという車種は難しいのであろう。それでも(まだ本当にたまにではあるが)、街でW8エンジンを持ったパサートを見ると、世界でもまれなW8エンジンを積んだ車なんだ、と、ちょっとピエヒのことを思い出す、そんな懐かしいセダンである。

Text:Malte Büttner, Matthias Techau / 加筆: 大林晃平
Photo:Toni Bader / AUTO BILD