まごうかたなきランドローバー  新型ランドローバー ディフェンダー110

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発表されて以来、常にバックオーダーの山状態のランドローバー新型ディフェンダー。今回は2021年に追加された、ディーゼルエンジンモデルの最上級グレードであるディフェンダー110 XD300に乗って、雨の東北道を北へ向かった。

今もっとも気になる一台

新型「ランドローバー ディフェンダー」が出た時は、それはもう、ありとあらゆる意見が飛び交ったものだった。いわく、「昔のディフェンダーと全く違う」、「ディフェンダーって名前じゃない方が良かったのではないのか」、「フレーム辞めちゃうなんて、ありえない」、「幅が1995㎜もあるなんてデカすぎ」などなど。
しかしそんな言いたい放題の外野の意見などどこ吹く風のように、「ディフェンダー」は、最初のロットを瞬間的に売約済みにすると、その後には、長いオーダーリストの列ができた。そして今でもそのオーダーリストの厚みは増え続けているという。
最初はああだこうだ言っていた、口の悪いことで知られるモータージャーナリストたちも、実際にディフェンダーに触れ、その圧倒的な性能と快適さ、そして粋な佇まいに触れると絶賛の嵐になったことは言うまでもない。そういう私でさえも、「ディフェンダー110」にディーゼルエンジンの載った110XD300というモデルを実際に試乗してみた今、数多く魅力的なラインナップが並んだランドローバーの中から、自分で一台選ぶとしたら、絶対にこれしかない、という思いである。
その姿も、実際に運転してみても、パッセンジャーとして乗っても、快適で安心感抜群で、一番ランドローバーらしいランドローバーはこれだ、という感想を抱いた。そして車を返却する時には、前述の意見の中の「ディフェンダーという名前じゃないほうが良かったのかも」という意見に対する答えも、くっきりと頭に浮かんだのである。

小道では1995mmという幅は意識するが、四隅の確認がしやすいのはランドローバーに共通する美点だ。

私自身の個人的なことを語って申し訳ないが、20年以上前に初代レンジローバーを数年間所有していたことがある。5万km以上走った、並行輸入された中古車で、中期モデルのカウンティ、ATだった。何回か修理を必要とするトラブルはあったものの、その佇まいと、独特の乗り味は、この車だけのものであった。そう、このレンジローバーだけの世界がそこにあったからこそ、魅力的だったのだと思う。
そしてその当時も、もっと昔からも、常にディフェンダー(という名前になる前からも)は、頭の中で気になっている一台なのである。

そんなランドローバーのファンである私に、今回試乗が許された車は「ディフェンダー110X 300D」という、2021年から追加されたディーゼルエンジンのモデルの最上級版で、本体価格でも1,171万円、試乗車はサードシートなどなどをオプション追加装備し1,304万円ほどにも達したディフェンダーであった。これまた個人的には「ディフェンダー」は、ディーゼルエンジンのモデルに尽きる、と思いつつも1,300万円という価格を聞かされると、やや現実感が遠のくが、その内容を見ると、高いのも仕方ないかと納得する以上のものがある(それでも、「ディフェンダー90」などで、もう少しカジュアルな内容の、700万円くらいのディーゼルエンジンのモデルがあったらなあとは思ってしまうが)。

古い英国車と。こういう緑の上がディフェンダーに似合うのは間違いないシチュエーション。

今回はご自慢の装備であるクリアサイトグランドビューも、オールテレインプログレスコントロールも試すことのないまま試乗は終わってしまったが、その伝説的な悪路走破性は疑う余地もない。
それよりも感動したのは街中での、通常走行における洗練性で、素晴らしく上質でセンスの良い室内で運転していると、もはやどのような我慢もエクスキューズもまったく不要だ。ディーゼルエンジンであることさえ忘れてしまうような洗練された滑らかさと、実用的にも優れた燃費(燃費計は常に二けたを表示していた。2.5トンの車重を考えれば優秀だと思う)、そして「X」だけに標準装備されるエアサスのもたらす、どっしりしていて、滑らかな乗り心地には、悪いところを指摘するところはない。
あえて重箱の隅をつつけば225/60R20というオプションのタイヤだけが、やや立派なタイヤに感じられ、これがもう少しだけ細く軽く、小さいインチタイヤだったらとは思ったが、それでもドタドタするようなネガな印象はほとんどなかった。つい、昔の「ディフェンダー」はサスペンションのゆさゆさした挙動や、ディーゼルエンジンの振動で、肩のコリがほぐれたのにのう、と爺さんのような戯言さえ浮かぶ。

オレンジ色のキャリパーのついたブレーキと、電子制御エアサスペンションと、連続可変ダンパーの組みあわされた「アダプティブダイナミクス」がどんな働きをしているのかなど想像もつかないまま、圧倒的に快適な室内に収まって移動していると、自分がなんでもできるかのような勘違いと、豊かな人間になったかのような誤認さえしてしまう。そしてそれは、かつて少しだけ試乗させていただいた「昔のディフェンダー110」とはまったくの別天地、これほどまで同じ名前を保ったままで、フルモデルチェンジにおいて変わった自動車があったかというほどの違いを感じる。

そしてそれはあえて近似性を保ったまま、できるだけ見た目も乗った雰囲気も前のモデルに近づけようと努力して、フルモデルチェンジした「メルセデスベンツGクラス」と対極的な世界でもある。21世紀の今、どちらが新しさを描いているかといえば、間違いなく「ディフェンダー」だろう。
オリンピックで、ひたすら古式ゆかしい重量上げや砲丸投げで金メダルを目指しているのがゲレンデヴァーゲンなら、BMXやスケートボード、フリークライミングで金メダルの高みを目指すのが「ディフェンダー」、そんなことを考えながら雨の高速道路をひたすら滑らかに試乗した。このたおやかな乗り味はすべてのランドローバーに共通する美点だし、長距離の移動にも快適という言葉しか思いつかなかった。

BPやカストロールのロゴが似合う。ちょっといかつい顔つきだが、表情自体は優しい。
素材の使い方に洗練さが溢れる室内。部分的に使用されたウッドの上品さと、それを停めるためにあえてネジを露出させたディテールに注意。
リアランプを点灯するとさらに表情が豊かになる。ちょっと目立つ赤いフックはオプション。

レンジローバー2020って名前じゃダメですかねぇ

車幅と車高を気にしない環境であれば、日常使用でも馬脚を現すことは何もなく、今回はまったく試せなかったものの、オフロード性能は僕などが限界を知ることができないほどの高みにあり、さらにその佇まいになんとも魅力のあるランドローバー…。それは何かと聞かれれば、初代「レンジローバー」そのものなのではないか。そもそも初代の「レンジローバー」は、「ディフェンダー(という名前がつく前のことだ)」では、ハードすぎて、高速で移動できないという弱点を克服するために、高速道路も領地の中の悪路も走行することのできるオールマイティーな乗り物として、スペン キング氏が生み出した4輪駆動モデル(初代レンジローバーにはSUVなどという呼び名をつけたくない)であるというのが定説である。

であるならば、今回の新しい「ディフェンダー」は真の意味で、「レンジローバー」そのものではないか。シンプルで美しくデザインされたダッシュボードにもどことなく初代の「レンジローバー」の影が見えるし、ステアリングホイールの形状も(それは、あえて意図したともいえるが)、初代「レンジローバー」に似ているようにも見える。高速道路を一切の不安なく走る「ディフェンダー」の室内で、「これこそが21世紀のレンジローバーの姿」なのだと思うと、とても嬉しい気持ちになった。そう思うと、どことなく直列6気筒エンジンのフィーリングさえも、初代「レンジローバー」のV8に近いものを感じてしまった、というのは昔から、「ランドローバー」に限りない憧れを抱いているが故の、依怙贔屓判断だろうか。

60年を隔てた英国車2台。こうしてみるとジャガーマークⅡの小ささが際立って見えるが、これはレンズのトリックで、実際にはこれほど違わない。

Text & photo: 大林晃平