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電動Sクラス「メルセデスEQS 580 4MATIC」に初試乗 その走りと性能と乗り心地と使い勝手をフルレポート

2021年8月22日

新型メルセデスEQS 580 4MATIC初テスト。それは、まるで別の惑星からやってきたかのように、メルセデスEQSは高級セダンの定義を塗り替えた。メルセデスEQS 580 4MATICは、これまでにないラグジュアリーセダンだ。豪奢で、驚くほど速く、そして高い快適性を備えている。初試乗&フルレポート!

ダイムラーが自動車を発明したことは、よく知られている事実だ。今回の「EQS」でも、ダイムラーはそれを実現したようだ。その前に、なによりもまず、クリアにしておかなければならないのは、「メルセデスEQS」は、まったく新しい純粋なEプラットフォームをベースに作られており、「Sクラス」を電動化したものではないということだ。印象的なデザイン面では、フロントからリアまで一気にボディがストレッチしている。緻密な微調整の結果、Cd値は0.20と信じられないほど低く、現在、これを超える市販車は存在しない。

豪華客船のインテリアデザインには目を見張るものがある

フロントフードが開けられなくなってしまったなど、今後はそんなことに煩わされてはいけない。せめて、ウオッシャータンクに水を入れることは許されている。そのために、左フェンダーにフィラーネック付きの小さなフラップが設けられている。リアには、これも高級セダンとしては珍しい大きなテールゲートが備わっている。

「EQS」の全長は5.22メートル、全幅は1.93メートルで、それに応じて提供されるスペースも贅沢なものになっている。そのラゲッジコンパートメントも、610~1770リットルと、やはり巨大だ。
インテリアは、「壮観」の一言に尽き、アンビエントライトを使えば、64色のカラーバリエーションが可能となっている。最も印象的なのは、幅1.41メートルのハイパースクリーン(EQS 580に標準装備)で、共通の曲面カバーガラスの下に3つのスクリーンを備えている。運転席に12.3インチ、中央に17.7インチの有機EL、助手席に12.3インチの有機ELという組み合わせだ。ただし、それらは、実際に人が乗っているときにしか点灯しない。

「EQS」のパフォーマンスは、スポーツカーに匹敵するものだ。また、ドライバーが勝手にそこに視線を向けた場合(いずれにしても安全のためにカメラが監視している)、そこにあるスクリーンはそっと隠されるようになっている。すべてのディスプレイには、鮮やかな色彩が施されており、中央のタッチスクリーンでは、膨大な数の機能を広範かつ論理的なメニューで操作することができるようになっている。

典型的なEVは、スムーズかつ強力に、そして静かに加速する。

「EQS 580」には、自社開発の107.8kWhの新型リチウムイオンバッテリーが搭載されている。航続距離は最大で676kmに達するという。単純に考えても、これは新たなベンチマークとなるだろう。しかし、実際の航続距離はまだ確認中だ。いずれにしても、最初の試乗では、「EQS」は、最大290kWの充電を可能にする優れたリカバリー機能で注目を集めた。急速充電ステーションでは、最大200kW充電となる。「EQS 580」は、フロントとリアに2基の電動モーターを搭載し、合計524馬力を発揮する。これにより、「EQS」の0-100加速タイムは、4.3秒という驚異的な走行性能を実現している。また、スムーズで強調された静かな加速は、EVの典型だ。そして、「EQS」では、すべてが他のどのEモデルよりも、強く、速く、静かに体験できる。

信じられない: EQSは、停止状態から4.3秒で時速100kmまで加速し、さらにコーナーもきれいに曲がることができる。5ドアハッチバックモデルであることに注意。

シャシーの多くの要素は、Sクラスから引き継がれ、再チューニングされている。リアアクスル式のステアリングも採用されており、試乗車はステアリングの角度を10度に設定して走行した。その結果、2.6トンの「EQS 580」は、信じられないほどの安定感、充実感、力強さがあり、敏感だが弾力性のあるサスペンションを実現している。「Sクラス」よりも、むしろ、驚くほど扱いやすい「EQS」は、ドライバーのためのクルマだ。その理由は、フィードバックのある、素晴らしく正確なステアリングにある。正確な価格はまだ発表されていないが、「Sクラス」は97,806ユーロ(約1,290万円)からなので、「EQS」がそれ以上であることは間違いない。

テクニカルデータ: メルセデスEQS 580 4MATIC
● パワーユニット: 永久磁石式同期機×2基 ● システム出力: 385kW(5245PS) ● 最大トルク: 855Nm ● バッテリー容量: 107.8kWh ● 駆動方式: 全輪駆動、オートマチックエントリー ● 全長×全幅×全高: 5216×1926×1512mm ● 乾燥重量: 2585kg ● トランク容量: 610~1,770リットル ● 0-100km/h加速: 4.3秒 ● 最高速度: 210km/h ● 電力消費量: 18.3~21.4kWh/100km ● 航続距離: 676km ● 充電時間: 31分で80% ● 価格: N.A.

結論:
「メルセデスEQS」は、電気自動車の新しいベンチマークとなるモデルだ。技術的に卓越しており、華やかなデザインと、印象的な走行性能を備えている。あとは、実際の航続距離が気になるところだ。
AUTO BILDテストスコア: 1-

「メルセデスEQS」は、一言で言ってしまえば、「SクラスのBEV」なのだが、意外だったことがいくつかある。ひとつはボディデザインで、「Sクラス」とは異なったデザインになると言われてはいたが、5ドアハッチバックになるとは思わなかった。空力的な要素とか、こちらのほうが未来的、とか、理由はいろいろあるにせよ、3ボックスのセダンで出るとばかり思っていたのに、やや意外である。普通のセダンのほうが、官公庁とか、大企業のカンパニーカーとして重宝されるとも思えるのだが、ヨーロッパではこのクラスであっても、ハッチバックでも違和感なく受け止められるのであろうか。

というのも、このクラスの官公庁の車とか大企業のカンパニーカーとして「EVは必須」としたほうが世の中に理解されやすく、普及も高まるのではないだろうか。日本でも霞が関界隈のショーファードリブンカーは、EVにすべし、としてしまえば、無駄なアイドリングで、ご主人様を待っている黒塗り車も、少しはましな光景になるのではないかとも思う。そうした時に、この形でいいのか、というのがややひっかかる。空力的で未来的だったとしても、なんとなく大きいだけのイルカみたいな形で、メルセデス・ベンツ最上位BEVとしてはなんだか物足りない。

もう一点は航続距離が予想よりも少なかったことで、いっそのこと、航続距離1,000km以上の性能を(たとえ高価ではあっても)持たせた方が良いのかもしれない。まだまだそこまでは難しい問題が山積なのかもしれないが、メルセデス・ベンツの最高峰BEVなのだから、分かりやすく、思い切った性能を持たせた方が良かったのに、とも思ってしまうのだが。

Text: Dirk Branke
加筆: 大林晃平
Photo: Daimler AG