サマースペシャルその2 こんなアイコンビーチカーあるの知ってましたか? シトロエン メアリ物語

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太陽とビーチのクラシックカー: シトロエン メアリ

ボンジュール、メアリ! アヒル(Duck=2CVの愛称)は、こんなプラスチック製のスケスケのドレスを着ているときほど、幸せそうによちよち歩いていることはなかった。今でもシトロエン メアリは、乗客や一般の人々を魅了する。

「アクリロニトリル ブタジエン スチレン(ABS)」というと、なんだか難しそうだ。
化学者や材料科学者は、これを合成ターポリマーと呼ぶ。
簡単に言ってみればプラスチックだ。
何はともあれ、この素材はまったく無害である。
このプラスチックを通常、ABSと呼び、いろいろなものが応用されている。
例えば、「レゴブロック」などがそうだ。
そして、「シトロエン メアリ」。
しかし、過去にドイツで「メアリ」が簡単に燃えてしまうために販売できなかったという伝説は、伝説にすぎないという事実は変わらない。
「ABS」は特に燃えにくいからだ。
柔らかくなって溶け、摂氏400度以上になって初めて発火し始めるのだ。
そして実際に「メアリ」が燃えたという話は誰も聞いたことがない。

このプラスチック製のシトロエンのデビューは波乱の幕開けだった。
シトロエンは1967年、大西洋岸のリゾート地ドーヴィルのおしゃれなゴルフコースで小さなオフロードカーを発表した。
楽しそうなこの車は、基本的に「2CV」のプラットフォームのフレームとABS製のボディで構成されていた。
「メアリ(Méhari)」という響きは、特別な種類のドロメダリー(ヒトコブラクダ)を意味している。
しかし、これは外人部隊の悪名高いラクダ乗り部隊の名前でもある。
このことからもわかるように、「メアリ」はその見た目に反して非常に重要な意味(ミッション)を持っていたのだ。
このような自動車の有用性と魅力を説明するために、シトロエンは「メアリ」をあらゆる状況で見せるカラフルなパンフレットを作成、印刷し、配布した。
ビキニの女の子を乗せたサーフモービルとして、市場で野菜の箱を乗せて、港で釣り道具を乗せて、ゴルフのキャディーやミルク缶のトラックとして、趣味の世界でも、実用的に役立つ働き者という面のアピールに努めた。
それでもまだよくわからないという方には、「メアリ」での実際の旅をお勧めしたい。
ただ、どこで?
よく知られているように、ドイツにはあまり「メアリ」がいない。
幸いなことに「メアリ」が他の国よりも多く残っているオランダは、実はドイツの隣にある。
そこでは伝統的に人々はリラックスして、ボディ素材の可燃性に関しても安心し、使用し、楽しんでいる。

ソフトトップの有無にかかわらず、メアリの運転は非常に空気のようなものだ。

我が編集部の先輩の記憶によれば、「メアリ」は昔から北西部の隣国の人々に人気があり、たとえば砂丘バーのビール運搬車として活躍していたそうだ。
アイントホーフェン近郊のボアードンクに住むアド ファン デン ホルストさんは、アヒルの飼育に精通しており、彼の庭にはドイツのインターネット取引所では賄いきれないほど多くの「メアリ」が置かれてある。
彼はそのうちの1台を貸し出してくれた。
それはオレンジ色で、「キルギスオレンジ」と呼ばれている。
レンタカーに転用される前は、収穫用のタクシーとして使われていたようだ。
職員はキーを渡し、コックピット内の操作説明に従うようにと言う。
そして、我々にアドバイスする。
「ゆっくりと変速するのは、ギアと変速歯がお互いに歩み寄る時間を十分に確保するためです」、と。
そしてそれは「2CV」と同じだ。
我々はスローかつやさしくシフトチェンジをして、庭をゆっくり後にする。
特に2速から3速にかけてのトランスミッションでは、杖のシフトレバーの操作に神経を使う。

パンフレット(説明書)に記載されている「nutty load」とは、可能な積載量のことで、メアリの場合は380kgだ。

気性は穏やか

我々の借りた「メアリ」からは、ルーフが事前に取り外されていたが、これは本来ならば大家族用のテントを解体するのと同じくらい時間がかかる作業だ。
だから、ドイツ人は誰も「メアリ」を買おうとしなかったのかもしれない。
いくつかのボタンは、アヒルのタコメーターの周りにゆるやかにまとめられており、エアベントもある。
28.5馬力のすべてが稼働しているわけではないようで、オランダの田舎道ではいつの間にか30トンのトラックが威嚇するように近づいてくる。
「最高速度90km/h」と一応取扱説明書には書かれているが、そんなこと余計なお世話である。
なぜなら、長い距離を走っても、スピードメーターの針は80と90の間で止まったままだったからだ。
だからこそ、数メートル走っただけで、ある種のアヒルのようなものに乗っている感覚に襲われるのかもしれない。
だがアヒルはちゃんと動く。
ゆっくりと、そして大きな音を立てて。

ステアリングコラムの左側にはイグニッションロック、右側にはパーキングブレーキと杖型のギアシフトが配置されている。基本的なレイアウトは当たり前ながらシトロエン2CVと同じ。この自動車は言ってみれば、エンジン、4つの車輪、シート、ステアリングという必要不可欠なものだけで構成されている。もちろんステッキタイプのサイドブレーキつき。

オランダの北ブラバント州の(刺激のない)カントリーロードを20km走ることは冒険の旅だ。
そして運転の楽しさは、スピードとはほとんど関係がないことを思い出す。
しかし、運転のセンスは非常に重要だ。
「メアリ」は、見た目こそ楽しい車だが、実際には決してファンカーではない。
また、ビーチカーでもない。
ブレトンの漁師、南仏のワイン生産者、パリの八百屋など、ABSボディの「2CV」を買う余裕もなく、当時本当に必要としていた人たちのために作られた、誠実な働き者だ。
だからこそ1968年から1987年の間に、約15万人もの人々が購入したのだ。

ヒストリー

1968年、シトロエンはABS製のシンプルなボディとシンプルなソフトトップ構造を持つオープンモデルの「メアリ」を生産した。
そしてこの車はちゃんと成功した。
1987年までほとんど変更されることなくシリーズ化され、この期間に約14万5000台が生産されたのである。
またフランス軍をはじめとする政府機関も「メアリ」を使用している。
しかしドイツでは公式には販売されておらず、わずかな台数がドイツに輸入され、登録機関の許可を得ただけである。

更に、1980年から1983年にかけては、1,200台の「4×4メアリ」が生産された。
ツインエンジンの「サハラ ダック」とは対照的に、フロントエンジンで全輪駆動の「メアリ」はパートタイム4輪駆動を備えていた。
1973年から1979年にかけて、シトロエンは第三世界での使用を目的としたスチール製ボディの同様の車両、「ファフ(FAF)」を製造した。
FAFとは、「Facile à fabriquer(製造が容易な)」の略語だ。
そしてこのアイデアは実行され、ベトナム、チリ、ギリシャ、ポルトガルなどで2CVをベースにした同様の車両が製造されていたのである。

スピードメーターは120km/hとあるが、それをメアリが達成できるのはせいぜい急な下りの坂道だけだろう。そしてそんな無茶をした場合ブレーキが心配だ。メーターはスピードと燃料系のみ(空冷なので水温計はもちろん不要)。シフトパターンももちろん2CVと同様なことがわかる。

プラス/マイナス

メアリの最大のマイナス点は、最大のプラス点でもある。
このプラスチックのアヒルよりもオープンな車はほとんど存在しない。
ドアはなく、フロントガラスが折りたたまれている状態では、エアロダイナミクスというものはほとんどない。
ルーフを全開にし、サイドウィンドウを装着しても、「メアリ」は非常に強い風が室内に吹き込むため、悪条件の気候には非常に限られた範囲でしか適合しない。
もちろん、運転して楽しいことに変わりはない。
さらに、堅牢で信頼性の高い「2CV」テクノロジーは、日常的な使用に十分に適しているが、錆びやすいフレームの場合はそうとは言い切れない。
2気筒ボクサーエンジンの低燃費も時代の流れに沿ったものだ
プレミアムガソリンでリッターあたり16.6kmの走行が可能からだ。

「ダイアン6(Dyane 6)」の2気筒エンジン(容量602cc、28.5馬力)がメアリを動かしている。

スペアパーツ

「2CV」が広く普及していたおかげで、「メアリ」のパーツの供給は、現代でも他のほとんどのクラシックカーよりも優れている。
ほとんどすべてが揃い、ABSボディの新品でさえ、「メアリクラブ カシス」で入手できる。
そのため、新しいパーツから完全なメアリを一台まるごと簡単に作ることができる。
ただし、登録のためのシャシー番号が一致しなければならない(つまりベースとなる2CVは、一台必要ということ)。
ボディは約2,000ユーロ(約27万円)から、プラットフォームフレームは550ユーロ(約7万3千円)からと、非常にリーズナブルな価格レベルも人気がある。

テクニカルデータ: シトロエン メアリ
● エンジン: 2気筒ボクサー(水平対向)エンジン、空冷、フロント縦置き ● 排気量: 499cc ● 最高出力: 28.5PS@5750rpm ● 最大トルク: 39Nm@3500rpm ● 駆動方式: 4速MT、前輪駆動、カムシャフト1本、平歯車による駆動、1気筒当たり2バルブ、ソレックスキャブレター1基 ● サスペンションシステム: インディペンデントサスペンション、フロント=フリクションダンパー、リア=テレスコピックダンパー ● タイヤ: 125×380ミシュランX ● ホイールベース: 2400mm ● 全長×全幅×全高: 3520×1530×1640mm • 乾燥重量: 570kg ● 最高速度: 115km/h

市場の状況

「アヒル(2CV)」の価格と同様、「メアリ」の価格も近年爆発的に上昇している。
非常に状態の良い車であれば、1万ユーロ(約134万円)をはるかに超える金額が必要とされることもあるが、通常は5,000ユーロ(約67万円)から入手可能だ。
ドイツの市場では数が少ないものの、フランスやオランダでは、はるかに多くの車が流通されている。
非常に珍しく、さらに高価なのが「4×4」バージョンで、これは非常に少ないため、膨らんだ財布を持つ真のアヒル愛好家のためのものと言えよう。

おすすめポイント

もちろん、新しいパーツでミントコンディションな新車のような「メアリ」を作りたいという誘惑は大きい。
パーツは高価ではないし、レストアベースも比較的少額で見つけることができる。
しかし、本当の70年代のセンスは、もちろん、オリジナルの車からしか得られない。このページに掲載されている写真の個体のように、年月の痕跡を堂々と受け継いだ車こそが本物なのだ。

ノースリーブの派手な花柄のワンピースに赤いマニュキア。あードキドキするなあって感じているのは私だけ? 残念ながら左手の薬指にはまっている指輪よりも、2CVと共用パーツのドアオープナーに注意。
こういう花柄の素敵なワンピース着た女性、日本の街中や海辺で見かけなくなって久しいなあ。妙に街中が地味になってしまっていて、没個性で寂しい・・・。え? 車に関係のない話、するな!? 失礼しました。スペアタイヤは助手席の後ろのこの位置が新車からの定位置。
シトロエン2CVのオーナーにはおなじみの光景だ。目が飛び出たアヒルのキーホルダーはもちろんノンスタンダード。

前回ご紹介した「フィアット500ジョリー(ビーチカー)」に続いて、今回は「シトロエン メアリ」をご紹介したい。とはいっても徹底的にファンカーで、超限定モデルであった「フィアット500ジョリー」と違い、こちらは真面目も真面目、「軍」での任務も果たすような自動車である。同じような自動車には、「ミニ モーク」などもあるあ、いずれにしろ実用性も耐久性も持ち合わせ、ギャグや洒落目的で作られた自動車ではない。
だが登場から50年が経過した「シトロエン メアリ」を今改めて見ると、なんともお洒落でなんともかわいく、この記事に出てきたような夏服を着た女性がカンヌやニースで乗っていたとしたら、コロッといってしまうような、夏の魅力満載の自動車である。
そう、慢性的に渋滞した都内や、大型トラックのあふれる高速道路で使うべき車ではなく、地域限定で乗った時にこれ以上ない存在感を発揮する、これはそういうクルマなのである。その場合必要なのは、小さくてもお洒落な別荘かコテージ、蒸し暑さではなく乾いた暑さの空気、サングラス、そしてちょっと素敵な女性…。上記の必要不可欠なアイテムがすべてそろって初めて、ジグソーパズルが完成するように夏のこれ以上ない光景が完成する。
つまり私の今の生活にはなにひとつ適合しないのが残念ではあるが、それでも心の中では、「メアリ」はガレージの中にあったらなぁ、と夢想してしまう一台なのである。

Text: Heinrich Lingner
加筆: 大林晃平、田仏 呑
Photo: Angelika Emmerling