【名車物語その8】ポルシェファン憧れの名車 ポルシェ911カレラRS 2.7 伝説のモデルの伝説とは?

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ポルシェ911カレラRS 2.7: 1972年、ポルシェは「エンテンビュルツェル」という究極の911を発表した。この50年の間にその爽快感が薄れたかどうかが、私たちの大きな疑問だった。その答えは? 全くなし、というものだった。

コーヒーを飲むのは好きだけど、エスプレッソは苦手だ。水分が少なく、カフェインが多いと覚醒効果が高まるかわりに味が濃くなり、その上、苦味も増すからだ。

50年前、ポルシェはイタリアのバリスティが「クルゼン」を醸造するのと同様のレシピで「911 RS」を醸造し、その当時、9年ぶりに「カレラ」の愛称をモデルレンジに復活させた。190馬力の「911S」さえも味気ないフィルターコーヒーのように思える人たちのためのドライビングマシンとなったのだ。

「500人しか運転できない」という宣伝文句がそのころ発表された。このことから、我々は2つのことを思い起こす。1972年当時、“解放”という言葉はまだ外来語であった。第二に、軽量化された「911」は“単なるホモロゲーションモデル”に過ぎないと思っていた。

50年代の伝説的なキングシャフト付きボクサーの生みの親で、ポルシェの新社長となったエルンスト フールマンが、ホッケンハイムで「フォード カプリ」や「BMW CSクーペ」が「911」を凌駕するのを見て、開発に着手したと言われている。

911Sの2.4リッターバージョンに搭載されたボクサー

そいて「どうすれば魅力的なパワーポイントを実現できるのか」と彼はエンジニアに問いかけた。

その結果、レギュレーションや技術的な選択肢から、性能を上げるにはエンジンの排気量を大きくすることが重要であることがすぐにわかった。

より硬い方向へのチューニングにより、より高いコーナリングスピードを実現し、限界域を上方にシフトした。

「911 S」の2.4リッター版に搭載されたポルシェの空冷ボクサーは、まだシリンダー間の「肉」が十分にあり、問題なく断面積を大きくすることができたからである。

さらに軽量化のため後部座席は全くない。ドアパネルが取り外され、ビニールレザー張りボードになり、ドアを開けるのにハンドルの代わりに細いループが使われるようになった。

また可能な限り、負荷のかからない部分の鉄板の厚みを0.88mmから0.8mmに減らし、バンパーはスチール製からプラスチック製に、窓は通常のガラスから薄いガラスに変更された。

助手席のサンバイザー、コートフック、時計までもが排除リストに加えられたが、ポルシェの顧客が紙コップではなく磁器カップでリストレットを飲みたがっていることが明らかになったため、リストは撤回された。

車内騒音の大きさ

スリム化したスポーツタイプは、1グラム単位で争われた。「ツッフェンハウゼン市の計量所に行き、目標重量を記録しました」と、開発メンバーのウォルフガング ベルガーは振り返る。「885kgの重さのものもあれば、905kgのものもある」。いずれにしろ、それは、標準の「911 S」より170kgも軽いのだ。

しかし結局のところ、ポルシェは日常生活との親和性が高いツーリングモデルのおかげで、500台のホモロゲーションカーの代わりに、3倍の「RS」を販売することができた。たとえその代償として、「911 S」に対する重量の優位性はほとんどなくなり、走行性能は20馬力のパワーアップの恩恵を受けるだけだったとしても。

911 Sの2.4リッターから、ボアを84mmから90mmに拡大した2.7リッター・ボクサーを誕生させた。出力は190馬力から210馬力に向上。

ツーリングモデルの購入者は、拷問室のような雰囲気の代わりに、標準装備の快適なインテリアをチョイスすることができた。しかし、防音材が少ないため、標準の「911」に比べて車内騒音が著しく大きくなっている。

プロトタイプの短い試乗の後、ボスは「かなり硬い」と感じたそうだ。しかし、当時、エルンスト フールマンは、速度が上がると転がり特性が悪くなることを知らず、テスターのクラウス ウェストルップは、銃器の弾丸の速度をもじって「RSのVゼロは100だ」とボンヤリ言ってのけたが、つまりこの車は素晴らしい加速をするという意味でもある。

210馬力、240km/h

また、「カレラ」の特徴的なリアスポイラー(911では初!)を持つことにより、「ダックテール」というニックネームで呼ばれ、210馬力と240km/hは、「ドイツ最速の市販車」の称号を得るのに十分だった。しかしこのネーミングは50年前ほどには、爽快な響きではなかった。

その当時、完全停止状態から100km/hまでの加速タイムである5.8秒は、フェラーリ365GTB/4(6.1秒)をも置き去りにするタイムであった。でも、今日は?

ツッフェンハウゼンのポルシェに赴き、2022年の今日、「RS」はまだ鼓動を加速させるだけの力を秘めているのか、それとも6桁台の高額査定を受けた憧れのコレクターズアイテムとしての伝説だけの幻想であるのか、それを明らかにする必要があった。

スポーツタイプとは対照的に、ツーリングはドアパネル、カーペット、遮音性、フルサイズシートが装備されている。

鮮やかな「ライトイエロー」が目にまぶしい。GRP製のリアエプロンは、野暮ったい機能的な工業デザインではなく、まるで芸術品のような美しさだ。というのも、若い空力学者ティルマン ブロードベックが、シュトゥットガルトの風洞でその形状を計算した後、デザイナーのアナトール ラピーヌが譲歩を迫ったからだ。「スポイラーは最適とは言えませんでした」と、ポルシェの元レーシングディレクター、ペーター ファルクは後年認めている。「スタイリングも一役買っている。そのことは今日では、“幸いなことに!”」と語っていた。

さてそれでは乗ろう! キーはすでにイグニッションに差し込まれている。シートの間から、右手はコールドスタートに役立つ小さなハンドスロットルを手探りで探している。一回転すると、ガソリンのポンプが音を立て始める。続いてイグニッション。ハロー!ボクサーは、まるで目が覚めてから肺についたタールを咳払いする喫煙者のように吠え、ガタガタと音を立てる。

操作力は中程度

いよいよ出発だ。ミュージアムの入り口前にいるポルシェファンは反射的にカメラ付き携帯電話を掲げている。それはこのモデルが何かを知っているからだ。50万ユーロ(約7,000万円)近くもするクルマが転がっていく。意外なことに、操作力は中程度だ。シュトゥットガルトの市街地でのストップ&ゴーでも、クラッチ足やシフトチェンジの手に過度の負担がかかることはなく快適である。

パワーアシストないステアリングだが、ジムでの余分なトレーニングは必要ない。「911」をタフな男の車だと思っているヤツには、わからないだろうと思うが・・・。

“ライトイエロー”は、RSの標準色のひとつで、当時は追加料金なしだった。サイドのレタリングはプリントで、ホワイトの車両にはオプションでブルー、レッド、グリーンのカラーリムが用意され、カラーコーディネートされていた。

とはいえ、「RS」はハードはなことは間違いない。マンホールの蓋などを超える時、「RS」はかなり反応する。しかし高速ツーリングしながら明らかになったことは、2.7リッターボクサーエンジンは、高馬力のスポーツエンジンだけでは決してないというこだ。最大トルク255nmに達するのは、5100rpmのときではあるが、すでに3000rpmでは215nmものトルクが発揮され、エンジンの弾力性がすばらしく、ゆったりとしたシフトチェンジが可能になるのだ。もちろん、音楽が本当に鳴り始めるのは、当然のように回転数が3分の1以上のところからだが・・・。

RSはカーブに強制的に巻き込まれることを望んでいる

低いギアでは、ボクサーは本当に爆発的で、シフトチェンジについていけないほどだ。そして、5000回転からリミッターにかかる7300回転までの間に、フェリー ポルシェが言った「踏んだら撃つしかない」の意味が明らかになる。今、金切り声を上げながら怒涛の勢いで突き進む姿は、鳥肌ものだ。

流れはすぐに確立され、コミュニケーション可能なメカニカルノイズ音、集中した運転行動が、パイロットに永続的にエンドルフィンの放出をもたらす。

ドライシャシーのセットアップの優位性も明らかになった。ロールはほぼゼロ、少なくともそのように感じるが、後で写真を見ると、また違う話になる。

「RS」は無理やり曲がり、でも魅力的な横方向の加速Gをコントロール可能にする。しかしそれでもアンダーステアのクルマのままであり、強い荷重変化で誘発されるリアからの挙動をコントロールするにはかなりの勇気が必要だ。いずれにしても、運転の安全性と限界域は、1970年代初頭のどの「911」よりも高い。

省スペース&軽量。ドイツ向けの車には充填ボトル、輸出車には小型コンプレッサーが搭載されていた。

「RS」は、0から時速100kmをわずか6秒以下で達成する。スピードメーターの針が140を過ぎるまで、かろうじて10秒はあった。ストレッチの効いたギャロップでは、当初の弱点であった快適性が視野に入る。推進力はエネルギッシュなままだ。200を超えたあたりから、徐々に厳しくなっていく。しかし、その間、ドライバーは「カレラ」を走らせることで精一杯だ。

ダウンフォースを20%増加させるスポイラーの効果にもかかわらず、方向安定性は「911 RS」の高性能のひとつではない。170km/hあたりからフロントが軽くなり、縦軸を中心にふらつきを始め、轍にも反応する。

高速の田舎道は、シャシー、ステアリング、ギアスティック、貪欲なエンジン、ブレーキが完璧に調和しているので、ほとんどストレスなく走れるが、高速道路の高速直線区間は大変な作業だ。リラックスすることとは違う。「RS」のRは”relax”の略で決してない。

テクニカルデータおよび価格: ポルシェ911カレラRS 2.7
• エンジン: 水平対向6気筒、リア縦置き、空冷、機械式、フューエルインジェクション(Bosch社製)
• 排気量: 2687cc
• 最高出力: 210PS@6300rpm
• 最大トルク: 255Nm@5100rpm
• 駆動方式: 後輪駆動、5速マニュアル
• 全長/全幅/全高: 4147/1652/1320mm
• 乾燥重量: 1110kg
• 0-100k/h加速: 6.3秒
• 最高速度: 240km/h
• 平均燃費: 6.6km/ℓ
• 価格: 34,000マルク(約240万円=1973年当時)
• 現在の価格: 450,000ユーロ(約6,300万円=クラシックデータ、コンディション2)

結論:
「カレラRS」は、70年代初頭のワイルドな時代に、新たなパフォーマンスレベルに火をつけただけではない。「911」のDNAをコアに集中させることで、このモデルシリーズのさらなる進化の原型にもなった。その走りの魅力は衰えることがない。多くの人と同様に、私にとっては、これまでで最も魅力的なポルシェの1台であるといえよう。

【ABJのコメント】
今までのポルシェの中で人気投票を実施してみたならば、もう絶対に選ばれるであろう一台がこの「911カレラRS 2.7」というモデルである。日本では「ナナサンカレラ」と表現される、このもうじき登場してちょうど半世紀になるモデル、これこそが永遠の人気車両として君臨し、今では程度が最良のモデルならば、ウン億円の価格さえ散見される、そんなモデルである。

このモデルは、実はちょっとした当時の偶然のようなきっかけで生み出された一台である、とも聞くが、そういうちょっとした世の中の予期せぬ出来事から生まれた、という部分もマニアックさを増やし、さらに伝説が都市伝説を生むという相乗効果となるものなのである。今回のレポートにも記されている通り、そのドライビングプレジャーは50年を経過してもまったく衰えないばかりか、大きさ軽さという絶対的な正義で測る限り、現代のどのラインアップに勝るとも劣らない、そんなエバーグリーンのモデルであることは間違いないだろう。

また長距離を「カレラRS 2.7」で移動した人の話を聞くと、決して荒いとか、乗りにくいとかそういうことはなく、日常使用にも問題ない、とさえ言っていたことを思い出す。もちろんちょっとだけはやせ我慢も必要だとは思うが、実用性を無視していない部分もポルシェの魅力だし、そういう観点からも「911」の王道の一台がこのモデルなのではないだろうか。おそらくポルシェの歴史や人気投票が続く限り、「カレラRS 2.7」は不動のセンターグループに君臨し続けることは間違いない。(KO)

Text: Martin G. Puthz
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de