【名車シリーズ】かつての世界最速サルーンは今も輝いているか? BMWアルピナB10ビターボ物語

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360馬力のアルピナB10ビターボは、当時、まさにその威容を誇っていた。その当時の世界最速の量産型サルーンにほかならない。そんなB10は、現在も魅力的だろうか? レポート。

1980年代末、アルピナは「E34系BMW535i」にさらなるパワーとラグジュアリーを与えることに着手した。その結果、1989年から数年間、世界最速の市販サルーンとして活躍したのが、「BMWアルピナB10ビターボ」である。その最高速度は291km/hで、現在も左車線のドライバーを驚かせ続けている。特にポルシェのドライバーの間では、バックミラーに映る古い「5シリーズ」がピッタリとテールにくっ付いてくるのは何故だろうと不思議がっているようだ。1989年から92年にかけて、わずか571台しか製造されなかった「アルピナB10ビターボ」は、その存在をより一層際立たせている。

アルピナは、「BMW E34」よりも足が軽い印象だ。最初、走り始めの数メートルでは、アルピナは少し鉛のような感触を覚える。足回りは不快ではないものの、既製品の「E34」より重く感じる。それもそのはず、1,695kgという車重は、普通の「535i」よりも170kgも重いのだ。しかし、2基のギャレット製スーパーチャージャーで360馬力にまで高められた6気筒エンジンは、すぐにそれを補って余りあるパワーを発揮する。

ドライバー志向のコックピットには、ニレ材やハンドステッチ入りのレザーステアリングが採用されている。

他の多くの古いターボとは対照的に、深い谷の底から苦労して立ち上がる必要はない。2000rpmからすでに十分な加給が始まり、3000rpmからは水平線がこちらに向かって飛んでくる。パワーデリバリーは、「M5」ほど、シャープでアグレッシブではないが、その基本的な力強さは、ローリングする津波を連想させる。

B10ビターボの2基のターボチャージャーは、エキゾーストマニホールドの下、右側に潜り込んでいる。

「B10」は現在でも十分に高性能なので、ロングドライブも難なくこなす。もちろん、180km/hから急激に膨らむバックグラウンドノイズのため、コックピットでの会話は少し大きめの声でしなければならない。とはいえ、こんな旧車に近いクルマで、サーキットを飛び回ることができるのはとても魅力的だ。

テクニカルデータ: BMW アルピナB10ビターボ
● エンジン: 直列6気筒(ベース: BMW M30B35)、フロント縦置き、ターボチャージャー(ギャレットT25)2基並列配置、オーバーヘッドカムシャフト、チェーン駆動、電子燃料噴射(ボッシュ製モトロニックM1.0)● 排気量: 3430cc ● ボア×ストローク: 92.0×86.0mm ● 最高出力: 360PS@6000rpm ● 最大トルク: 520Nm@4000 rpm ● 0-100km/h加速: 5.6秒 ● 最高速度: 291km/h ● 駆動方式: 後輪駆動、5速マニュアルギアボックス(ゲトラグ製タイプ290)、25%ロック付きディファレンシャル ● シャーシ: 独立懸架式、フロント ダブルジョイントストラットアクスルおよびスタビライザー、リア スローピングリンク付きアクスル、スタビライザー、自動レベル制御ショックアブソーバー(ビルシュタイン製) ● ブレーキ: ベンチレーテッドディスク ● タイヤ: フロント235/45 ZR 17、リア265/40 ZR 17 ● 全長/全幅/全高: 4720/1751/1392mm ● ホイールベース: 2761mm ● 燃費: 8km/ℓ ● 燃料タンク: 110リットル ● 新車時価格(1992年)158,000マルク(約1,056万円)

タンクには110リットルの燃料を搭載し、アルピナB10の320km/hメーターは伊達ではない。

ボーフェンジーペン社の高級車と高級ワイン

BMWのモデルをより速くすることは、1960年代のブルカルト・ボーフェンジーペン氏(Burkard Bovensiepen)の原動力であった。当初は「ノイエ クラッセ(ニュークラス)」、その後1965年に設立された彼の会社は「02」のチューニングで名を馳せたが、成功の基盤は当初からBMWとの密接なパートナーシップにあった。1983年にアルピナが正式にメーカーとなっても、その良好な協力関係は変わらない。

70年代、ブルカルト・ボーフェンジーペンはミュンヘンの自動車メーカーの社外レース部門として、ホモロゲーションモデル「3.0 CSL」の開発などに携わっていた。やがて、ブーフローエ(アルゴエ州)を拠点とする同社は、幅広いラインナップを提供するようになった。BMWのほぼ全シリーズに、アルピナ仕様のリファインモデルが存在したのだ。最初のターボは早くも1978年末に生産され、「5シリーズ(E12)」と「6シリーズ(E24)」の「B7」バージョンは300馬力を発揮し、最高速度は250km/h以上であった。80年代、アルピナはDTMに独自のワークスチームで参戦した。現在、270人の従業員を抱える同社は、高級ワインの取引も第2の柱としている。

結論:
優れたクルマをさらに優れたクルマにするのは、簡単なことではない。現代でも、アルピナの生み出す競合製品の多くが、バイエルン製モデルよりも印象的なのは、卓越したセンスと技術を惜しみなく提供しているからだ。

アルピナは今でも十分に特別な車ではあるが、その昔、1970年代から1980年代は今とは比較にならないほど希少で、街で見かける頻度は年に数回程度、そんな存在だった。世界一のモータージャーナリストと称された元フェラーリF1ドライバーにしてルマン24時間レースでも優勝したことのあるポール フレール氏がヨコハマタイヤのCMで運転していた「アルピナB7ターボSクーペ」の姿に魂を奪われて以来、アルピナはずっと心のどこかでかなわない夢として輝き続けている、そんな存在だ。

そんな中でも特にハイパフォーマンスだったのが今回の「B10ビターボ」で、ただでさえ高性能なアルピナを極限まで高性能化した特別の中の特別な5シリーズである。言ってみれば「ルーフ ポルシェ」のようなクルマではあるが、ここまで行ってしまうと、僕には程遠いというか、別次元の話題になってしまう。スペースシャトルやしんかい6500のように高度過ぎて別の乗り物、そういう世界の自動車である。

おそらくトラクションコントロールや安全デバイスも少ない時代だったから、乗りこなすのにはかなりの度量と度胸が必要であると思われる。500馬力、600馬力、さらには1000馬力ものパワーを持つハイパフォーマンスカーが登場している今でも、この「B10ビターボ」は絶対的なパワーなど関係のない、特別なスーパーサルーンなのである。

Text: Martin G. Puthz
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de