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真にユニークなこのメルセデス600プルマン マイバッハの値段は3億円です

2020年6月7日

このメルセデス600プルマンは、「メルセデスベンツクラシック」が7年間かけてレストアしたもので、本当にユニークな1台だ。そのため、非常に希少な、そして高価な1台でもある。

このメルセデス600は極めてユニークだ!

2007年から2014年の間に、伝説の600プルマンがメルセデスベンツクラシックで一つずつ一つずつ丹精込めてレストアされた。しかし、それだけではない。前オーナーは、クラシックな外観を維持しつつ、マイバッハのモダンな内装などの豪華さを組み合わせたいと考えていた。その結果、このユニークな一台が完成し、販売されることになったのだ。

国家元首のための車

1963年から1981年の間に、メルセデスは内部構造コードW100の「600」を、あわせて2,677台製造した。そのうち429台は4ドアまたは6ドアのプルマン仕様で、当時でもその高級リムジンは、国家元首など、権力者のための車であった。現在のマイバッハよりも、ロールスロイス ファントムよりも、ずっとメルセデスベンツ600は特別で、一般の人間には縁のない世界に君臨する自動車だったのである。

今日、全長6.24メートルの600プルマンは、市場に出回っている数が非常に限られていることもあり、程度のあまりよくない車輛でも25万ユーロ(約3千万円)未満ではみつけられない。しかし、この車はとある裕福な愛好家によって、さらにその中でも特別な一台となった。

プルマンとマイバッハの合体であるユニークなリムジンを販売しているオランダのディーラー、オートライトナーによると、前オーナーは、W 100のクラシックな外観と、当時のマイバッハの最も近代的な機能と可能な限り組み合わせ、最大の贅沢を作り上げたいと考え、メルセデスベンツクラシックに依頼したという。最優先されたのは、オリジナルのデザインを完全に残しつつ、リアビューカメラや電動テールゲートなどの現代的な機能を搭載することだった。

DVDプレーヤー付き拡張可能なTV

例えば、マイバッハ57と62で利用されていた調光可能なパノラミックガラスルーフは、45年前のプルマンに適用されている。さらに、2002年から2012年の間に販売されたマイバッハのほとんどすべての高級装備がメルセデス600プルマンに移植されている。その中には、電動で調節可能な個別シート、リアの暖房と換気機能付きのシート、折りたたみ式テーブル、冷蔵庫コンパートメント付きのミニバー、DVDプレーヤー付きの拡張可能なテレビ、ヘッドライニングのお馴染みの3連メーター、すりガラス機能付きの電動パーティションなどが含まれている。

調光可能なパノラミックガラスルーフは、ヘッドライナーに追加された機器類と同様、マイバッハからのものだ。天井に備わった3連メーター(スピード、外気温などがわかる。マイバッハに同様のオプション装備があった)に注目。

正しいマッチングナンバーの備わったプルマン

インテリアのモダンテクノロジーとは対照的に、駆動系はすべてオリジナルのままだ。メルセデス600は今でも250馬力の6.3リッターV8を搭載している。そして4速オートマチックトランスミッションはオーバーホールされただけで、プルマンにはクラシックカーイベントなどで、クルマが本物であることを証明する、重要な”マッチングナンバー”が備わっている。ナビゲーションシステムやレベルコントロールなどの現代的な後付けのシステムにもかかわらず、メルセデスベンツクラシックは、45年前のW100にHナンバープレートの資格を得ることさえ可能にした。

300万ユーロ(約3億6千万円)のコスト

極めて高額な改造には7年を要し、信じられないほどの金額を消費した。売り手によると、費用は300万ユーロ(約3億6千万円)に達したという。対照的に、現在の購入価格2,150,000ユーロ(約2億5千8百万円)だが、マイバッハの内装を持つこのプルマンは、修復後1,112キロしか走行していないため、ほぼ妥当な価格と思われる。ちなみにその価格には付加価値税が含まれていないので、この600はドイツで2,558,500ユーロ(約3億702万円)となる。信じられないようなユニークな一台にして、信じられないような価格だ。

マイバッハの内装を持つプルマン。

この車の話には、2つの注目するべき点がある。

一つは言うまでもなく、メルセデスベンツクラシックが手掛けた車輛であるということで、つまりは本家のメルセデスがメルセデスベンツの純正パーツを使って作った、正真正銘のメルセデスベンツ600プルマン マイバッハであるということだ。そんじょそこらの改造ショップが手掛けた車とは存在する世界が違う。正真正銘の本物、なのである。

もうひとつ注目しておかなくてはいけないのは、エンジンや駆動系、ミッションなどを昔の600のまま使用している、ということだ。この手の、昔の車を現代に適合してよみがえらせる場合、エンジンやミッションを最新のものに変更することも多い。その方が信頼性も性能ももちろん高いだろうし、現在のV12エンジンや、V8ターボエンジンにしてしまうことだって決して不可能ではなかったであろう。

だがあえてこのクルマの前オーナーは昔のままの古い600のエンジンやミッションを使い、内装などの部分だけをマイバッハのものにアップデートした。そのバランスというか、改装する際の選択が実に良い感じだといえる(まあそれだけ昔の600の基本性能が高かったともいえるが)。

そしてそのようなバランス感覚あふれるセンスは、ほとんど当時のままのダッシュボードやドア内装のスイッチ、エアバックのない美しいステアリングホイールなどにも表れている。今のメルセデスベンツのようなメーターパネルやステアリングホイールだったら落胆してしまうだろうから。

さらにもう一点だけ付け加えておくと、上記の文章の中で「電動トランクと、電動パワーシート」に変更されている、と記されている点が大変重要だ。昔の600は、そのいずれも、さらにパワーウインドーさえも複雑怪奇な油圧システムで作動し、その部分のトラブルもメンテナンスも大変だったという。そういった面をアップデートすることにより、おそらく信頼性は各段に向上し、実用に耐えることが可能になったのだと思う。

世の中にはこういうクルマもあるんだなぁ、とちょっと感動してしまうが、なんだかんだで、4億円近い金額を聞くと、やはり自分の生きている世界とはまったく違う世界の話なのだ、と思わざるを得なかった。

Text: Jan Goetz
加筆:大林晃平